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2024.5.23業界トレンド/展望

DXの取り組みは70%の企業で失敗?その本質を世界最先端のDX理論から学ぶ
~2024年度よりDX研究会「NTT DATA DX Institute」が活動を本格化~

諸外国と比べて遅れているといわれる日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を支援する活動がある。それが、NTTデータグループが主催する「NTT DATA DX Institute(以下、DXI)」だ。DX関連の研究で実績を上げてきた世界第一線の有識者を招き、その知見を日本企業のDX担当者と共有しながら、ディスカッションを通して悩みや課題をどう解決するかを共に考える場である。
目次

議論によって理解を深めるDXのセッションを開催

コロンビア大学ビジネススクール 教授 David Rogers 氏

コロンビア大学ビジネススクール
教授
David Rogers 氏

2024年1月26日に東京で開催された「NTT DATA Foresight Day 2024」の一角では経営学修士(MBA)の授業のようにインタラクティブに学ぶセッションが行われていた。会場内には6人が座れるテーブルがいくつも並び、それぞれのテーブルで熱い議論が交わされ、グループを代表してリポーター役が議論の内容を発表し、それに対して講師が講評していく形だ。

「デジタルトランスフォーメーション・ロードマップ」と題されたこのセッションはNTTデータ経営研究所が開催したもので、講師を務めたのは2016年に発刊されたDXの指南書「The Digital Transformation Playbook」(日本語版「DX戦略立案書」白桃書房刊)の著者で米コロンビア大学ビジネススクールのDavid Rogers氏だ。

Rogers氏はDXの難しさや重要性を説明した後、まさにMBA流にのっとって参加者に3つの質問を投げかけた。「大きな成長のチャンスはどこにあるのか? 脅威とリスクは何か? DXに対する一番大きな障壁となっているのは何か? この3つの質問の回答を3分で書いてください」(Rogers氏)

冒頭のシーンはこの質問に対する回答を述べたときのものだ。「既存顧客の信頼を深めるところにチャンスがある」「自社のDXを他社に紹介して新しいビジネスにつなげられる」「DXをしなければ新しい技術が活用できずに他社に後れを取る」「カルチャー、古いシステム、人材不足が障壁に」などが報告された。

これに対してRogers氏は「データを価値の源泉として捉えれば成長のチャンスがあります。一方、顧客の価値観の変化についていけなければ成長へのリスクとなり、人材不足やカルチャーが障壁となります。多くの組織が脅威を知り、不確実性への対応が迫られているのです」と討議についての総評を述べた。

テクノロジーではなく企業戦略からDXを考える

続いてRogers氏は「8年前に『The Digital Transformation Playbook』を出版したとき、私は“デジタル変革はテクノロジーによって起きるものではない”と話し、多くの人がその言葉に驚きました。DXとは世界が変化していく中で、企業としてどのような戦略をとるのかということなのです」と語った。

同書は出版以来、10以上の言語に翻訳されてきた。「この8年間で多くのチャレンジがありましたが、DXに挑戦した企業の70%が失敗しています。私はその理由を探りいくつかの間違いに気がつきました」と話すRogers氏は、ビジョン、プライオリティー、実験環境、カルチャーなどの間違いを指摘した。

「デジタル変革はテクノロジーによって起きるものではない」と話すRogers氏

「デジタル変革はテクノロジーによって起きるものではない」と話すRogers氏

「しかし私は楽観視しています。それは30%の企業はDXに成功しているからです。重要なのはそうした勝利者を研究し、そこから何を学ぶかです」とRogers氏は語る。そのエッセンスをまとめたのが最新の著書『The Digital Transformation Roadmap』である。2024年6月には日本語版も発刊される予定だ。

同書の中でRogers氏はDXを成功させるための5つのステップ「DXロードマップ」を示している。それが「ビジョンの明確化」「戦略目標の優先順位付」「体系的な実験」「スケーラビリティを確保できる効果的なガバナンス」、そして「技術力、人材力、文化力の育成」である。

Rogers氏は5つのステップについてそれぞれの概略を紹介し、「DXはテクノロジーではなくビジネスの話であり、トップダウンだけでなくボトムアップが必要であり、プロジェクトではなく、終了日のない継続していくジャーニーであることを理解することで成功に近づきます」と締めくくり、その後、数人の質問に答えて2時間に及ぶ特別セッションは終了した。

1年間で10回開催された2023年度のDXIセッション

株式会社NTTデータ経営研究所 取締役 石塚 昭浩

株式会社NTTデータ経営研究所
取締役
石塚 昭浩

「NTT DATA Foresight Day 2024」で行われたRogers氏を招いた特別セッションは、NTTデータグループが2023年度に開催してきたDXIを体験してもらう、ショーケースのような位置付けであった。

DXIをリードしてきたNTTデータ経営研究所取締役の石塚昭浩は、「欧米の有識者が持つ最先端のノウハウやDXを推進する企業の最新のユースケースに触れてもらうことで、DX推進に悩む日本企業の担当者に、スピードアップにつながる気づきを得てもらいたいと始めました」とDXIが誕生した背景を語る。

2023年度のDXIは、NTTデータ経営研究所が独自に関係構築してきた世界的に有名なDXの有識者から最新の理論を学び、さらに海外の成功事例を共有した上で、各参加企業がお互いの立場で気づきや学びを得て、主催者が汎用的なノウハウとして総括していくという構成だった。

テーマごとに、欧米の主要大学・研究機関の教授や研究者といった講師を招いた講演で最新の動向を学んだ後、参加メンバーがプレゼンテーションしてアドバイスをもらうという流れで、2時間から3時間かけたセッションを10回開催しました」と石塚は語る。Rogers氏も含めて8人の有識者が招かれている。

日本企業のCDO(最高デジタル責任者)やDX推進部門の管理職などを対象に有料で参加メンバーを募り、B to C分野で事業を展開する東京海上日動火災保険や全日本空輸など6社が参画した。石塚は「インタラクティブなワークショップを通して横のつながりも生まれ、弊社社長の山口重樹からの解説と講評も好評でした」と振り返る。

2024年度のDXIセッションはさらなる深掘りを目指す

2023年度の取り組みが参加企業の気づきと変革のきっかけになったことを受け、DXIは2024年度にもブラッシュアップした形で開催することが決まっている。石塚は「2024年度はフォーカステーマをより実践的な領域に絞り、一人の講師で3回連続して開催し、レクチャーと議論、宿題と議論を通して、各参加企業のDX戦略の深掘りをご支援していくことを目指しています」と話す。

参加企業との議論から、DX推進にあたって特に関心および課題感の強いテーマに絞り込み、DXを通じた組織変革やイノベーション推進に向けてより実践に活かせる内容を計画している。

具体的には「『持続可能なデジタル変革』:どのようにスケーラブルかつ持続的なデジタル変革は実施できる?」「『顧客の真の課題の解決』:DX戦略で顧客の真の課題を解決する同時に、業務効率を向上するにはどうすればよい?」「『独自の価値提案』:どのように他社とパートナーシップを形成し、独自の価値が提供できる?」の3つが予定され、Rogers氏はじめ、米国の有力ビジネススクールのDXの専門家が講師を務めることになっている。

「2024年度は参加企業を10社程度まで増やして、製造業などにも声をかけていきます。内向きになりがちな日本企業が海外の最新動向に目を向けて、DXの悩みを解決していく機会にしていただきたい」と石塚は思いを語る。DXIは日本企業の事業変革パートナーになりたいというNTTデータグループの総意が感じられる取り組みだといえるだろう。

本記事は、2024年1月26日に開催されたNTT DATA Foresight Day2024での講演をもとに構成しています。

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