- 目次
日本人の睡眠時間は世界最下位
自分は何時間眠れているか
新型コロナウイルス禍以降、人々の暮らしを取り巻く環境は大きく変化している。特に生成AI(人工知能)をはじめとしたAI領域の進化は著しく、データを活用した行動変容、バーチャルによる拡張、バイオ・ゲノムといった医療技術などの進歩も相まって、パーソナルなヘルスケアエクスペリエンスへの期待が高まっている。
そのような中にあって、健康上の重要課題とされているのが「睡眠」だ。睡眠コンサルタントであるSEA Trinity代表取締役の友野なお氏は、自分自身が睡眠を改善することで減量に成功し、長く苦しんだ病気が治り、人生が一気に好転した経験から、「新たな睡眠の価値を伝えたい」と睡眠に関する事業を始めた。
SEA Trinity 代表取締役
友野 なお 氏
最近の睡眠の傾向については、こう危惧する。「睡眠はとてもデリケートなので、環境変化に敏感です。コロナ禍が明けて眠れるようになったかと思われたのですが、世の中が通常に戻るスピードに心や体がついていけないといった新たなストレスがあり、眠れない人が増えています。環境の変化に合わせた睡眠ケアが重要だと感じています」(友野氏)
そもそも日本人は諸外国に比べて睡眠時間が短い。経済協力開発機構(OECD)諸国における睡眠時間の調査でも、日本は毎年最下位となっている。調査では女性の睡眠時間のほうが長い国がほとんどである中、日本に限って40代から50代の女性の睡眠時間の短さが目立つ。この調査結果を受けて、NTTデータ保険ITサービス事業部の矢野高史も「自分も睡眠時間は短い自覚があります。ビジネスワーカーや主婦層は特に短い印象があり、そこに対するアプローチを考えることは急務です」と語った。
睡眠は量と質が重要
不足すると重大な問題も
NTTデータ
保険ITサービス事業部
戦略デザイン室 室長
矢野 高史
睡眠の課題は、睡眠時間の短さにとどまらない。睡眠に悩む人は5人に1人いるとされ、「寝付けない」「熟睡できない」「何度も目覚める」「休日は寝だめしている」「十分な時間寝たはずなのに朝から疲れている」といった“睡眠の質”に関する悩みを抱えているという。
もちろん、睡眠時間の問題はより深刻。自分では十分に寝たと思っても、実はまるで足りていないことが多く、その影響は心身に及ぶ。例えば、8時間睡眠に比べて4時間では肥満率が73%高く、5時間睡眠でも50%上昇する。また、推奨されているのは7時間睡眠だが、6時間睡眠を2週間続けると丸1日徹夜したときと同じくらい認知レベルが下がることが分かっている。
睡眠と疾患の関係を示す研究報告も数多い。睡眠不足による相対死亡危険率を見ると、睡眠時間が6.5時間から7.4時間の層が最も低く、それより短くなっても長くなっても危険率が増すことが分かった。死亡率以外の指針では、糖尿病、高血圧、心血管疾患、肥満、不妊率、うつ、認知症、がんの発症リスクが高くなる。
図1:生活者における睡眠課題のエビデンス
友野氏はビジネスパーソンや企業における睡眠不足によるリスクについても着目。企業は社員の睡眠不足について危機感を抱いたほうがよい、と警鐘を鳴らす。
「睡眠のスキルはビジネススキルと同義です。よりよく眠れている人はよりよく働くことができます。逆に、十分に眠れていないことで生じるリスクは多岐にわたり、早期に退職しやすかったり、就業中にネットサーフィンをする時間が長かったりします。また、就業中のエラー・ケガ・ミスが増え、他人のミスにも気づきにくくなるので職場の安全性が保ちづらくなります。倫理的な意識が低下してモラルを守りにくくなる、感情の抑制が利きにくくなって職場の人間関係が脅かされるなど、数々の要因により生産性が低下するリスクもあるのです」
より良い睡眠のために
今夜からできることを紹介
社員の睡眠不足による生産性低下を問題視する企業も増えている。ある寝具メーカーは社員にウエアラブルデバイスを配布して睡眠の質を可視化し、睡眠状況が良い社員には有給休暇や商品と交換可能なポイントを付与しているという。とはいえ、このような対策ができる企業は多くないだろう。そこで友野氏が提案した改善案は「日々のあいさつをするように『昨日は眠れた?』」と上司から部下に対して声かけすることだ。
「上司が睡眠に対する理解がないと、部下が健康を害す行動に出やすいことが分かっています。一声かけるだけで十分です。しばらく眠れていないのは心身の不調の予兆でもありますから、『あまり眠れていない』と答えることが1~2週間続いたら個別に面談を行うなど、次の行動につなげるサインとして利用してください」(友野氏)
睡眠改善のために今夜からできることとして、睡眠改善の行動療法である「入眠儀式(スリープセレモニー)」が有効だという。毎日同じことを繰り返すことで、出張先やイレギュラーなことがあった日でも、変化に対応して眠れるようにする習慣のことだ。代表的なものとしては、アロマを使う、深呼吸をする、筋弛緩しかん運動、パジャマに着替えるといったことなどがある。
友野氏は、「高齢になると自然に誰でも眠りにくくなります。まずは自分の眠りを客観的に把握することが大事なので、テクノロジーを活用しながら定量化、可視化して、一人ひとりがまず睡眠改善のスタートラインに立つことが重要になります」と語った。
睡眠の定量化・可視化
業界横断でヘルスケアエコシステムを
NTTデータでは、テクノロジーを活用した睡眠に関する未来の取り組みを行っている。矢野はその中から3つを紹介した。まず、NTTデータが提供し、約1400社が加盟する「Health Data Bank®」という健康データサービスだ。各社の健診結果やストレスチェック結果、人事・勤怠情報のほか、個々人のバイタルデータや睡眠、運動、食事のデータを蓄積している。これらのデータを基に、NTT西日本とパラマウントベッドの合弁会社であるNTT PARAVITAのトレーナーが一人ひとりにパーソナライズされた睡眠改善トータルサポートサービス「ねむりの応援団」を展開している。
次に、2024年7月には、9hoursと連携した「スリープテックホテル」をNTTデータ保有のアレア品川ビルに開業予定だ。このホテルではNTT研究所の最新センサーも活用し、スリープテック、フードテックのリアル実験場、販売促進の場としても提供する予定だという。最後は、高齢者向けのソリューション「ボイスタ!」。これはAIスピーカーを活用した対話アプリで、単に高齢者と対話をするだけではなく、スマートホーム化することで、遠隔からでも行動変容を促せる可能性がある。例えば照明照度コントロールによる睡眠改善などQOLを向上できるのではないかと取り組んでいる。
こうした取り組みの先、2030年には、生活者の過ごし方はどう変わっていくのだろうか。矢野は、食事、運動、休養、労働などの各生活シーンにおいて、生活者の健康活動をテクノロジーが支援し、持続的な健康生活を送る未来を予想した。そのために、様々な業界横断で生活者視点のヘルスケアエコシステムをめざしていくことを提言する。こうした未来を「体験」を通して共に実現する施設として、NTTデータでは豊洲に「ヘルスケア共創ラボ」を開設。ここでは、ヘルスケアに関連する複数の先進テクノロジーに実際に触れながら、お客様やビジネスパートナーと新規ビジネスアイデアの創出、実装までを一気通貫で実現できるという。
図2:ヘルスケア共創ラボ
「Face.ing」はラボで体験できるソリューションの一つだ。顔の映像から心拍数、呼吸数などを測定し、ウェルビーイングの程度(心身が生き生きしているか)を可視化。センサーなどを取り付けることなく、スマートフォンなどのカメラに向かうだけで簡単に測定することができる。
生成AIと3Dアバターを活用したデジタルヒューマンとの対話も体験可能だ。デジタルヒューマンは、近年急速に進化する生成AIと3Dアバター技術を組み合わせることにより、私たちと同じように人間の姿を持ち、対話し、共に豊かな社会を実現してくれる技術である。特に日本では、労働人口の減少は差し迫った社会課題であり、デジタルヒューマンは、人手では不採算となる業務や長時間労働にも対応できる存在として、今後社会的ニーズが高まることが期待されている。
最後に友野氏は「睡眠の質は、健康の質、パフォーマンスの質、ひいては人生の質そのものといえます。どれだけ技術が発展しても人間が眠らなくなることはありません。先進テクノロジーと共存して、眠れる健康な社会づくりをしていきたいと改めて思いました」という言葉で締めくくった。
NTTデータのコンサルティングについての詳細はこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/services/consulting/
あわせて読みたい:
「事業変革の伴走者」になるための挑戦
~NTT DATAが目指す”生活に溶け込む健康づくりが進む未来”とは~