1.NTT DATAのオープンイノベーション
NTT DATAでは、7年前の2013年より、オープンイノベーション事業創発室を発足し、ベンチャー企業と大企業、そしてNTT DATAのトリプルWINを実現するビジネスを迅速に創発することを目的に、オープンイノベーション活動を実施してきております。
今では、世界約20都市に及ぶオープンイノベーションコンテストや、約4000名以上のイノベーターが集うマンスリーフォーラム“豊洲の港から”を実施しており、すでに20件以上のビジネス創発を実現しています。
発足当初はオープンイノベーションという言葉自体、日本においては馴染みの少ないものでしたが、それ以降、様々な企業にてオープンイノベーションの重要性が解かれ、さらには日本政府も本腰を入れてJスタートアップなどの取り組みが行われ、新しい産業及びイノベーション育成の方策としては、今となっては世界中で当たり前の活動となっております。
しかしながら、このコロナの影響により様々なオープンイノベーションイベントが中止になり、グローバルな行き来が極端に制限されるようになっている現在、オープンイノベーション自体のやり方を変えていかなければならない転換点にきていると思います。
2.withコロナ時代のオープンイノベーションの課題
この日本においても、緊急事態宣言が発出されて以来、我々の生活はいわゆる“三密を避ける”そしてその中で“経済活動を維持する”という新しい生活様式に転換をせざるを得なくなってきています。
このフレームをオープンイノベーションに当てはめますと、“オープン”と銘打っているのは“企業に閉じない”ことや“コラボレーション”を高めることを言っているのであって、仕掛けとしてはマッチングイベントやビジネスコンテストなどを実施し、極めて“密”な空間に同じ方向性のミッションを持った沢山の人々が一堂に集うことによって、ある意味沢山の“偶然の出会い”すなわち“Serendipity(偶然に物事を発見する力)”を促進する機能が、新しいビジネス創発を生んできた原動力になってきたかと思っています。また、さらに重要なのは、実際にリアルに出会い、握手して、場合によっては食事をしながら語り合うことにより生じる“心の繋がり”というところが重要な要素となっていたのではないかとも思っています。
そういう意味では、これまでのオープンイノベーションの仕掛けは“密”を作り出すことにより活性化してきたやり方であり、withコロナ時代における“密を避ける”仕掛けで、如何にこれまで同様の効果を生み出していくかを、早急に検討していく必要が出てきていると思っています。
3.withコロナ時代のオープンイノベーションの新しい仕掛け作り
“密を避ける”中での、多数の“偶然の出会い”や“心の繋がり”を生むことをどのように実現するか?ということは、現在、みなさんが急速に実施拡大しているオンラインミーティングのZoomなどでは、コミュケーションは取れても、そこまではなかなか難しい面があるということは、皆さんも感じていることかと思います。
私も苦肉の策で、ウェビナー後に5人ずつのブロック化し、15分シャッフルで繰り返すというやり方も試したりしていますが、それでも、リアルでのイベント会場で、偶然のたくさんの出会いからビジネスが生まれることを何度も経験している私にとっては、なんとも非効率であり、かつ“心の繋がり”を生み出すところまでは難しいと感じてしまいます。
そんな中、海外の企業やイベントなどでは、参加者にゴーグルを配布して、既にVR展示会へ切り替えを行なっている、という話を聞いています。これはもしかすると多数の“偶然の出会い”や“Serendipity” を解決する一つの手段となるかもしれません。
これまでは、まさにVRベンチャー企業がゲーム業界を主軸として展開されていたところが、一気に前倒しでイベントを含めミーティングなどのB2B分野へ拡大することになるのかもしれません。また、それによりNTT DATAでもVRチームがおりますのでオープンイノベーションで大企業と組むことで更なる事業の機会が広がる可能性があると思います。
(参考)VR(仮想現実)による遠隔会議が現実を超える:
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2018/0723/
しかしながら、私が課題と感じているもう一つの“心の繋がり”ということは、例えばVRで仮想の密な空間が作れたとしても、感情や想いをどれだけリアルに近いかたちで感じ取ることができるかというところが、気になるところです。
世界約20都市で行ってきたNTT DATAオープンイノベーションコンテストでは、私達はほとんどの国を厳しいスケジュールの中、敢えてまわりました。この理由は、実際に会って“遠いところからよくきたな”から始まって、話をして握手をしてハグをして食事をして苦労を分かち合って成功や失敗を分かち合うという、リアルな世界でのやりとりがとても重要と感じていたからです。
つまり、この図のように、リアルの繋がりは“疎”を保ったまま、心の繋がりを“密”に持っていくようなソリューションをこれからのオープンイノベーションの仕掛け作りにビルトインしていく必要があると思っています。
しかしながら、この解決策は、残念ながらまだ、私の中では確固たるものがありません。もちろん技術的なソリューションで全て解決できるとも思っていませんが、このような新しい課題感へ最も感度高く反応し新しい取り組みを仕掛けているのは、やはりスタートアップかと思いますので、私が存じ上げているいくつかヒントになるようなスタートアップのご紹介をさせて頂きます。
4.“心の繋がり”をサポートするスタートアップのご紹介
顔の表情をカメラで撮影しながら、感情や信頼度を計測し銀行の融資審査に利用している実績のあるソリューションです。
NTT DATAオープンイノベーション コンテストホームページ:https://oi.nttdata.com/en/contest/10th/locations/c03/
NAUPHILUS ホームページ:https://www.dott.technology
こういった技術を活用して、プレゼンの時の、イノベータのパッションを図る、信頼度、誠実度など、リアルではわかり難かったこともわかるようになるかもしれません。
そして、さらには、オンライン上に参加している人々の各々の心の動きの状況をお互いがリアルタイムで把握しながら、全体として高まるモチベーションの方向を目指すといったこともできるようになるかもしれません。特にZoomなどでは常に画面上に顔があるというところは、測定しやすいメリットとなります。
NTT DATAでは、声や表情を掛け合わせ個人の印象を見える化するCom Analyzer®というオープンイノベーションで事業化したソリューションもあり、営業支援や研修などに実際に使われておりますので、このようなソリューションが更なる注目を集める可能性もあるかと思います。
Com Analyzer®ホームページ:https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/com_analyzer/
二つ目は、福利厚生で提供しているAI恋愛ナビゲーションアプリ「Aill(エール)」です。(2019年第10回NTT DATAオープンイノベーションコンテスト東京選考会ファイナリスト審査員特別賞企業) これは単なるデートのマッチングアプリではなく、男性と女性のお互いのコンテキストをAIが理解し、チャットによる会話をAIがアシストしてくれるのが大きな特徴です。
Aillホームページ:https://aill-navi.jp//
この機能を活用して、例えばミーティングの発言方法などについて、より全体としての議論を高めたりモチベーションを高めるような発言方法をサジェスションしてもらうことや、オンライン上でのネットワーキングの際に全く知らない人同士での仲良くなり方のようなノウハウを適宜教えてくれるようなことに繋がるかもしれません。こうなるとむしろ、これからはAIアシストのあるオンラインネットワーキングじゃなきゃ嫌だなぁ、みたいな人が出てくるかもしれません。
そして三つ目は、アンドロイド研究で第一人者の大阪大学石黒教授の研究成果をもとに作られたコミュニケーションロボでハグ体験を提供する株式会社テレノイドケアです。(2019年豊洲の港から“エイジングテック”出場企業)
テレノイドホームページ:https://telenoid.co.jp
豊洲の港から:https://oi.nttdata.com/program/forum/history/20191118/
この抱き心地の良いロボットを抱きながら遠隔で耳元で離れた人々と会話をすると、まるで魔法のように落ち着いた心になり、認知症や自閉症などの方でも心を開いて、会話をするようになると言います。
この原理や機能を活用することによって、もしかしたらこれまで、遠くの海外の現地へ出かけて行って、握手してハグをして心を密接に繋がせてきたことの、代替となるようなところまで到達することはできないものかと、妄想を膨らませてしまいます。
ということで、3種類の優れたベンチャー企業をご紹介させて頂きましたが、ここでは、明確な答えはありませんが、これからのオープンイノベーションにおいて、私が感じている“心を密接に繋ぐ”ことへの課題感に対するヒントになるのではないかと思っています。
withコロナの時代には、このような取り組みがこれまで以上に加速化して求められ、大きなビジネスチャンスでもあり、かつ、オープンイノベーションエコシステムや遠隔の仕事を実現する仕掛け自体にも、大きなイノベーションを起こすことができるかもしれません。
5.地域偏在・タイムマシーンモデルの崩壊
最後に、このwithコロナ時代への突入によって、オープンイノベーションにおける地域偏在・タイムマシーンモデルの崩壊が起きるのではないか、ということをお話したく思います。
タイムマシンーンモデルとは、昔からよくコンサルティングなどで、先進事例のベストプラクティスを、まだやってない地域で活用して新しいビジネスの芽をいち早く育てる、ということが行われていたと思います。
オープンイノベーションの世界でもよく、まずは、シリコンバレーから始まり、次はロンドン、そしてイスラエルなど、皆さんも注目している地域は、古くからのエコシステムが成熟していることによって、育てられたベンチャーが集まっているため、まずはそこにアンテナを貼っておこうという企業が多いかと思っています。
私達は、それが今後、様々な地域で育つ活動が活発化することによって、分散化していき、さらにそれが地域の課題に密着したものが出てくるため、様々な地域にアンテナを貼る必要があると考え、世界20都市でのコンテストを行ってきたわけです。
しかしそれが、このコロナによって、一気に進展の速度が早回しになり、世界各地のイノベーション度の格差が縮まることになるのではないか?または、逆転現象が起きるのではないか?と思っています。
つまり、デジタル化を推進することは、世界共通のしかも喫緊の共通課題となり、withコロナの中で、いかに収束させイノベーション促進へのアクセルを踏めるかが、いっせいのせ、で改めてスタートダッシュが始まります。そのため、withコロナに合った新しいイノベーション創発の仕掛け作りと取り組みを、いち早く取り組めるところがこれからのイノベーションの覇権を取れる可能性があるということになると思います。
その中では、withコロナを抑え込みながら走り始めている、日本を含めたアジア各国にもその可能性は、十分高いのではないかと思っており、今こそ、これまでの、遅れを挽回できる、大きな機会が訪れていると思っています。
とはいえ、それどころではなく本当に大変な苦労をされている皆様がおられることも重々承知しております。
我々は守りと攻めのどちらも精一杯応援させて頂きたいと思っております。
こんな時だからこそ、オープンマインドで、リアルには会えなくとも心は強く世界中と繋がって、オープンイノベーションの新しい仕掛けをいち早く展開することで、世界を幸せにする活動をさらに加速して進めたく思っています。
合言葉は、
“さあ、ともに世界を変えて行こう!”
です。