電力事業のデジタル化とブロックチェーン
電力事業のデジタル化は、2016年の電力小売自由化のためのスマートメーター(電力使用量のデジタル計測器)設置を皮切りに進展しており、様々な取り組みが行われています。
図1:経済産業省「電力分野におけるデジタル化について」(※1)より
デジタル技術の一つであるブロックチェーンは、インターネット上で仮想通貨を送金するための基盤として誕生し、現在は分散台帳技術として、仮想通貨以外の様々な分野への活用が進められています(詳細は以前の記事を参照ください)。
ブロックチェーンの仮想通貨以外のユースケース例を以下に示します。
図2:ブロックチェーンのユースケース例
電力事業のブロックチェーン活用事例
日本国内における電力事業のブロックチェーン取り組み事例をいくつかご紹介します。
- ブロックチェーンによる電力トレーサビリティ みんな電力 (※2)
電源を指定して直接取引を可能とするブロックチェーンベースのP2P電力取引サービスを開発しました。複数の発電事業者の電源と需要家間で需給をマッチングさせることで、発電源を特定できます。複数の発電事業者と需要家間で先行利用試験が行われました。 - ブロックチェーンによる電力直接取引の実証研究 関西電力など (※3)
関西電力、東京大学、日本ユニシス、三菱UFJ銀行は、自家用の太陽光発電装置を持つ需要家(発電需要家)が、発電した余剰電力を需要家と直接取引をする仕組みを、ブロックチェーンを活用して実現するための実証研究を開始しました。需要家と発電需要家の希望価格をもとに、様々な方式で取引価格を決定し、ブロックチェーン上で取引を行います。 - 再エネ価値ブロックチェーン取引実証 デジタルグリッド (※4)
発電需要家の自己消費した電力量を計測し、再エネ自己消費価値として客体化したものを、再エネ電源比率を高めたい需要家に販売する仕組みをブロックチェーンで実現します。再エネ自己消費価値は、スマートメーターに接続された独自のデバイス(DGC)を用いて計測し、ブロックチェーンに記録します。2018年度から2020年度にかけて行われている、環境省の「ブロックチェーン技術を活用した再エネCO2削減価値モデル事業」採択事業です。
P2P取引のユースケース
電力事業においてビジネス化に向けて特に活発に検討が進められている、P2P電力取引のユースケースをご紹介します。
P2P電力取引は、太陽光発電などの自家発電装置を持つ需要家(発電需要家)が発電した電気のうち余剰分を、電力事業者に買い取ってもらう代わりに、需要家に直接買い取ってもらうことで、売り側はより高く、買い側はより安く売買できる仕組みです。
P2P取引をローカルの専用電力網の中で行うものと、既存の電力網を使って行うものの両方について実現性が検討されています。
図3:ブロックチェーンによるP2P電力取引の概要例
売買取引履歴と、売買した電力量をブロックチェーン上に記録することで、電力の客体化とP2P取引を実現します。
デバイスによる計測の不正防止や維持管理の仕組み、P2P取引サービスの運営が必要となること、既存の電力網による個人の電力売買は日本の法制度上認められていないことから、電力事業者がサービス提供者となり、需要家が利益を見込める範囲の利用手数料をもらい運営する形となると想定されます。また、一度の取引が極めて少額であるため、決済方法を決める上で手数料を考慮する必要があります。
電力事業へのブロックチェーン適用のポイント
電力領域にブロックチェーンを適用するためには、フィジカル領域の電力をサイバー領域に何らかのデータとして客体化し、それらを共有したり、取引したりすることとなるため、電力の計測デバイスとブロックチェーンとを組み合わせる必要があります。このとき、計測デバイスが作り出したデータがブロックチェーン上に記録されるまでの経路において、不正行為ができないようにするための対策が非常に重要です。
今後、ブロックチェーンに直接データを記録できる機能を有したスマートメーター、といったデバイスが登場するかもしれません。
http://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/pdf/009_08_00.pdf