大震災を経験し着実に成長する防災システムと新たな課題
大規模な被害をもたらすと予想される南海トラフ地震や首都直下地震。そのほか近年は、1時間降水量が80mmを上回る大雨の年間発生回数が増加するなど、異常気象による災害の激甚化・頻発化が深刻な課題となっている。地理的要因により、さまざまなリスクを抱えている災害大国・日本において、企業や自治体は何ができるのだろうか。
NTTデータでは災害が発生する前の情報収集から発災後の応急対応、復旧・復興の全てのフェーズで防災のデジタル化に取り組んでいる。例えば、いつ発生するか分からない災害に備えるために、コストや人員などのリソースをどれだけ避けるかという現実的な課題がある。特に人口減少が進む日本においては、人的資源が脆弱化しており、デジタル活用によって、防災業務や防災活動を効率化し、限られた人員で対応できる体制づくりが必要だ。その他、災害発生時における情報発信や収集においても、デジタル技術は有用である。
「僕は阪神淡路大震災が起きたとき、阪神高速道路が倒れた場所の近くに住んでいました。給水車がどこにあるか分からなかったり、災害支援品として送られてきた古着の処分に困ったり、情報が錯そうして現場が混乱していました。その一方で、最近は若い人たちがテレビを見なくなっていて、まとまった情報を安心して提供するフローがなくなっています。また、SNS上の情報は正しいかどうかが判断できません。だから、今大規模な災害が起きるとテレビしかなかった当時以上に、混乱する可能性があると思っています」
こう指摘するのはVoicyの緒方氏だ。この指摘どおり、情報のコントロールは、災害対応力を上げるために重要なキーワードとなる。その点について、NTTデータの高阪は次のように答える。
「情報が多くなっているが故に、さらに混乱する可能性はあるでしょう。昔は何を伝えればいいのか、誰が何をやるのかなど、役割分担が不明瞭なところがありました。阪神淡路大震災や東日本大震災を経験し、行政や企業の弛まない努力によって、緊急事態の役割分担に関しては整理がされてきていると感じます。しかし、情報を伝えるツールが社会全体で共通的には整備されておらず、その仕組みをひろげていきたいと考えています」
さまざまな事業者とのコラボレーションが災害対応力を高める
日本社会全体の災害対応力を上げ、ハイレジリエントな社会を実現するためには、正確な情報を必要としている人のもとに伝えること、さらに言えば、より少ない人数で効率的に情報を収集し、判断することが求められていると言えるだろう。そこで必要となるのは、自治体、企業、個人が垣根を超えてつながる連携基盤だ。
「僕自身も防災にとても興味がありますが、自社だけで防災用の仕組みをつくるというのは、ちょっとおこがましいと感じます。いろんな会社に、いろんな力とユーザーデータがあって、みんなで融合してつくっていく必要がありそうですね」(緒方氏)
「一企業、一自治体だけでは限界があります。命を守らないといけない災害時に、みんながつながりあって、情報共有して活用する。そうすることで、人や社会を守れるだろうという思いで、NTT データは取り組んでいます」(高阪)
NTTデータでは、自治体、企業、個人が防災に関わる情報を共有し、つながるための仕組みとしてデジタル防災プラットフォーム「D-Resilio®連携基盤」(※1)を立ち上げている。防災に有用なコンテンツを提供しているさまざまな組織や企業と連携し、効率的な防災情報の収集や、先回りした災害対応の検討・判断を支援することが目的だ。住民に避難を促す際には肉声による呼びかけが効果的ということが知られている。
「被災地では、声がすごく活躍しますよね。現地の状況を伝えるときに動画を撮ろうとすると、良い画を撮ることに気が向いてしまったり、被災地の方にしてみると、動画に映りたくないという気持ちもあったり。でも、音声メディアであれば、実際に現地の生の声として、本当に深刻な雰囲気が届きます」(緒方氏)
「確かに声は重要です。高齢者の方もいらっしゃる中で、本当に優れた伝達手段だと思います。川が氾濫しそうなとき、そこに住んでいる人の『逃げたほうがいい』という迫真の声は、心に伝わり、命を救うことにつながると思います」(高阪)
また、緒方氏は音声メディアが優れているポイントとして、”ながら聞き”でも情報を入手できる点を挙げている。
「我々が受託・運用している災害情報共有システムLアラートは、地方のラジオ局やケーブルテレビ局とつながっています。彼らは地域に根付いたメディアだからこそ、住民に届けることができますし、それが自分たちの役割だという熱い想いを持っている方々も多いです」(高阪)
避難情報や避難所情報などを地域住民に伝達する災害情報共有システムであるLアラートも、D-Resilio連携基盤に情報を連携しているが、他にもいくつかのコンテンツとコラボレーションが進んでいる。その一つが、株式会社Spectee(以下Spectee)との連携だ。(※2)
今や多くの人にとって重要な情報源であり、情報発信の場所となっているSNS。Specteeは、そのSNS上の投稿や気象データなどからAIを活用して災害・リスク情報を解析することで被害状況の可視化や予測を行う防災・危機管理サービスを展開している。
図1:災害対応に有益なコンテンツデータを一元集約するD-Resilio連携基盤
NTTデータのD-Resilio連携基盤は、情報を軸に「つながる・つかう・いかす」を実現するためのコラボレーションプラットフォームであり、災害対応に有益なコンテンツを掛け合わせるハブとなって災害対応を支援する。そのため、今後も防災スタートアップ企業をはじめ幅広い事業者との連携を積極的に図っていく。
デジタル活用で、一人ひとりの避難行動が変わる未来
「お話を伺っていて、防災情報を連携するネットワークが日本で構築されつつあるということを、よりたくさんの企業や個人の方が知っておくことが必要だと感じます。ただネットワークがあっても、ユーザーさんが知らなかったら、誰も使ってくれない無用の長物になってしまいますよね」(緒方氏)
「今回Voicyという200万人以上のリスナーがいる音声プラットフォームを通じて、我々の取り組みを発信するというのも、皆さんにぜひ知ってもらいたいという想いがあるからです」(高阪)
緒方氏が指摘するように、まずD-Resilio連携基盤自体の認知や理解を拡大していく必要がある。さらに多様なサービスとの連携により価値を高めていくことで「自治体や企業の災害対応担当者が、災害時にまずD-Resilio連携基盤にアクセスし、集約されたデータや情報を活用して、防災業務を効率化・高度化していく存在になりたい」と高阪は話す。
一方、個人に関してはD-Resilio連携基盤で集約した情報を、必要としている個人のもとにいかにして届けるかが重要になってくる。この点に関してNTTデータは、パーソナル情報や位置情報を活用し一人ひとりの状況に応じたリスク情報を提供することにより避難時の行動変容につなげる取り組みを実施している。もう少し具体的に言えば、いざというときに、個人が日常的に使用しているスマホアプリを通じて、避難行動を支援する情報を配信。これにより、スマホ一つで、かつ、使い慣れたアプリで有益な情報を取得することができるという構想だ。
図2:パーソナライズされた防災情報の提供イメージ
NTTデータでは、集約した情報を生かす場面においても、さまざまな事業者のコラボレーションを推進。必要な情報が、必要としている人に合わせたかたちで、手間をかけることなく取得できる未来をめざしている。
NTTデータが考える未来の防災・レジリエンスのレポートはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/industries/resilience/
音声プラットフォームVoicy 特設サイト「#まさかのための防災」
https://event.voicy.jp/bousai2023
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【Voicyで配信した緒方氏とNTTデータ高阪のトークはこちら】
「まさかの災害時、どこから情報を仕入れる?!いまおこっていることの「データ」を集約し、防災のネットワークのある社会へ。」(配信日:2023/08/31)
https://voicy.jp/channel/1/599442