──そもそもJR東海がグループ会社を巻き込んだ全社横断的なDX施策に踏み切った経緯から教えていただけますか。
小林: 直接のきっかけは、新型コロナウイルスの影響で、東海道新幹線を筆頭に鉄道需要が一気に消失したことへの危機感でした。長期的な予測として、日本全体の人口減少によって電車に乗る人が減っていくだろうという予測はあったのですが、コロナによってそれが一気に早まった感覚でしたね。
現場としても、うまくいっている時は今の業務のやり方を変えることには多少なりとも抵抗はあるわけですが、グループ各社も危機感を持っていたため、賛同を得やすかったタイミングではあったと思います。私個人としても「このままじゃダメだ」「現状維持は、停滞ではなく衰退だ」と強く感じていた時期でした。
――具体的にはどんな風に取り組んでいったのでしょうか。
小林: JR東海では鉄道事業本体のほかに、駅ビル・ホテル事業などを担うグループ会社が複数あります。それらの事業全体の需要創出を目指すために、デジタルを活用し人々の多様な嗜好をとらえ、顧客体験を向上させることが必要と考え、今回のDXプロジェクトを立ち上げました。
まずは、これまでバラバラだった9社の営業基幹システムを共通化するため、RFP(提案依頼書)を出してさまざまなベンダーから提案書をもらいました。その中で最も総合的な評価が高かったのがNTTデータでした。決定後も、我々の思いを深く理解し、RFPで示した決済や分析プラットフォームの課題や解決策に対するさらなるアドバイスとともに、構想段階であった共通ポイントの制度設計に伴走してくれたことで、システムだけでなく、事業の詳細設計を一緒に考えることができました。
「こういう問題がある」と相談すると、一緒になって解決策をとことん考えてくれるだけでなく、将来に向けて幅広い視点での提案をしてくれるなど、伴走者として本当に頼りになりました。
湯地:
そう言っていただけてありがたいです。これまでNTTデータは「実装」部分に強みを持っていました。各社ごとにシステム開発の要件がまったく違い、それぞれ難易度も高いなか実装ができるのは当社しかいない、という自負があったのも事実です。
しかし、さまざまなパッケージが登場し、個別開発能力へのニーズは薄まっています。いま求められているのは、今回のプロジェクトのように当社から「提言」を示し、実装の前段階から「チームの一員」として議論に参加し、事業の在り方を一緒に考えることだと考えています。
金原: 私は今入社9年目ですが、入社当時と比べ、ここ数年は社内でも意識がかなり変わっていると思います。お客様に言われた通りのことをやるだけでは差別化できず、他社に負けてしまう――そんな悔しい経験から、若手を中心としたボトムアップでも変わってきていると感じています。
湯地: これからは「お客様の事業がどう伸びるか」を常に考えていかないといけないですし、それが自然にNTTデータの成長や売上にもつながるのがいい形。これまで以上に能動的に、お客さまのニーズに合わせ、長期的な視点の提言を積極的にしていく姿勢が必要だと感じています。
──2020年から構想をはじめ、2023年10月にローンチに至ったとのことですが、複数社を横断したビッグプロジェクトとしてはかなりのスピード感ではないでしょうか。
小林: 2023年10月のインボイス制度施行に合わせることが最初から決まっていたので、目指すゴールがあったのは大きいですね。もちろん、計画を立てるのとそれをきちんと実行するのはまた別なのですが。もともとスケジュールファーストで進めてきましたが、スピード感を持って実現できた最大の要因は、社内やグループ各社への広報活動を積極的に行い、プロジェクトを全社化できたことだと思います。我々はプロジェクトマーケティングと呼んでいますが、これにより、他部署やグループ会社からも多くの協力が得られました。
これだけ大掛かりなプロジェクトですが、リードメンバーである本社の事業推進本部は約10人程度しかいません。常に人手不足の中、NTTデータのみなさんがすぐ側でしっかり伴走してくれたことも、大きな助けとなりました。
金原: プロジェクトを進める際は、私たちも事業推進本部の方とともにグループ各社を回って、現場の方と直接お話し、課題を吸い上げ、どうすればいいのかを一緒に考えてきました。何かひとつ検討するときも「現場の意見を聞きながら、伴走者として一緒に」というスタイルを徹底してきましたね。
小林: 本社の方針や目指すゴール、駅ビル会社の業務の流れや課題など、最初にきちんと目線を合わせたうえで、専門家としてアドバイスしてもらえる体制が非常によかったです。システム切り替えフェーズではシステム面をNTTデータにリードしてもらい、事業推進本部はグループ会社と運用面のすり合わせに集中することができました。
2024年4月1日からは、キヨスクやお弁当屋など、駅の改札内の全店舗を運営しているJR東海リテイリング・プラスが共通基盤システムに加わります。駅ナカ、駅周辺で得られたデータをどうマーケティングに活用するか?は引き続き力を入れていきたいところです。
──鉄道会社にとっては、デジタル施策はこれまで縁遠いものだったのではないでしょうか。そんな中でDXの必要性をどう感じていますか。
小林: DXとは、デジタルを活用して新たなビジネスモデルを生み出していくことだと認識しており、そこを目指すことは必要だと考えています。ですが、最初のステップとしては、まずは既存ビジネスへのデジタル活用、具体的にはデジタルマーケティングを活用して新しいニーズを生み出すことを目指しています。
そもそも、これまでJR東海社内にはマーケティング関連の部署がなかったんです。だから社内にノウハウもないし、人材もいない。そうなると新しいシステムをつくって導入するだけでは不十分です。
今回の場合は、全社を対象にした人材公募スキーム「キャリアチャレンジ制度」を人事部とともに立ち上げ、社内でマーケティングに興味があるメンバーを募ったり、外部から有識者を迎え入れたりしました。NTTデータから出向という形で迎えたメンバーから、ともにプロジェクトを推進する中でノウハウを学べたのもよかったですね。「マーケティング」と一口でいいますが、現実に成果を出していくためにはそれを担う人材育成も必要になります。
――デジタル化と組織改革を両面で進めていったのですね。
小林: そうです。共通基幹システムの導入によって大きくコストダウンを実現したのですが、部署の体制も整えながら進めたことで、PDCAがスピーディに回せるようになったことも強く実感しています。これまでは、DMやキャンペーンなどの施策をうっても、結果をなんとなく肌感でしか捉えられなかったのですが、会員向けメールの開封率や、クーポンの利用率、実際に購買につながった人数などの各種指標を正確に分析し、データに基づく新たな改善施策を立てられるようになりました。
ECの世界ではすでに当たり前だと思うのですが、リアル店舗でそれができるようになったのは私たちにとって大きな一歩。データに基づく判断ができるようになったのは、スピード、効果の面で大きなプラスとなっており、全体の収益向上や今後の可能性もぐっと広がりました。
──みなさんとお話していると、チームとしての雰囲気の良さが伝わってきます。NTTデータの強みをどう捉えていますか?
湯地: これまで培ってきた技術力(実装力)をベースに、「提言・実装・成果」というサイクルを回してお客さまのビジネス成果にまでコミットしていくことです。特に、「絵に描いた餅」にならない現場の温度感をきちんと理解し、実装可能な提言ができるのが、NTTデータだと思っています。
小林: 湯地さんが言うように技術力の裏付けがあるので、システムに責任を持ちながら伴走してくれる点は、特に強みだと感じます。提言するだけで「じゃあ実際どうするの? 何が必要なの?」を投げっぱなしにしないで一緒に考えてくれる、そこへの信頼感、安心感は高かったです。
もうひとつ、「総合力」という点もNTTデータならではだと思います。システムに関して各ソリューションベンダーの製品の専門家であることはもちろん、マーケティング、経理や決済など、幅広いプロジェクトに不可欠な各業務についての専門家もいる。そして我々のやりたいことを理解したうえで、第三者的視点でベストな選択を提言してくれるのです。共通のゴールとして当社事業の成長を考えてくれている実感がありました。
――NTTデータ社内で「提案力強化」を進めている野崎大喜さんは、「システム屋さんから社会実装屋さんに」という言葉でこれからを語っていました。
湯地: その通りですね。一方で、営業の現場ではお客さまが当社に抱いている「システム屋さん」のイメージを変えていくのは容易ではない、という実感があります。
今回、事業提案の初期から伴走させてもらうチャンスをいただいたことで、私たちとしても大きな学びと手応えがありました。JR東海さんとの取り組みはこれからも続きますし、よりよい未来を描きながら、パワーアップして挑戦し続けたいです。
小林: こちらこそ、これからも期待しています。JR東海では、今後のグループビジョンとして「沿線地域」と「移動」の2つの価値向上を目指しています。「旅マエ」「旅ナカ」「旅アト」それぞれで、デジタルを活用した最適な顧客体験を充実させていきたいですし、もっと地域のみなさまに愛される、身近な存在になりたいと思っています。NTTデータとはこれからも伴走者として長く付き合っていきたいですね。
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