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2024.2.15事例

Embedded Finance/BaaS活用の地域金融×地域DXアプローチ

全国各地で地域DXに向けた取り組みが始まっている。中心的な役割を担うのが自治体や地域の金融機関、交通機関、事業者などである。地域DX推進のカギはEmbedded Finance/BaaSだ。本稿では、BaaSや地域DXアプリを活用した地域DXの実例を紹介。金融機関/行政/事業法人/FinTech企業との共創による、新しい社会像について考える。
目次

BaaSと地域DXアプリの融合

自治体をはじめ地域の金融機関や交通機関、事業者などを中心に地域のデジタル化、地域DXの必要性は認識されているものの、なかなか進まない地域も多い。地域DXの重要な柱が、金融サービスだ。金融は、地域DXと融合し大きな進化を遂げようとしている。キーワードはEmbedded FinanceとBaaS(Banking as a Service)である。

Embedded Financeとはさまざまなサービスに金融機能が埋め込まれ、ユーザーが意識しなくても金融サービスを利用できること。BaaSとは決済など多様な金融機能を、APIを介して利用可能にするクラウドサービスである。

図1:地域におけるEmbedded Finance/BaaSの世界観

図1:地域におけるEmbedded Finance/BaaSの世界観

「近年、地域金融機関が提供するバンキングアプリだけでなく、地域の自治体や事業者が提供するアプリに金融を溶け込ませたサービスが広がり始めています」と語るのは、NTTデータ 金融戦略本部 金融事業推進部 部長の青柳雄一である。

地域DXで重要な役割を担うBaaSはいま、新たなステージに進化しようとしている。図2に示したように、現状のBaaSモデルはフロントアプリと銀行の勘定系システムが1対1で対応している。今後の地域DXを見据えると、n対nの組み合わせを可能にするBaaS基盤が求められる。

図2:現状のBaaSモデルと今後求められる地域BaaSモデル

図2:現状のBaaSモデルと今後求められる地域BaaSモデル

それを実現するものとして、NTTデータは2023年6月、フィンテック分野で多くの実績を持つインフキュリオン、NTTドコモグループのDearOneとのコラボレーションにより、地域金融機関向けBaaS基盤と、地域DXアプリによって構成されるサービスの提供を開始した。

地域金融機関向けBaaS基盤には、インフキュリオンの多様な金融サービスを機能単位で提供する決済プラットフォーム「Wallet Station(ウォレットステーション)」、地域DXアプリにはDearOneの短期間、低価格で導入でき、カスタマイズ性も高い伴走型アプリ開発サービス「ModuleApps2.0」が活用されている。

図3:3社協業で実現した地域金融機関向けBaaS基盤と地域DXアプリ

図3:3社協業で実現した地域金融機関向けBaaS基盤と地域DXアプリ

地域金融機関向け組込型金融基盤・地域DXアプリの詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/regional-baas/

比較的容易なテーマから始め段階的に発展させる

地域金融機関向けBaaS基盤にはユーザー管理や決済、チャージ、クーポン、ポイントなど多彩な機能が搭載されている(図3)。プラットフォーム全体として実現できるのは、キャッシュレス決済だけでなく、地域DXを実現するさまざまな機能だ。

「地域DXを強力に推進するためには、決済機能だけでは不十分だと思います。そこで、コミュニケーションやデジタルマーケティングなどの機能も揃えました。それぞれの地域がいかにデータを活用してDXの範囲を拡大するか、そんな観点で開発しました」と青柳はいう。

図4:地域BaaS活用による地域DXプラットフォーム

図4:地域BaaS活用による地域DXプラットフォーム

青柳は、この地域金融機関向けBaaS基盤を、地域DXのプラットッフォームと同義だと考えているという。

「このBaaS基盤上で自治体や地域金融機関、地元の小売チェーンなどさまざまなプレイヤーがサービスを展開できます。独自のPayサービス、地域のクーポンやポイントを提供できるほか、デジタルマーケティングにも活用できる。行政による住民相談、あるいはユーザーの特性を理解した広告ビジネスなども視野に入ります。まさに地域DXのプラットフォームとなりえるでしょう」と青柳は説明する。

高度な地域DXを一気に実現するのは困難だ。まずは、地域振興券のような比較的容易なテーマからスタートし、徐々に地域通貨や地域ポイントのようなサービスに進化させる。そして、行政サービスとの連携を含め、地域全体のDXをめざすのである。

3社協業で実現した地域金融機関向けBaaS基盤と地域DXアプリからなるプラットフォームサービスは、すでにいくつかの地域で動き始めている。たとえば、岐阜県を地盤とする十六銀行はこれを活用し、同県恵那市でサービス提供を始めた(後述)。

また、京都・丹後地域でも、地域通貨アプリ「Tango Pay」の利用が2023年12月から始まった。Tango Payは地元の丹後王国ブルワリー、京都銀行などの協業により生まれたサービスである。

地域DXにおける地域金融機関、交通機関の重要性

金融サービスのデジタル化の動きを象徴的に示しているのが、キャッシュレス比率だろう。経済産業省は、2025年までにキャッシュレス決済比率を4割程度とする目標を掲げるが、2022年の比率は36%。前倒しでの目標達成が見えてきた。

図5:キャッシュレス決済比率の推移

図5:キャッシュレス決済比率の推移

図5はキャッシュレス決済の内訳を示したもの。金額ベースではクレジットカードが大きな比率を占めるが、件数ベースでは「〇〇Pay」のようなコード決済の伸長が著しい。行政の後押しもあり自治体もキャッシュレス推進に力を入れている。今後のキャッシュレス推進におけるポイントを、インフキュリオン代表取締役社長の丸山弘毅氏はこう説明する。

「店に行く前の予約から入店、レジでの決済、レシート、さらに退店、帰宅までをスマートフォンアプリでシームレスにサポートすることができる。支払いはこの流れの中で行われます。デジタル化するユーザーの生活の中に、いかに一連の体験を埋め込むかが今後の重要なポイントです」

スマートフォンアプリを介してシームレス化する人びとの暮らしを、金融サービスで支えるのがインフキュリオンの役割だ。

図6:消費行動のシームレス化

図6:消費行動のシームレス化

同社の主力サービスの1つは、「オリジナルPay」の実現に欠かせないコード決済やユーザー管理などの機能を提供する「Wallet Station」。地域DXでも多くの事例を積み上げている。

鹿児島銀行と南日本銀行、鹿児島相互信用金庫が展開するスマートフォン決済アプリ「Payどん」、愛媛県の伊予鉄道でチケット購入や店舗などでQR決済を実現する「みきゃんアプリ」などでも、Wallet Stationの機能が活用されている。

「人々の行動は自治体単位ではなく、経済圏単位です。その意味で、交通機関のキャッシュレス化を地域DXに取り入れることが有効でしょう。また、〇〇Payへのお金のチャージ元としては、金融機関の口座が多い。地域金融機関との連携も重要です」(丸山氏)

地域DXでアプリが担う重要な役割

アプリ開発をサポートするModuleApps2.0を提供するDearOneにとって、地域DX、自治体DXは大きなテーマだ。自治体DXにおいて、住民とのコミュニケーションは必須である。

「コミュニケーションの手段はさまざまです。ただ、93%に達したスマートフォン普及率などを考えると、基本的にはアプリが最適だろうと考えています」と、DearOne代表取締役社長の河野恭久氏は語る。

図7:自治体アプリにおけるアプリの重要性

図7:自治体アプリにおけるアプリの重要性

スマートフォン普及率だけではない。東京都の調査によれば、自治体広報誌を毎月読んでいる人の割合は約15%(2023年3月)。読んでいる住民、読んでいない住民との間に生じる情報格差は、自治体にとって見過ごせない課題だ。アプリなら必要なときに、必要な情報を簡単に検索できるだろう。住民とのコミュニケーションのハブにもなれる。

また、ペーパーレス化への動きもある。たとえば、現状では紙の商品券が多く用いられているが、これをデジタル化することで利便性と利用率の向上を期待できる。

先に青柳が触れた岐阜県恵那市の事例では、プレミアム付き電子商品券「エーナPay」として「青券」と「赤券」が提供されており、それぞれ利用できる店舗が異なっている。こうした複数種類の電子商品券も、同じアプリ内で使い分けることが可能だ。

図8:岐阜県恵那市の「エーナPay」

図8:岐阜県恵那市の「エーナPay」

DearOneのアプリ開発支援サービスは、他の自治体でも多くの実績がある。たとえば、沖縄県与邦国町が導入した観光客向けのアプリ。観光名所ガイドなどの情報提供だけでなく、スタンプラリー機能を搭載し、与那国島をより楽しく周遊できるよう工夫している。また、埼玉県飯能市は、地域住民向けのアプリをつくった。サービスの一例だが、住所別に表示されるごみカレンダーを見れば、明日はどんなごみを出せるかを簡単にチェックすることができる。

自治体DXだけでなく、DearOneは事業会社向けのビジネスにも注力している。

「当社はJALカードのアプリを10年近く運用しているのですが、ダウンロード数、利用者数ともに順調に伸びています。通常、クレジットカードの請求明細は月に1度届きますが、JALカードのアプリでは月に約8回と高頻度。コミュニケーション頻度が高いいためマーケティングもしやすい状況です」(河野氏)

「BaaS+アプリ」で収集するデータを分析し深い知見を得る

全国的に地域DXへの関心は高まっている。デジタルツールが住民や観光客の好評を得ている地域も多い。ただ、「集まったデータを分析している地域は少ないのが実情」と河野氏はいう。そして、こう続ける。

「アプリのユーザー体験を高めるために、今後はワン・ツー・ワンのサービスをめざす地域が増えるでしょう。たとえば、トップ画面やコンテンツをユーザーによって出し分ける。一人ひとりにとって心地よいサービスを提供するためにも、データ分析は重要です」

データ分析によって、これまで得られなかった深い知見を得ることができる。河野氏の話を受けて、丸山氏はこう話す。

「これまでのキャッシュレスは買った店や金額が分かる程度でしたが、アプリの中に金融機能を埋め込むことで文脈を理解することができます。アプリの位置情報との連携により、このユーザーはどういうルートを通って店を訪れたのか、その途中でどこに寄り道したのかといったことを知ることができる。この違いは非常に大きい」

ユーザー個々人の文脈を理解すれば、「ルート上のこの場所に何らかの仕掛けをすれば、行動変容を促せるかもしれない」といった改善のアイデアが生まれるだろう。地域DXを進める上で、BaaSとアプリの組み合わせは大きな相乗効果を生み出すに違いない。

本記事は、2023年10月26日、27日に開催されたFIT2023(Financial Information Technology 2023、金融国際情報技術展)での講演をもとに構成しています。

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