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2024.7.12業界トレンド/展望

ビッグデータ活用が医療分野のデジタル変革のカギ
~改正次世代医療基盤法におけるRWD変革の展望と課題~

デジタルテクノロジーを起点としたビジネスのDXがあらゆる産業で進むなか、医療分野でもデジタルを活用したMX(Medical Experience:患者中心の医療体験)の変革が期待されている。カギを握るのは「医療ビッグデータ」だ。2024年4月に改正次世代医療基盤法が施行されたことにより、医療ビッグデータの活用は広がると考えられている。このチャンスを捉え、製薬業界が直面している構造変化とデジタル化の波にどう対応するのか。患者中心のMX実現に向けたビジョンをNTTデータの関根志光が解説する。
目次

本記事は2024年4月開催のイベント講演レポートから、一部抜粋してご紹介しています。

レポート全文はこちらからダウンロードいただけます。

本レポートは2024年4月17日に開催された「ファーマIT&デジタルヘルスエキスポ」における関根の講演内容をもとに構成しており、講演者の企業名、役職はイベント当時のものです。

医療ビッグデータの活用で進む個別化医療

175ZB(ゼタバイト)。これは、2025年に生成されるデータ量の予想だ。ゼタとは10垓のことで、0が21もつく膨大な数字である。社会全体において1年間で生成されるデータ量は爆発的に増えており、2025年に発生するデータ量は2016年の約10倍になると試算されている。それに伴い、莫大なデータを保存し、高速に処理する技術も進化。このビッグデータの活用があらゆる産業や業界で重要なアジェンダとなっている。

「ヘルスケア業界にも大きなうねりが起きています」と関根は指摘する。これまで画一的だった健康指導や治療ではなく、莫大なデータによる患者や生活者、一人ひとりに寄り添った提案、いわゆる「個別化医療」が可能となる未来が近づいているという。

「テクノロジーの進化によって、普段の暮らしのなかで健康データを測定してAIによって行動変容を促していく技術が開発されたり、これまでは計測が難しかった複雑な医療データを測定して予測したりすることで、個別化医療の実現が目前に迫っています」

図1:テクノロジーがもたらすヘルスケア業界へのインパクト

図1:テクノロジーがもたらすヘルスケア業界へのインパクト

中でも先行するのはがん領域だ。日本の事例では国立がん研究センターが、がん遺伝子パネル検査データを活用して、がん種横断的ゲノム解析を実施。がんゲノム異常の全体像を解明した。関根は、「これまでこの領域は、海外のデータを用いることが多かった。本研究では日本人に多い胃がんや肝臓がんといったデータも豊富に含まれており、日本人における個別化医療の研究が加速すると思われます」と指摘する。

海外の事例では、患者の病状に合わせたオーダーメイドがんワクチンの開発が進められている。アメリカの大手製薬企業『メルク』と『モデルナ』の研究によると、皮膚がんの一種であるメラノーマ患者にオーダーメイドmRNAワクチンと免疫チェックポイント阻害薬を投与したところ、免疫チェックポイント阻害薬のみを投与された患者に比べ、死亡または再発する可能性が49%低かったという研究結果が公表された。

「患者を中心とした個別化医療は、着実にそして確実に進展をしています。これからのヘルスケア関連企業や医薬品企業では、これまで以上にデータやテクノロジーを最大限に活用して、個別化医療時代に対応した医薬品の開発や製品情報の提供、医薬品以外の領域での新サービス開発に取り組んでいく必要性が高まっています」

そこで重要になるのが、医療の世界のビッグデータ、いわゆる「RWD(リアルワールドデータ)」だ。

「医療データとは、さまざまなデータの集合体です。病院で実施される検査は実に2000種類以上、診断される疾患は1万5000種類以上、用いられる薬剤も2万5000種類以上に及ぶと言われます。この組み合わせから膨大な医療行為のデータが生まれています。近年は医療行為の結果である診断データや健康診断データといった、いわゆるアウトカムデータのデジタル化が進み、それらを活用するために制度面の整備も進んできています」

このアウトカムデータを活用する制度として策定された法律が「改正次世代医療基盤法」だ。これにより、医療分野の先端的な研究開発や新しい産業の創出をめざしている。

次世代医療基盤法のポイントは仮名加工医療情報とNDB連結

2018年に施行された次世代医療基盤法の見直しが行われ、2024年4月に改正次世代医療基盤法として施行された。関根は「改正のポイントは大きく2つ。1つは仮名加工医療情報の新設。もう1つはNDB(ナショナルデータベース)などの公的データベースとの連結可能化です」と語る。

新設された「仮名加工医療情報」だが、厚生労働省では「他の情報と照合しない限り、個人を特定できないよう加工した情報」と定義している。従来の「匿名加工医療情報」は特定の個人を識別させず、元の医療情報に復元できないような粒度にまで加工した情報。それに対して「仮名加工医療情報」は氏名やIDなどの削除が必要だが、特異な値や希少疾患名などの削除などは不要である。関根は「仮名加工医療情報は、匿名加工医療情報よりも粒度が細かい状態でのデータ提供が可能。それ故、少ない症例群での研究やデータセットの継続的な提供、元データとの照合などが期待されています」と語る。

もう1つの「NDBなどの公的データベースとの連結可能化」は、匿名加工医療情報に関しての改正点だ。

「次世代医療基盤法の認定データベースから提供される匿名加工医療情報に、特定の患者IDを付与する仕組みが整います。そして、その特定の患者IDを付与されたデータセットはNDBからも提供されるので、同じ患者IDを持った患者データの付き合わせが可能になります。これにより相互匿名化された状態を保ちながら、同一患者の異なるデータを用いた連結研究ができる体制が整う見込みです」

図2:改正次世代医療基盤法のポイント

図2:改正次世代医療基盤法のポイント

次世代医療基盤法の大きなポイントを説明した関根。ここで気になるのは、個人情報の取り扱いだろう。特に仮名加工医療情報は粒度の細かいデータなので、個人が特定されるリスクも高まる。その観点に関根は、「改正次世代医療基盤法では、データ作成者だけでなく利用する事業者側も、安全管理に関する認定が必要となっています」と説明し、こう続けた。

「利用事業者の認定は、I型認定とII型認定に分けられています。I型認定はデータの管理・取り扱いのいずれも、利用事業者側の環境下にある区域内で行うこと。II型認定ではデータ自体は認定作成事業者の環境下にある区域内で管理され、利用事業者はリモートアクセス、もしくは訪問してデータを取り扱うことと定められています」

データを作成できるのは、厳格な審査を経て総理大臣や厚生労働大臣などの4大臣が承認する認定作成事業者だけだ。認定作成事業者は、医療機関などから預かった医療情報を認定事業者が管理するシステムで厳重に管理し、利用者からの依頼を受けて解析や匿名化を行い提供。利活用者による研究成果を通して社会に還元していくという仕組みである。

2024年4月時点の認定作成事業者は、『LDI(一般社団法人 ライフデータイニシアチブ)』、『J-MIMO(一般財団法人 日本医師会医療情報管理機構)』、『FAST-HDJ(一般財団法人 匿名加工医療情報公正利用促進機構)』の三事業者。NTTデータは2019年に、LDIとともに次世代医療基盤法の認定を取得して事業運営を行っている。2024年3月末の時点で、約200万人分の詳細な医療情報を預かり、35件の利活用実績がある。

「LDIのデータベースでは、診療行為に関するインプット情報だけではなく、診断結果であるアウトカムデータもお預かりしています。アウトカムデータにもさまざまな種類がありますが、特徴は非構造データと呼ばれるテキストデータを大量に集めていること。具体的には、医師が電子カルテに記入する診療記録です。臨床試験やレジストリのデータベースのように、あらかじめ構造化された状態では入力されていないので、集計や解析は大変ですが、NTTデータではAIやIT技術を取り入れながら研究と利活用を進めています」

現状では、レセプトやDPC(包括評価制度)などのデータを活用したRWDの研究や利活用はかなり進んできている。今後はアウトカムデータも含むRWDの活用がいよいよ高度化していくと予想される。ここからはRWD活用の現状と高度化への展望を紐解いていく。

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本記事は2024年4月開催のイベントのイベント講演レポートから、一部抜粋してご紹介しています。

レポート全文は以下からダウンロードいただけます。

https://go.nttdata.com/l/547422/2024-07-08/8xd8yx

ビッグデータ活用が医療分野のデジタル変革のカギ
~改正次世代医療基盤法におけるRWD変革の展望と課題~

NTTデータ 製薬・化学事業部 部長 関根 志光

目次

  • 医療ビッグデータの活用で進む個別化医療
  • 次世代医療基盤法のポイントは仮名加工医療情報とNDB連結
  • 抗がん剤の効果やIBDの治療抵抗性判別などRWDを活用した研究事例
  • RWDを高度に活用するための3つのポイント

レポートダウンロード

本レポートは2024年4月17日に開催された「ファーマIT&デジタルヘルスエキスポ」における関根の講演内容をもとに構成しており、講演者の企業名、役職はイベント当時のものです。

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