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環境変化の中で揺らぎ始める
バンキングの既存ビジネスモデル
NTTデータ
金融イノベーション本部
イノベーションリーダーシップ統括部
統括部長
山本 英生
先行きが見えないVUCAと呼ばれる時代を迎えて、今まさに銀行を取り巻く環境は激変している。市場での資金需要が変化し、預金を集めて融資を行うというこれまでの銀行の収益モデルそのものが、改めて問われ始めているという状況もある。一方で、これは銀行や金融業に限らず、すべての産業に共通する動向だが、テクノロジーの活用の巧拙、すなわちデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の有無が、企業成長の差となって表れるという傾向も顕著だ。
「元来、銀行の商材には在庫や配送などの概念がないことから、様々なやりとりをデジタルで完結しやすく、IT化とは相性が良いと言えます。このことは言い換えると、非金融業がテクノロジーの活用によって金融業界に参入しやすい状況を作り上げているものと言えます」とNTTデータの山本英生は指摘する。
さらに言えば、預金者が持っていない情報や決済情報を基に融資先の「目利き」を行うというのが銀行の主要なビジネスだったが、テクノロジーの進展によって、貸し手と借り手の間の情報の非対称性がなくなれば、資金調達に銀行が介在する必要性も低下することになる。併せて、事業者間の送金に関わる労力やコスト、セキュリティー面での課題がテクノロジーによって解消されると、銀行が間に入って送金手数料を稼ぐというスキームが成り立たなくなるといったことも考えられる。
「要するに、今日の銀行には、デジタル活用を前提にその立ち位置やビジネスモデルそのものを再定義することこそが急務。そこで重要なキーワードとなるのが『Trust』及び『Connect』です」と山本は強調する。
銀行に期待される取引先の目利き
多業界をつなぐハブとしての役割
まず、Trustについて言えば、社会におけるリモート、オンラインベースのライフスタイルが定着する中で、金融サービスのデジタルサービス化が促進され、それに伴ってかつての中央集権型のサービスから分散型のサービスへのシフトが加速する。そこでは、取引先が信頼できる相手かどうかを見極めることが一つの重要なポイントとなる。
「これに対し銀行は、デジタルの世界とリアル社会との接点における仲介者としての立ち位置を担える可能性があります。具体的には、かねてよりリアル社会の金融分野で培ってきた『目利き』のケイパビリティを、デジタル社会におけるTrustの担保へと広げていく。そうしたいわば“トラストアンカー”としての役割を担っていける可能性があると考えます」と山本は説明する。
図1:銀行はデジタル世界においてもトラストアンカーに
一方、Connectに着目すると、あらゆる業種の幅広い事業者とのリレーションを有していることが銀行の大きな強みだ。言うまでもなく今日では、業界間の境界が曖昧となってきており、企業においては他業界との連携や協働が重要なテーマとなっている。そうした中で銀行には多くの業界をつなぐ“ハブ”としての役割が期待されるわけだ。
図2:業界をつなげるハブになれる可能性
金融ビジネスの変革に向けて
重要な鍵を握るクラウド活用
このようなTrust、Connectを意識しながら、ビジネスをどう変革していくかという視点が現在の銀行には切に求められているわけだが、そこでは当然、銀行自身によるデジタルの活用が鍵を握っていることは言うまでもない。これに関しアマゾン ウェブ サービス(AWS)では、2006年のサービス開始以来、金融業を含む企業ビジネスを、クラウドインフラサービスの提供により一貫して支えてきた。
2011年には東京リージョンが開設され、2013年からは国内の銀行など金融機関での利用も始まった。現在は東京、大阪を中心とした両リージョン体制が整う中で、大手金融機関がクリティカルな業務にAWSを適用する動きが加速している。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
金融事業開発本部 本部長
飯田 哲夫 氏
「今日、AWSでは、コンピューティングやストレージといったベーシックなサービスに加え、機械学習や生成AIなどの先進テクノロジーも含めて240を超えるサービスを提供中です。多彩なインフラ機能をマネージドサービス化し、お客様が自身の本業に集中いただけるよう支援しています」とアマゾン ウェブ サービス ジャパンの飯田哲夫氏は語る。
こうしたAWSにおける戦略の根幹を成しているのが、「次の10年間で何が変わるか」ではなく、「次の10年間も変わらないものは何か」にフォーカスし、そこを基軸にビジネスプランを検討していくという、アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏のフィロソフィーである。
それを踏まえるかたちで飯田氏は、「銀行のビジネスモデルが激しく変化する状況にあっても、テクノロジーに関わる選択肢とスピードを提供すること、さらには今お話のあった、TrustやConnectといった部分に資するベーシックな価値にフォーカスしてクラウドサービスを展開しています」と語る。
例えば、Trustという領域で言えば、データ保護を強化したり、サービスの可用性を高めて信頼できるインフラを提供したりすることはもちろん重要だ。ただし、Connectを前提に捉えれば、マイクロサービスアーキテクチャによる小さなサービスの組み合わせや、パートナー同士の協業によりサービスを構築していくというケースが増えていくことが想定される。
「そうした中で、利用者の目線に立ち、エンドツーエンドでサービスの継続性をモニタリングするなど、レジリエンシー(回復力)をしっかりと担保していけるような仕組みの提供も我々の重要なミッションであると考え、取り組みを強化しています」と飯田氏は強調する。
資料:アマゾン ウェブ サービス
コンサルティングから実装、成果創出まで
金融機関のDXを一貫して支援
以上のようにAWSでは、金融機関がビジネス変革を推進していく上でのクラウドプラットフォームの活用に関する提案を行っていける体制を整えているわけだ。そして、その上で必要となる具体的なDX推進を支援するという役割を担っているのがNTTデータである。
同社では、DXに向けたコンサルティングから、データ活用の支援、AIやブロックチェーン、クラウドなど、各種テクノロジーの実装、その後の成果創出までを一貫してサポートしている。
「金融機関にとってDXの実現は非常に難易度が高く、例えば生成AIなどの個別技術の局所的な活用は進められていますが、多くの場合、それがビジネスの変革にまで至っていないというのも実情です」と山本は指摘する。
その背景にある金融機関、特に銀行が直面している一つの課題として挙げられるのが、自らがデジタル化を進めようにも、中小企業などの取引先でのデジタル化の遅れが“足かせ”になってしまっているという問題だ。ファックスや紙でのやりとりもまだ多く残っているという。
「そうした意味では、銀行自身がDXを推進していくためには、膨大な数の取引先のデジタル化支援も含めた取り組みこそが不可欠であり、すでに述べたように銀行が今後、他業種をつなぐConnectに関わる“ハブ”としての役割を目指していくには、そうしたことが前提になるものと捉えることができるでしょう」と山本は説明する。
今まさに金融機関においては、「Connect & Trust」をしっかりと視野に入れたかたちで、ビジネス変革の取り組みへと果敢にチャレンジしていくことが求められている。
本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。
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