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2024.2.2事例

ハイレジリエント社会に不可欠な災害情報活用とは?
~ドローン活用の実証実験に見る防災業務の現場課題~

災害対応力の高いハイレジリエント社会の実現をめざすNTTデータは、北海道の広大な範囲の河川巡視業務における課題解決策を模索する国土交通省 北海道開発局のプロジェクトに参画。ドローンを用いた実証実験を実施し、河川巡視・点検における広域調査での有用性を確認した。ハイレジリエント社会や防災DXを真に実現するためには何が必要なのか。本実証実験を通じて見えてきた防災の今を紹介する。
目次

災害情報を現場で集めるためには人手がかかる

近年日本では、気候変動の影響を受け、豪雨災害などの自然災害が頻発化・激甚化しています。そこでNTTデータでは、災害対策にデジタル技術を適用し、災害に強いハイレジリエントな社会の実現をめざしています。レジリエントは「しなやかな」という意味で、自然災害が発生した際にも、社会が停滞することなく、即時の回復が可能な状態を指しています。
ハイレジリエントな社会を実現するためには、避難行動や行政の意思決定、地域の助け合いなど、自然災害やそれに伴う社会の混乱に立ち向かう力が必要であり、災害情報の活用が重要なカギとなります。また、災害情報を活用するためには、まず災害情報を『把握』した上で、『分析・加工』し、さらに『共有』をして、初めて『活用』ができるとNTTデータは考えています。この点に関して、NTTデータの向上はこのように説明します。

「これまでNTTデータは公共分野のほか、金融、製造、通信などの法人向けのシステムやサービスの提供を事業として行ってきました。そのため、情報の『共有』『活用』という部分でのノウハウは持っていて、防災分野においても活かすことができると考えています。その一方で、災害においてあらゆる物が物理的に被災する可能性があり、それらの情報を『把握』するためには人が現地に行って確認するアナログな方法に依存しているケースがいまだ多くあります。今後、デジタル技術を活用した効率化や迅速化が重要になるでしょう。」

公共統括本部 防災・レジリエンス推進 課長 向上 啓

公共統括本部 防災・レジリエンス推進
課長 向上 啓

前職では国土交通省の職員として、道路管理に関わる業務を経験している向上。安全を確保するための道路パトロールなどにも携わっており、現場での情報収集の重要性に加えて、現場での課題を以前から身をもって感じていたと言います。

「災害時の被災情報の収集には非常に迅速性が求められます。これまで道路や河川などのインフラ分野においてはIoTの取り組みも進められてはいるものの、国土全てをカバーすることは難しく、被災現場の発見・情報収集のためには、実際に現地に行く必要があります。現状はそれを人が車両に乗って向かうことが多いのですが、非常に人手と時間がかかっています。防災分野においては防災プラットフォームの整備が内閣府などを中心に進められていますが、災害対応に一番必要となる被災情報収集の課題を解決しない限り、防災DXが実現できたとは言えないと思っています」(向上)

図1:NTTデータが考える災害情報の活かし方

図1:NTTデータが考える災害情報の活かし方

一方、国土交通省 北海道開発局では災害時における河川巡視を効率的かつ迅速に実施できる技術の必要性を感じており、「第4回 現場ニーズと技術シーズのマッチング事業」という取り組みを行っていました。これに対して、NTTデータとNTTデータ北海道が応募。
自律飛行ドローンを用いた河川巡視・点検の実証実験を実施することになりました。河川巡視業務の課題について、北海道開発局 河川管理課の唐澤氏はこう説明します。

「河川巡視は平常時と緊急時の2つに分けることができます。平常時は不法投棄などの異常が発生していないか確認するために、定期的に実施しています。事前に計画を立て、外部事業者に委託しているため、現状はまだ人員も確保できています。一方、緊急時は災害により河川管理施設が被災していないか、被害状況を確認するために実施します。職員が手分けして巡視業務を行いますが、限られた人員で、なおかつ、迅速に巡視を行い、管理区域全体の状況を把握しなければなりません。また、災害時の巡視は、巡視員が災害に巻き込まれてしまう危険性があることも課題の一つです」

国土交通省 北海道開発局 建設部 河川管理課 唐澤 圭 氏

国土交通省 北海道開発局 建設部
河川管理課 唐澤 圭 氏

さらに北海道ならではの事情もあると、唐澤氏は言います。

「私たちが管理している河川は北海道全土で13水系あり、距離にすると1,850kmあります。巡視を行う際には堤防上を車で走行するのですが、河川の左右岸を見なければならないため、その倍の距離を走行しながら河川や堤防の法面、河川管理施設などを目視で確認しています。緊急時には迅速な状況把握が必要ですが、広大な北海道においては、現場を回るだけでも時間がかかってしまいます」

まさに向上が感じていたことが、北海道の河川巡視業務においても、喫緊の現場課題となっていたのです。

ドローンを飛ばすことがゴールではない

「人的リソースの不足と人員の安全確保。北海道開発局様が抱えている課題は非常に明確であり、防災ドローンの活用が課題解決につながると考えました」

そう語るのは、NTTデータで危機管理ソリューションを担当する中島です。NTTデータは40年以上にわたって航空管制分野でのシステムを提供。加えて、2017年から愛媛県の原子力発電所の災害対策として、ドローン活用をした映像情報収集システムソリューションを提供しているという実績もあります。また、異なる種類のドローンの飛行を複数機同時に統合管理できる「airpaletteUTM®」というドローン運航管理システムを保有。特に災害時など、広範囲に広がる河川を一斉に巡視する必要がある北海道においては、複数のドローンを飛ばし、それらを一元的に管理できることが一つの重要なポイントとなります。

実証実験では、VTOLと呼ばれる固定翼ドローンと回転翼ドローンという異なる種類の機体を2機同時に飛行させることにしました。VTOLは、回転翼機に比べて高速かつ長時間の飛行が可能で、北海道の広域な河川巡視には最適な機体と言えます。しかし、回転翼機に比べると、風の影響を受けやすいといった安定性に係る課題や、飛行できるルートに制限が生じるなどの運用の容易性に係る課題もあります。

「VTOLの安定飛行自体も技術やノウハウが重要となりますが、今回はただドローンを飛ばしてデジタル化することがゴールではありません。ドローンで収集した映像や静止画といったデータが、実際の現場業務に適合するかどうかが重要なのです。事前に想定した飛行計画や当日の天候条件を踏まえて、どこまで有用なデータが収集できるのか。実証実験ではそこを確認したいと考えていました」(中島)

第一公共事業本部 危機管理ソリューション 主任 中島 晃治

第一公共事業本部 危機管理ソリューション
主任 中島 晃治

NTTデータでは、ドローンの活用によって人手不足解消につなげることはもちろん、収集したデータの整理や分析、それに基づく意思決定、さらに未来に向けたデータの蓄積まで、河川巡視業務全体の改善をめざしています。特に今回の実証実験では、業務に資する情報の『把握』がポイントでした。

図2:河川巡視のめざす姿

図2:河川巡視のめざす姿

人に優しいシステムをつくるには現場業務の理解が不可欠

2023年10月18日に実施した実証実験では、北海道の石狩川においてVTOLが延べ約30kmの行程を自律飛行(レベル3:目視外・無人地帯)し、河川施設の動画・静止画を約30分で撮影。千歳川では回転翼ドローンを使用し、「airpaletteUTM®」も活用して、2機のドローンを同時に自律飛行させることに成功しました。

「ドローンで撮影した動画を確認しましたが、堤防道路から低水路までを1回の飛行で撮影することができており、ズームをして河川施設を確認することもできました。巡視業務において目視で行っている情報の把握という点に関して、ドローンは有効であり、NTTデータが持っている技術やノウハウの有効性も確認することができました」(中島)

北海道開発局で河川巡視業務を行う方々からは「見たいところが見られた。映像もクリアだった」「堤防もここまで見えるのか」といった所感を、実験の場で伺うことができました。

図3:2機のドローンを統合管理するairpaletteUTM®

図3:2機のドローンを統合管理するairpaletteUTM®

実はこの実証実験を実施するにあたり、事前に中島を含めたチームで、平時の河川巡視を行う事業者に同行し、現場業務を理解するところから取り組んでいました。河川巡視ではどこを見ているのか、どんなデータが必要なのかを知っていたからこそ、飛行ルートの設計や搭載するカメラの選択、カメラと機体のセットアップができたのです。

「誰が何のために情報が必要で、何を実現したいのかを具体的に知っていなければ、最適解を提供することはできません。そのため、お客さま業務の理解は不可欠です。たとえば動画に関しても、1台のカメラでフォーカスした映像で細かい施設を撮影するのか、それとも広域を捉える形で撮影するのが良いのかはお客さまの業務の目的によって答えが変わります。また、次のアクションをするために必要な情報を抽出して、必要な人に届け、その重要性を判断してオペレーションにつなげるというように、人が使いやすいところまで持っていなかければ、最適なソリューションとは言えません。AIにより自動で情報を処理・判断できるようになるかもしれませんが、人がその判断根拠を確認できるようにすることも重要です」(向上)

今回の事例では災害情報の『分析・加工』に当たる取り組みとして、撮影したデータを地図に重ね合わせるというデータの重畳を試行。これは河川状況を可視化し、巡視業務をより効率化することを意図した試みです。

「現場で実際に業務を担当する方の業務負荷の減少や、意思決定の効率化のために、取集したデータをどう活かすのか。これについては今後も研究・開発をしていきたいと思っています。今回は地図との重畳を試みていますが、AIを使った情報分析もその手段の一つだと考えています。AIを防災にどう活用できるのか、その可能性を探っていきたいです」(中島)

図4:ドローン撮影データを地図に重畳

図4:ドローン撮影データを地図に重畳

ハイレジリエント社会の実現に向けた挑戦は続く

河川に限らず、道路や港湾などでも巡視・点検業務においてドローン活用のニーズは今後増えてくると予想されますが、社会実装のためにはクリアすべき課題もあります。まずはドローン自体の性能向上です。運航に係る安定性が高まるとともに、より長時間運航できること。同様に、用途に適したサイズや装備品、通信方法などが求められます。その他、法制度を含めたドローン運用に関する環境整備も同じく必要になります。さらに中島は、もう一つ課題があると言います。

「機体の性能が向上してシステムができたとしても、実際の現業を担当される方単独でドローンの運航管理がすぐにできるかと言うと、それは難しいのではないかと感じています。少なくとも現時点では、運航や制度に関するノウハウや、機体操作、維持、システム周りの技術面など、適切な業務分担がまだまだ必要であると認識しています。ドローン運航に関しては、私たちが最後まで伴走する必要があり、今後もさまざまなお客さまとの共創を続けていきたいと思っています」

最後に、改めて今回の実証実験で得られた成果について、中島はこう語ります。

「現代は情報化が進み、災害に関する情報も多く出回っています。もちろんその中に有益な情報も含まれていますが、現地における公式なデータや情報は前者と比べれば、出回っていないのが現状だと思います。一方で、防災においては、“今どこで何が起きているのか”が最も重要です。まだクリアしなければならない課題もありますが、現地における広域災害情報を把握するために何が必要かを知ることができた今回の実証実験は、ハイレジリエント社会の実現に向けた大きな一歩になったと感じています」

NTTデータは、今回の実証実験を経て、災害現場における情報収集の重要性とデジタル活用の有効性を確認。災害情報の『把握』から『分析・加工』『共有』『活用』に至るまでを一貫して行える仕組みを構築し、真の防災DXが実現できるよう、今後も防災・レジリエンス分野での挑戦を続けていきます。

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