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2020.5.29INSIGHT

食品製造現場におけるOTとITの融合
そして日本型スマート工場の実現に向けて(前編)

工場スマート化の現在地と目指すべき姿
日本経済の課題のひとつに欧米諸国と比べた労働生産性の低さがある。なかでも食品製造業は他業種よりも相対的に低いといわれ、その課題解決が急務だ。このような状況下で注目されているのが食品製造工場のスマート化。2020年2月に開催された「スマート工場EXPO」では、食品製造現場でのOT(運用技術)とIT(情報技術)の融合による「日本型スマート工場実現」をテーマにしたパネルディスカッションが行われ、日本を代表する食品飲料メーカー3社と農林水産省が考えと取り組みを語った。

スマート工場とは、そのメリットとは何か

クニエ マネージングディレクター 井出 昌浩(モデレーター)

クニエ マネージングディレクター
井出 昌浩(モデレーター)

パネルディスカッションの冒頭、モデレーターを務めたNTTデータグループのコンサルティング会社、クニエの井出昌浩は「食品製造業は、他業界と比べて相対的に労働生産性が低いといわれており、深刻化を増していく日本の少子高齢化の流れの中で、どのように工場のスマート化に対応していくかが重要なテーマになる。パネラー各社における取り組み状況や目的・コンセプト、課題とその克服方法などを教えてもらいたい。加えて、副題でもある、OTとITはどう融合していくと考えるか、についてそれぞれの立場で意見を聞きたい」とパネリストたちに語りかけた。

デジタル化へ成功体験が重要

日本たばこ産業 IT部 部長 (兼)たばこ事業本部 事業企画室部長 鈴木 悦夫 氏

日本たばこ産業 IT部 部長 (兼)たばこ事業本部 事業企画室部長
鈴木 悦夫 氏

国内たばこ事業全般の基幹系システムとDX(デジタルトランスフォーメーション)の責任者である鈴木悦夫氏は、「デジタル化案件がこの2年間で急激に増えている」と話す。工場に関連するデジタル化ではQCDの改善、とりわけコストに関する取り組みに注力しAI、IoTのほか、センシングを含めたデータ活用をPoC(概念実証)やPoV(価値実証)を通し取り組んでいるという。

工場のデジタル化を実現するためには、当然ながら製造、生産技術、ITなどの部門間、さらに現場、管理、役員といった関係者の巻き込みが重要となる。製造業務に携わった後、事業企画やIT部門に移るなど複数の立場を経験する鈴木氏は「経営サイドとしてはデジタルの重要性を十分に理解し、現場の課題解決を後押しすることが役割だと思っています。そのため取り組みをきちんと称賛・評価し、小さな成功体験をさせることが重要だと考えています」と語る。日本たばこ産業では、国内だけでも現在110ほどのプロジェクト立ち上がっているが、さまざまな部門から約800人の社員が集まり、インターナルで互いに共有する場「デジタル展示会」を開催しているという。「このような取り組みを通じて共有・評価することが成功体験にもつながり、社内でのデジタル化を盛り上げていくことになるのでは」と鈴木氏は提案する。

ICT導入は現場の視点、発想を大切に

キリンビール 生産本部 技術部長 柿沼 健 氏

キリンビール 生産本部 技術部長
柿沼 健 氏

生産技術とエンジニアリングの取りまとめを担当する柿沼健氏は「AIやIoTなどのICTツールを導入すること自体が目的ではなく、何のためにやるのか、目的を明確にすることが重要」と切り出した。キリンビールでは、「ICTを利用しリーンで人にやさしい工場を目指す」を目的に掲げ、今後必要となる少人数オペレーション、そして品質管理レベルの高度化、安全・効率的な技術検証などを達成するためにICTを活用するということを明確にして実践しているという。

さらに「実践にあたっては、ニーズとシーズの両方からアプローチすることが重要で、新しい技術の探索はもちろん、現場の課題を正しく発掘し理解することが一番必要だと思います。課題に対してベストソリューションは何か、そして最適なアプローチは何か、これを見極める力が我々ユーザーには必要だと感じます」と強調する。

具体的な事例としてネットワークカメラシステムを挙げた。当初、製造工程の遠隔監視や作業実績の録画を目的として、1工場あたり最大400台のカメラを設置。現場がカメラの使い方を試行錯誤する中で、トラブルの早期解決や現場に行かずに済む遠隔操作など新たな改善を行った。これにより1工場あたり年間1000時間削減する効果があったという。「ICT導入は現場の視点、発想を大切にしないとうまくいきません。単なる情報部門ではなく現場のプロセスを知る技術的な視点を持つ人・組織が社内にあると、ICTツールの導入は加速度的に進むと思います」と話した。

構想、ゴールを見せ現場への理解を

味の素 食品生産統括センタースマートファクトリーグループ長 樋口 貴文 氏

味の素 食品生産統括センタースマートファクトリーグループ長
樋口 貴文 氏

生産技術開発、工場製造部、企画管理部、海外勤務を経験した樋口貴文氏は、2019年7月に設置されたスマートファクトリーグループを統括する。

食品事業におけるスマート工場のコンセプトについて「まず自動化などによる省力化や生産技術開発などによる生産の高度化、もう一つはSCM全体と連携した効率性の追求、お客様へ提供する価値の最大化です」と説明した。

さらに、この「つくる」・「つなぐ」という2軸の先にはマスカスタマイゼーションや、パーソナライゼーションされたモノづくりがあるという。「ファクトリーの領域はバリューチェーン全体に及ぶと捉え、SCM(Supply Chain Management)、ECM(Engineering Chain Management)あるいはPLM(Product Lifecycle Management)の領域で貢献できるはず」と味の素が目指す姿を語る。

図1:味の素の食品事業におけるスマートファクトリーコンセプト

また、自身が統括するスマートファクトリーグループの役割については、「まずは構想や大目的、ゴールを理解してもらえるよう表現する必要があります。国内外のグループ企業・各工場では、プロセス特性、文化的背景、生産するモノ、質などが異なりますから、私たちがうまくリードすることが重要な機能だと考えています」と話す。

さらにもう一つの役割とするのが、グループメンバーの持つ深い専門知識による導入支援。現場に合わせたソリューションを提案するだけでなく、新技術の導入を加速させるために「ゴールを理解してもらい、実現できそうだ、と思ってもらえるよう働きかける。この二つの掛け算で当事者がその気になってくれる。この流れを作ることが私たちの役割だと考えています」と強調した。

地域経済振興、農林水産業発展の観点から支援

農林水産省 食品製造課 課長補佐 佐藤 真次 氏

農林水産省 食品製造課 課長補佐
佐藤 真次 氏

食に関する産業を幅広く所管する食料産業局で、食品製造業の持続的発展のための施策の一つとして、スマート工場化の支援施策に携わる佐藤真次氏。食品製造業は、地域の雇用を支え国内の農林水産業と深く結びついている重要な産業。食品製造業を振興することは、地域経済の振興や農林水産業の発展、そしてひいては食料自給率を向上させるなど、様々な行政的な目的を持っている、と説明する。

また、食品製造業の労働生産性が低いと言われていることに関し、多品種を小ロットで製造していることや手作業の多さなどを指摘し、「それを克服する手段として工場の自動化がありますが、ロボットやAI、IoTなどを活用することで、低コストで効率化を図ることが昨今の技術革新で可能になってきている」と企業規模を問わずアプローチする必要性を述べた。

生産性向上や工場のスマート化に対する農水省による具体的な支援事業として、ロボット、AI、IoTなどの先端技術を食品工場に導入して生産性向上の効果を実証してもらう革新的技術活用実証事業や、コンサルタントによる工場診断、食品製造事業者と機械メーカー、情報関連企業などが共同で汎用性のある機器・システムを開発・導入する共同実証事業を紹介。スマート工場構築にあたってのアドバイスとして「工程が多い食品工場は、一部分だけを自動化しても次の工程が詰まるので、工場全体のシステムを見て技術や設備を構築し、運用・保守を行う専門家やシステムインテグレーターに入ってもらうのは効果的です」と語った。

個別とトータルでの最適化、バランスを重視

NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第四製造事業部長 杉山 洋

NTTデータ 製造ITイノベーション事業本部 第四製造事業部長
杉山 洋

製造業におけるDXを数多くサポートする組織の責任者である杉山洋は、「これまでIT部門との接点が多かったが、最近はエンジニアリング部門、工場も含めた現場業務部門と接する機会が格段に増えています」と食品製造業による工場のスマート化の動きを語る。この流れに対しNTTデータは、「Best of Breed、マルチベンダーの立場からお客様の目線でニーズを把握するため、IT部門はもちろん、現場の皆様とも一緒になり製造現場でのDXや工場のスマート化をサポートしています」と取り組みを説明した。

スマート工場構築を目指す企業からの相談では、OTを扱う製造現場とITを扱う情報部門の間に経験や考え方の違いからギャップが生じるケースが多く、このギャップをどう埋めればよいか、といった内容が多いという。「競争力の源泉となる現場のボトムアップ活動は今後も大切です。と同時に、システム全体のアーキテクチャの最適化や、様々な活動のガバナンスといった、ある種トップダウン的なアプローチを、どのようにバランスを取るかということも課題解決のためには大変重要です。私たちは、これまでも現場に幾度となく足を運び業務や課題を見える化することで、IT部門とOTを扱う業務部門との双方の考え方を理解しギャップを埋めるお手伝いをしてきました。これらの取り組みや、私たちが持つ経験・知識を通じて、今後も様々なお客様をサポートしていきたいと考えています」と語った。

【後編】デジタル時代の人材育成とパートナー戦略に続く >>

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