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1.ステーブルコインとは
ステーブルコインの定義については、日本と欧米を中心とする海外で若干の違いがあります。日本の改正貸金業法においては、ステーブルコインは、デジタルマネーに類似した電子決済手段であると定義しており、暗号資産とは異なるものとしています。他方世界的には、主に決済手段や交換手段として利用されることを主な目的とした、ブロックチェーン技術を活用する暗号資産のひとつとして言及されています。(ここでは、全体の説明都合上、ステーブルコインを「暗号資産」のひとつとして表現すると同時に、ビットコインなどの価値が変動する暗号資産を「仮想通貨」と表現することとします。)
ステーブルコインの価値は、法定通貨やコモディティなどの現実の金融資産の価値と連動するように設計されています。そのため、価格変動が激しく価値が不安定なビットコインなどの仮想通貨に対して、「安定している」という意味をもつ「ステーブル」という名前が付けられています。
2.ステーブルコインの種類
ステーブルコインは、主に3種類の価格価値を担保する方法があります。
一つ目は、ドルや円といった法定通貨の価値に連動(ペッグ)する「法定通貨担保型」、二つ目は、金などの安定した価値商品に連動した「商品担保型」、三つ目は、リアルの金融資産とは連動せず、他の金融資産との交換状況などのアルゴリズムによってあらかじめ定めた価値に価格を安定させる「無担保型(シニョレッジ・シェア型)」です。現在発行されているステーブルコインの多くは、法定通貨担保型が採用されています。
3.CBDC(中央銀行デジタル通貨)との違い
ステーブルコインとは別に、中央銀行が発行するデジタル通貨のCBDC(Central Bank Digital Currency)があります。ステーブルコインとCBDCの違いは、ステーブルコインが民間により開発、発行される金融サービスであるのに対し、CBDCは政府が法定通貨としての価値を保証して発行される点にあります。
CBDCは法定通貨と同一価値であるため、価値を連動させる(ペッグする)という概念がありません。
一方ステーブルコインは、特定の資産や通貨に連動(ペッグ)して価値を安定させる仕組みであるため、想定外の事態が生じると価値維持できなくなるリスクがゼロではないという特徴があります。
4.ビットコインなどの仮想通貨との違い
ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨とステーブルコインは、どちらもブロックチェーンの仕組みを利用した暗号資産です(ステーブルコインの一部には、ブロックチェーン技術を採用せずに設計されたものも存在します)。その取引の仕組み自体についても、機能面において特徴はありますが、根本的な違いはありません。
しかし、ビットコインなど価値の変動(ボラティリティ)を前提として設計された仮想通貨は、価値が安定しないため決済手段としての有用性が低く、投機商材として利用されるケースが多いのが現状です。
ステーブルコインは安定した価値を維持しやすいため、決済手段としての有用性が高い一方、価値の変動を前提とした投機商材には向いていません。
5.パーミッション型ステーブルコインとパーミッションレス型ステーブルコイン
パーミッション型とは、取引やネットワークのアクセスに管理者の許可を必要とするブロックチェーン環境です。一方パーミッションレス型とは、管理者の許可を必要としない、または管理者が存在しないため、誰でも自由にネットワークにアクセスして取引ができるブロックチェーン環境を指します。
管理者やボーダーを求めないという分散型管理システムを特徴とするブロックチェーンの機能を反映する形で、これまで米国を中心に発行されてきたステーブルコインではパーミッションレス型のブロックチェーンが用いられてきました。今後ステーブルコインが一般的な決済手段として普及するようになると、法人間(BtoB)取引などで、パーミッション型のステーブルコインが登場してくることも予想されます。特定の関係者間のみで取引される閉鎖的な環境では、参加者の制限や、取引の機密性担保が求められるからです。
6.ステーブルコインの意義
ブロックチェーン技術に基づく暗号資産は、2008年に登場した仮想通貨、ビットコインから始まりました。その後、社会経済全体のデジタル化や、インターネットやスマートデバイスなどの技術進化によって普及が進みました。世界初のステーブルコインである、テザー(Tether:USDT)は、ビットコインの登場から7年後の2015年に誕生。その後さまざまなステーブルコインが発行された結果、2023年8月時点でのステーブルコインの時価総額は18兆円を超える額まで成長しました。
2022年のピーク時には20兆円を超えていた時価総額は、およそ3年前の約1兆円から急速な拡大を遂げました。このことから、近年ステーブルコインが評価されるようになり、積極的に利用するようになってきていることが分かります。
市場がステーブルコインを重視している主な理由は、以下の3点にあると考えられています。
安全資産への交換手段
ビットコインなどのボラティリティの高い仮想通貨を保有し続けることは、価値が突然下落するというリスクを抱えることになるため、取引をしない間はできるだけ安全な金融資産へ交換する必要があります。そこで、法定通貨に連動(ペッグ)されているステーブルコインに交換すれば、価値が急変動するリスクを回避できます。
安定した金融資産という意味では、法定通貨への換金も手段としては有効です。しかし、法定通貨の換金は、登録認可された取引所でしかできず、適当な取引所の口座を開設や、取引所に対して交換の都度手数料を支払う必要があります。
一方でステーブルコインへの交換は、暗号資産間の交換サービスであるAMM(Automated Market Maker)を利用すれば、特別な申請手続きや必要以上のコストをかけることなく実現可能であり、後日再度仮想通貨へ交換を希望する場合も簡単に実行できます。そのためステーブルコインは、この点をメリットと感じる多くの仮想通貨所有者に利用されるようになりました。
迅速かつ低コストな送金手段
ステーブルコインには通貨としての機能もあります。知人同士のウォレット間で直接送金(P2P:Peer to Peer)できる点が特徴です。国境や中間金融機関を介さず、いつでも自由に相手に直接送金できる機能は、ブロックチェーンの利点の一つでもあります。また、中間がない直接取引のため、送金コストも抑えられる点もメリットです。
ステーブルコインがより多くの人々に認知され、利用されることにより、この送金手段としてのメリットは、より有利に働くことになります。
スマートコントラクトとしての機能性
ステーブルコインがブロックチェーンを利用した仕組みであることによって期待される機能の一つが、トークンといったブロックチェーンの機能を活用した金融サービスの拡張性です。
たとえば、ステーブルコインの機能に特定の条件で発生するブロックチェーン取引(スマートコントラクト)を搭載すれば、特定の日や条件の到来により決済や権利の失効などを自動で発生させたり実行させたりできます。また、その記録はブロックチェーン上に記録されるため、履歴の照会や、透明性と公平性を担保する仕組みを作ることも可能です。
つまり、単純な決済や送金といった機能だけでなく、より複雑な金融サービスを膨大なバックエンドホストシステムに依存せず、ブロックチェーン上の仕組みで解決することも可能になるのです。
これはデジタル通貨ならではのメリットであり、保管や流通といったインフラに依存せざるを得ない、現物主義の法定通貨との大きな相違点でもあります。
7.まとめ
本記事では、ステーブルコインに関する基礎知識について紹介しました。後編の記事では、ステーブルコインに関する国内外の動向を紹介し、今後の活用可能性を探ります。
後編はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2023/1109/
NTT DATAの金融業界での取り組み詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/industries/finance/
NTT DATAのブロックチェーンに関する取り組み詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/blockchain/
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