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2024.5.20業界トレンド/展望

ファッションロスをゼロにする 業界を横断したデータ統合への挑戦
データ統合プラットフォーム「FEDI」で描くエシカルな未来

アパレル業界は、深刻な課題を抱えている。ニーズや販売数の予測が難しく、管理手法もアナログのままで、多種大量生産を前提としたビジネス構造のため、廃棄物が大量に発生する。そのため、資源の浪費や水質汚染、CO2の排出などで、環境に大きな悪影響を与えている。NTTデータではデジタルの力を活用したアパレル業界の課題解決に乗り出した。それがアパレル業界向けデータ統合プラットフォーム「FEDI」である。
目次

多くの課題が指摘される
多種大量生産の生産体制

株式会社NTTデータ 金融イノベーション本部 グローバルカスタマーサクセス室 室長 吉本 幸司

株式会社NTTデータ
金融イノベーション本部
グローバルカスタマーサクセス室
室長
吉本 幸司

アパレル業界が抱える課題の出発点とも言えるのが、供給過多な生産体制だ。「需要予測が難しく、多種かつ大量生産が前提のビジネスモデルであるため、常に衣料品が供給過多になっています」とNTTデータの吉本幸司は指摘する。日本向けに年間36億着が生産され(※1)、半数程度が廃棄されているというデータもある。

これらは水資源の観点からも問題視されている。使用された水は染色によって汚染されているのだ。「水質汚染の20%は、染色によるものといわれています」と吉本は続ける(※2)。また、CO2排出量の面からも大きな問題を抱えているという。日本製品の98%は海外で生産され、輸送で大量のCO2を排出させている(※3)。「アパレル業界が排出するCO2の量は、国際航空業界と海運業界のCO2排出量の総量を上回っているのです」(吉本)

この現状は、サステナブルのトレンドとは相反するものだ。EU(欧州連合)では2025年から売れ残った衣料品の廃棄を禁止すると発表している。アパレル業界が持続可能な業界になるために、今、大きな変革が求められている。

では、なぜこうした状況が生まれているのだろう。吉本は「全体構造が複雑化し、プロセスが長くバラバラ。これらを背景に柔軟な対応や判断ができないことが無駄を生んでいます」と語る。ニーズが分からないまま売れないものを商品化して大量生産するため変化に対応できない。さらに、状況が把握できないために適切な再配置ができない、という悪循環に陥っているのだ。

「この状況を変革するためには、各工程の状況を可視化し、需給差をゼロにする仕組みが必要です。そこで提案しているのが『Fashion EDI(FEDI)』です。EUの制度であるデジタル製品パスポート(DPP)に対応し、ファッション業界のグリーントランスフォーメーション(GX)を実現します」(吉本)

FEDIによって実現される
新たなビジネスモデル

アパレル業界向けデータ統合プラットフォームであるFEDIには多くの機能が実装され、多くのメリットを提供する。まず、統合プラットフォームとして欠かせない業界統一EDI(電子データ交換)によって生産工程の事務手続きをデジタル化する。

「アパレル業界にはアパレル事業者だけでなく、商社、生地・附属品業者、工場など多くのステークホルダーが存在。その間のやりとりにおける手段も、各社のシステムもバラバラなため、膨大なコミュニケーションコストがかかります。このため、企画から納品までのリードタイムが肥大化しています。業界EDIの活用によって、受発注から貿易、生産、請求・決済までの業務を一気通貫なものにすることができます」と吉本は説明する。さらに自社のプロダクトライフサイクル管理システム(PLM)と直結させることで、生産プロセスの可視化や、各種ステータスの確認も可能になる。

図:FEDIは受発注から貿易、生産、請求・決済までの業務を効率化できる

図:FEDIは受発注から貿易、生産、請求・決済までの業務を効率化できる

多数の業者が絡み合う事務手続きの効率化も、FEDIの導入メリットだ。アパレル業界の海外生産比率は98%とされるが、日本の貿易は非常に煩雑な仕組みになっている。「貿易に関わる多くのステークホルダーのやりとりが郵送・FAX・電話などアナログな手段で飛び交い、取引書類を作るのに長時間かかるなど、EUに比べて34倍もの時間がかかり、コストもかさみます」と吉本は説明する。

これらの解消を図るため、FEDIではブロックチェーン技術を活用したグローバル貿易プラットフォーム「TradeWaltz」と連携し、手続きの時間とコストの削減、在庫や物流状況の可視化と一元化を実現するという。FEDIはインボイス制度に対応した電子請求サービスも提供し、請求書受領から決済までをデジタルで完結できる「TetraBRiDGE」によって各種請求書の一元管理を目指す。さらに全銀EDIシステムの「ZEDI」など様々な決済手段と連携することで決済のアクションも可能になる。受発注や請求にかかる電子文書をやりとりするグローバルな標準規格である「Peppol」にも対応しているので、海外との取引も扱える。

デジタルの力を活用して
需要予測の精度向上を

FEDIの対応力は事務手続きの領域にとどまらない。生産に関する全工程のトレーサビリティを可視化することで、ファッション業界のSDGs(持続可能な開発目標)にも貢献する。「各工程の主体、産地、水の消費量やCO2の排出量といった環境要因などを、製品ごとに読み取れる仕組みを提供します」と吉本は話す。

例えば、ウォーターフットプリント、カーボンフットプリント、児童労働者への対応などSDGsに関連したデータが各工程で記録され、消費者に提供されれば購買の判断の材料にもなり、アパレルメーカーにとってはブランド力の向上を図れる。また、製品の企画、プロトタイピング、販売・需要予測などデマンドチェーン全体のデジタル化の機能も提供される。より具体的には10万点以上の繊維素材の3Dデータを保管する世界最大級の3Dデザイン・デジタル素材ライブラリー「swatchbook」と連携したデジタル素材マーケットプレイスの提供だ。

swatchbookには3Dデザインに活用できる高精細なマテリアルデータがある。「それを活用して3Dでデザインして、作った服をアバターに着せて仮想空間に展示することで、ユーザーの反応を事前に把握して、トレンドの予測につなげられます」と吉本はデジタルを活用したトレンド予測の可能性を話す。仮想店舗での検証結果やソーシャルメディア上での評価、気候情報などをAI(人工知能)で分析することで、ユーザーニーズを把握できれば、商品単位で高度な需要予測が可能になり、需給格差ゼロに近づけるだろう。大量の服を生産して大量に売れ残る負のサイクルから脱却できるかもしれない。

デジタルでつなぐ力を活用し
他業界でもエコシステムを

デジタルの力で様々なステークホルダーを結び、組織を超えて情報を一元管理することで、サプライチェーン全体を効率化する取り組みは、当然ファッション業界以外にも適用できるものだ。実際に富士フイルムロジスティックスでは、TradeWaltzを導入。自社のシステムと物流企業のシステムをAPIによって自動連携させることで、大量の航空貨物の手配にかかる負荷を50%削減している。

「アパレル以外の業界でも、当社のデジタルの強みを生かせます。FEDIやTradeWaltzで培ったつなぐ力を生かして新たな事業機会を創出して、日本全体のエシカルな社会の実現に貢献していきます」と吉本は意義込みを語った。

FEDIが目指すサプライチェーンを変えるデジタルエコシステムのノウハウが、他の産業の変革につながることを期待したい。

本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。

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