1.産業構造の変化
2020年版ものづくり白書によると、日本国内におけるサービス産業はGDP比で70%を超え(※1)、一貫して拡大傾向にある反面、製造業等におけるGDP比は20%程度にとどまっています。今後もペティ・クラークの法則に従い、産業構造の高度化が予測されます(※2)
また、あらゆるモノのコモディティー化が進み、製品機能・性能の改善が物質的な価値に直接結びつくことは少なくなり、人々が製品を取捨選択する要因にはならなくなりました。製品そのものを保持する物質的価値から、利活用を通して得ることができる体験的な価値、あるいは利活用することによって解決される便益に移行し、モノを利用する人にとっての意味的価値に変わってきています。
このようなモノ消費からコト消費と言われるユーザーニーズの変化に加え、新型コロナウイルス感染症拡大による働き方・価値観の変化、さらにはAI、IoT、クラウド等の技術の急激な進化等、激しい外部環境の変化にさらされています。このような予測不能の状況の中で継続的成長を実現するために、柔軟なビジネスモデルが求められています。
政府及び民間非営利サービス含め広義のサービス産業
経済発展に伴い、経済活動の中心産業が農林水産業などの一次産業、鉱業、製造業、建設業などの二次産業、金融・保険業、情報通信業、小売業、サービス業などの三次産業に変遷する。これを産業構造の高度化という
2.モノ・コトビジネスへの構造変革へ向けて立ちはだかる壁
創意工夫によって生産性を上昇させる余地が大きいサービスビジネス(※3)は収益拡大に向けた宝の山です。モノからコトへビジネスを移行し、継続的な関係を築くことで、ユーザーのライフサイクルを通した安定的な収益確保が実現でき、さらにサービス需要を拡大し、ユーザーの体験価値を高める好循環をもたらす事ができることから、今後サービスビジネス創出の必要性は増すと筆者は考えます。
製造業の業務プロセスや製品に付随するデータを活用し、新たな知見・価値を創出し、これまでの当たり前を当たり前ではないことに変革していくサービスビジネスを創出するうえで、クラウドやIoT関連デバイス・センサー、AIなどのテクノロジーをいかに使いこなし、ビジネスを構築していくかは、多くの製造業における課題です。
これまでのモノ売りではく、サービスビジネスを立上げ、サービスオペレーションを構築し、製品・サービスライフサイクルを通して価値を提供し続けるためには、それに応じた組織と人材が必要です。しかし、ビジネスの変革に向けた組織と人財育成、それらを支えるシステムを構築するまでに至っている製造業はまだ少なく、立ち上げ時や企画段階でつまずく企業が多いのではないでしょうか。
立ち上げ時や企画段階でよくあるつまずきの例
1.既存ビジネスの枠から抜けられない:
モノを作ることを中心に業務を設計し、品質を管理し、販売店や代理店にモノを届けてきたビジネス慣行があり、自社製品を利用する最終ユーザーのニーズや不満を直接つかめない。あるいはニーズや不満は認識しているが、それを元にサービスビジネスを企画・実現するための進め方がわからない
2.実施に向けた推進力・優先度が低い:
製品のライフサイクルを通してサービス提供する必要がある中、部門の壁を越えられず、アフターサービス部門などの特定部署によるサービスビジネス検討となってしまう。また、既存業務を行いながら、並行してサービスビジネスを検討する必要があり、優先度が下がる
3.モノ自体に価値を置くマインドセット:
サービスは製品に付属するものという認識で、製品機能の改善、機能追加など、既存製品の延長線上で発想してしまう
4.システム・テクノロジー対する適応力が不足:
自社に保有していない技術のサービスビジネスへの適応、その技術を提供するパートナー企業との関係がなくアプローチする事が困難
このような壁にぶつからないためにも、立ち上げ時から、課題とゴールを段階的に整理し、関係者と共通認識を持ち、進めることが重要です。(図1参照)
図1:サービスビジネス検討ステップにおける課題(NTTデータおよびQUNIEにて作成)
サービスビジネスとは、製品(有形)とサービス(無形商品としてのサービス)を包括し、ユーザーが使用して初めて価値(使用価値・経験価値)を創出すること。製品を製造・販売し、ユーザーが製品を所有することから、製品機能や知見やナレッジを提供するサービス提供への転換を通して、ユーザーとの互恵的価値を創造するための組織能力とプロセスのイノベーションを含めてサービスビジネスとしている
3.変革に向けたサービスビジネス創出の実現に向けて
ユーザーに“サクセス”を届けるサービスビジネスの実現は一朝一夕にできるものではありません。進めていく上で特に留意すべきポイントは以下5点になります。
(1)「生産者視点」から「ユーザー視点/行動・体験起点」への発想転換
- 「モノ自体やモノに組み込まれたサービス自体に価値があり、モノやサービスを生産者視点で改善しながら交換価値を高め、対価を交換する」、「ユーザーが欲しいと思うモノを作れば、買ってくれる」という生産者視点の発想が根強いままでは、ユーザーが求めるサービスを発想することはできません。ユーザー視点および行動・体験を起点としてサービスビジネスを検討し、継続的に体験価値を届け、製品・サービスを利用する一人一人とつながり続けるサービスの高度化と、ユーザーとともに体験価値を共創するサービスビジネスへの発想転換が必要になります。
図2:モノの改善からユーザーが経験する体験価値を共創へ(QUNIEにて作成)
(2)継続的な価値を創出するパーソナライゼーションされた業務の構築
- 造って→運んで→使って終わりの製品中心のビジネスモデルから、創って→試して→評価し、継続的に一人一人の利用ユーザーとつながる“コネクテッド”なサービスビジネスへ変革するバリュープロセスに向けた業務の流れを構築する必要があります。
- 既存のビジネスを遂行する上でベースとなっている調達・製造・物流・販売業務に加えて、サービス企画・サービス提供・価値検証・サービス評価業務を一つのサイクルとして頻繁に回すオペレーションを構築する必要があります。
図3:継続的価値を共創するオペレーションの構築(NTTデータおよびQUNIEにて作成)
(3)サービス企画・サービス提供・サービス評価業務を組織や役割への組み込み
- サービスビジネスを展開するにあたり、サービスの企画、設計・構築、運用、評価の役割を社内のどの部門がもつのかを明確にする必要があります。
- 特に、サービス認知・体験・購入・継続利用のフェーズにおいて、いかにユーザーのエンゲージメントを高め、離反をとどめるにはどういった仕組みが必要かのプランニングを策定する事は重要な役割となります。
- サービス提供時、ユーザーのサービス利用状況や関係性を可視化し、継続利用に向けて対応が必要かどうかを判断する“ヘルスチェック”を実施する役割も重要になります。ヘルススコアとタッチスコアがあり、それぞれについて定義やサービスにおいてどういったデータ・指標が該当するかを検討することが大切です。
図4:サービスビジネスを担う役割(NTTデータおよびQUNIEにて作成)
(4)市場検証により、小さく始めて早期に立ち上げる仕組みの構築
- サービスビジネスを提供するにあたっては、そのサービスを支えるプラットフォームとして、商品管理、商談管理、そして販売管理等の各種機能やデジタル技術、データ活用の仕組みが必要不可欠です。
- ITの仕組みは企画段階から早期に立ち上げること、また前述のサービス企画~サービス評価のサイクルに合わせ、スモールスタートから始めサービスビジネスの成長に伴い機能やリソースを段階的に強化していくことが重要になります。
- NTTデータでは、サービスビジネス向けの各種機能や、システムで共通的に必要となる機能に加えて、データ活用のための豊富なAPIとデータマネジメントの仕組みを具備するDXプラットフォーム“iQuattro®”(※4)を提供し、サービスビジネスプラットフォームの競争力を強化します。
図5:DXプラットフォーム“iQuattro®”によるサービスプラットフォームのイメージ(NTTデータおよびQUNIEにて作成)
(5)継続的なサービスビジネスを生み出す環境・風土をつくる事
- ポイント(4)で示した「小さく始めて早期に立ち上げるデータ活用プラットフォーム」のような仕組みを継続的にアップデートし、ユーザーに体験を届け、つながり続けるサービスのインテリジェンス化と、ユーザーに対する体験価値を高める風土を定着させる事が大切です。
- IoT関連デバイス・センサーやクラウドを通じて得た大量データのAIによる解析など、最新の技術を使いこなすこと。ユーザーに対する体験価値を高める活動を継続すること。サービス自体のインテリジェント化を進め、シームレスにユーザーとつながること。感情に訴えるハイパーパーソナライズされた体験価値をステップバイステップで実現すること。これらを通じて、真のカスタマーサクセスを目指してはどうでしょうか。
図6:サービスの継続的な提供によりステップバイステップで環境・風土をつくる(QUNIEにて作成)
4.おわりに
モノづくり企業だからこそ、製造過程をはじめ、バリューチェーン全体を通じて得られるデータがあります。これに製品・装置を利用するユーザーの活用シナリオを掛け合わせることで、自社の強みを見出せるはずです。データ活用プラットフォームにデータを集め分析し、分析結果からみえてきた新たな価値をサービスとして提供する。製品・装置を利用するユーザーと製品ライフサイクルを通した継続的な関係を構築するだけではなく、異業種や同業種も巻き込んだオープンな環境を構築し、パートナー企業ともWin-Winの関係を構築する事で、もっとものづくり企業はもっと強くなれると思います。