NTT DATA Innovation Conference 2022において本記事に関する講演があります。
詳細は本記事の下部をご覧ください。
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地方銀行の役割は銀行業だけではない。注目はデジタル化の支援
――脱炭素に代表されるグリーン戦略ですが、自治体はどういった取り組みを行っているのでしょうか。
三菱HCキャピタル ライフ事業部長
髙山 巌 氏
各自治体が力を入れているのは、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)(※)と呼ばれる官民連携の仕組みです。なかでも、民間の資金や技術、経営ノウハウを活用して公共施設などの建設や維持管理、運営などを行うPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)に注目が集まっており、大手企業と地元企業、自治体が連携して地域を盛り上げるといった観点での地方創生が進んでいます。
そんな地方創生のなかでも、グリーン化は重要な位置づけです。再生可能エネルギー事業に参入し、発電したグリーン電力を地元で消費。いわゆる、電気の地産地消です。また、電気工事や保守点検の一部を地元企業が請け負うなど、関わる産業も地域で担い、産業やエネルギー、金融、収益を含めた幅広い意味での地産地消をめざす自治体も徐々に増えています。
――再生可能エネルギーで幅広い地産地消をめざす。その仕組みに地域の金融機関は、どういった取り組みをするべきだと考えますか?
金融事業推進部 デジタル戦略推進部 山本 英生(以下、山本)これまでの地方銀行の役割は、融資による地域の中小企業支援が中心でした。しかし、多くの地域金融機関、特に地方銀行は、人口減少や地域経済の衰退、長引く低金利などにより取引先が減少し、現在厳しい状況にあります。一方、改正銀行法による規制緩和で、貸し出しや融資だけに留まらない、新たな業務で収益源を確保することも可能になりました。これからはその波に乗り、地元企業のデジタル化推進を支援することが重要な役割になると考えます。
「地方銀行がデジタル化支援?」と思うかもしれませんが、勘定系システムを自前で構築するなど、地方企業の中ではITケイパビリティが高い業種です。地元企業のデジタル化が進めば、生産性が向上して利益率も上がり、結果として融資も増えていきます。この仕組みをさらに広げて地域全体に適用することで、スマートシティ・スーパーシティまで領域が広がり、地方の効率化や産業育成といった地方創生にもつながるはずです。
――デジタル化やDX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進は、脱炭素といった観点でも重要な要素です。
金融事業推進部 デジタル戦略推進部
山本 英生
山本 デジタル化の推進で、現場が最も効果を感じられる紙の削減は、脱炭素にもつながる話です。また、昨今のテレワークのような柔軟な働き方の推進も脱炭素の第一歩ではないでしょうか。取引先企業のテレワーク導入支援を開始している地方銀行もあります。
再生可能エネルギーについて言えば、FinTechを活用したファイナンスで資金を調達し、DXによって電力の地産地消を後押しすることも考えられます。これらの施策により地方として一体感が出て、脱炭素と地方創生、デジタル化がすべてつながっていくのが理想的な姿です。
公民が連携して公共サービスの提供を行うスキームのこと。
地方銀行が主導することで脱炭素×地方創生の好循環が生まれる
――三菱HCキャピタルグループは再生可能エネルギー分野に強みを持っており、脱炭素×地方創生を実現した事例をお持ちです。どういった取り組みか聞かせて下さい。
髙山太陽光発電事業では、埼玉県所沢市で西武グループと連携し、耕作放棄地を活用したソーラーシェアリング事業を運営しています。三菱HCキャピタルグループが太陽光発電システムを設置して発電事業を展開し、営農事業者である西武アグリ様が、太陽光発電システムの下でブルーベリーとぶどうを栽培。ぶどうをワインに、ブルーベリーをジャムにしてホテルに出荷、食の地産地消を推進していきます。
発電した電気は、ところざわ未来電力に全量を売電し、所沢市の公共施設に供給します。電力も地産地消することで年間約500トンのCO₂排出を削減。所沢市が進める「所沢市マチごとエコタウン推進計画」の柱の一つである再生可能エネルギーの積極的な導入にも貢献しています。
風力発電事業では、青森県横浜町と三菱HCキャピタルグループで特別目的会社を設立。風力発電14基からなる大規模な発電所を共同運営しています。得られた収益の一部は自治体へ基金として還元。また、横浜という地名つながりで、風力発電の電気を神奈川県横浜市内の事業者へも提供しています。地方への収益還元を実現し、地方から都市部に再生可能エネルギー電源を供給するよい事例を作ることができました。
山本地域で新しい事業が始まれば、当然、さまざまな事業者が関わってきます。施工や保守管理の下請けには地元企業も参入するでしょう。地方銀行には、そういった企業からの決済や融資のニーズが発生します。さらに言えば、新しい取り組みに関係する事業を誘致して、地場の産業や雇用につなげていきたい。この流れを強化させることで、地方活性化につながります。こういった取り組みの旗振り役に地方銀行がなれるかどうかは、大きなポイントです。
髙山確かに、地域のことは、地元企業のメインバンクである地方銀行が一番ご存じのはず。われわれのノウハウを提供し、地方銀行と当社のような事業者とで、しっかりと連携することが、好循環の足がかりだと思います。
脱炭素×地方創生に必要な社会・環境価値の向上とトラスト(信頼感)の醸成
――脱炭素×地方創生には、地方銀行の後押しが非常に重要なことが分かります。このトライアングルに対して、NTTデータに期待することをお聞かせ下さい。
髙山脱炭素×地方創生の取り組みは、DXによって加速できると考えています。例えばFintechやブロックチェーンの技術を用いた、地域連携事業におけるサプライチェーンの構築、遠隔保守による地元企業支援など、さまざまなテクノロジーの進化が地方創生を後押し、実現する鍵だと感じています。そういった意味では、NTTデータには技術面での後押しを期待しています。
また、NTTデータが推進している「センシングファイナンス®」にも注目しています。決済や融資に留まらない事業サポートは、これまで地方銀行が取り組んでこなかった分野です。そこに向けての重要な鍵となるのではないでしょうか。
山本センシングファイナンスはNTTデータの造語です。金融機関が今まで利用してこなかったデジタル・リアルのデータを取り込むことで、従来の金融商品やサービスを高度化する、あるいは全く新しい商品・サービスを生み出すことを指しています。
髙山センシングとファイナンスをつなげるのは、新しく生まれた概念です。例えば、センシングによって得られた情報を融資判断や保険料に反映させることなどが考えられます。また、センシングによって余剰在庫を可視化して無駄を省けば、グリーン化にもつながります。
山本地方企業のデジタル化を進めていくと、業務が効率化されるだけでなく、さまざまなセンシングデータも蓄積されていきます。そのデータを活用して、地方銀行は人手をかけず融資を行う。これはまさにWIN−WINの関係です。地方銀行も人手不足は大きな課題で、今後は足で稼いで融資する時代ではなくなります。必然的にデータを活用しながらの融資が本流になるでしょう。
――センシング以外に脱炭素や地方創生の推進にとって必要な要素をどう考えますか?
髙山「社会価値」と「環境価値」を高めることが重要です。これまでの脱炭素や地方創生は、コストや収益に終始した面も見受けられました。これからは、経済価値を追求するだけでは不十分で、社会価値や環境価値を高めることが世の中のトレンドになりつつあります。そこにこだわらなければ、結果的に続かないのではないでしょうか。
すでに欧米では株主至上主義からの脱却が始まり、SDGsを踏まえたESG経営に移行しています。グリーン化の推進で、地域社会を尊重し環境を保全することが企業のサスティナブルな成長につながり、結果として利益につながる。社会全体の価値観が変わりつつあります。
山本脱炭素の推進に関して言えば、「トラスト=信頼感」がひとつのキーワードになると考えています。金融でもトラストは重要な要素です。お金はあくまで紙。ゴールドのような実物資産ではないので、価値は目に見えません。利用者側が「お金に高い価値がある」と信じることでシステムが成立しているのです。
実は脱炭素も、根底はこの構造と似ています。誰もが脱炭素は社会に必要なことだと頭では理解しています。しかし減ったCO₂は目に見えないし、災害が減ったという実感も湧きにくいでしょう。みんなが、「脱炭素には価値がある」と信じることで成立するのです。しかし残念ながら、現時点ではトラストが醸成されているとは言い難いです。金融機関が持っている、トラストを生み出し維持するノウハウを活かせば、脱炭素に資する何かができるのではないでしょうか。
――トラストの醸成は簡単ではないと思います。どういった施策や心構えが必要でしょうか。
山本 デジタルデータのハンドリングやテクノロジーの使い方によって醸成が進むと考えています。一例を挙げると、商品は、製造過程や購入後の使用でCO₂を排出しますよね。スウェーデンのあるテック企業では、クレジットカードで購入した商品のCO₂排出量が上限に達すると、クレジットカードの利用が制限されるサービスを計画しているそうです。
これはまさに、データの可視化によって実現した事例です。金融と脱炭素がトラストを根底に持つ取り組みであることを示しています。日本における脱炭素や地方創生でも、われわれのようなIT企業が下支えをしつつ、地方銀行や自治体とも協力しながら、グリーン社会創造に邁進していきたいですね。
地方企業をつなぎ・まとめることで新たな価値を創造する
――三菱HCキャピタルは、脱炭素や地方創生において、どういった役割を果たしていくのでしょうか。
髙山脱炭素や地方創生には、さまざまなステークホルダーが存在します。PFIのような大規模事業で地方に産業を作るときは、大企業が主導することが一般的ですが、地方銀行や地元企業の力も結集しなくては達成できません。その際、「つなぎ・まとめる」ことで、新たな価値を創造していくのが私たちの役割です。あらゆる産業にお客さまを持ち、長年にわたり地域に密着したビジネスを展開、そして再生可能エネルギーにも早くから参入していた三菱HCキャピタルだからこそできる挑戦だと自負しています。
――NTTデータはどうでしょうか。
山本三菱HCキャピタル様も同じだと思いますが、地元に産業を呼び込むために口火を切る役割だと思っています。先ほど話に出た太陽光発電や風力発電の事例も、トリガーとなり地元に産業を創出しています。
先日、NTTデータは、山形県酒田市とデジタル変革推進に関する連携協定を締結しました。こういった取り組みで地方に場をつくり、面白いことを始める。そこに地方銀行や地元企業を中心にさまざまな産業が集まって、脱炭素や地方創生が盛り上がるのが理想的ですね。そのために、デジタルテクノロジーを武器にしながら、お客さまと更にその先の生活者のデジタル化を促進させていきたいと思います。
――最後に、脱炭素×地方創生において、今後の展望をお聞かせ下さい。
髙山プロスポーツのスタジアムやアリーナ整備に力を入れていきます。今、さまざまなプロスポーツチームが、地方に本拠地を構えており、その周辺に産業も生まれ、地方創生の後押しになっています。スタジアムやアリーナは、防災拠点としての側面を持っており、いざというときに電気を自給自足できる設備も必要です。これは、グリーン化にもつながります。
スポーツに限らず、何かしらの産業をきっかけに、グリーン化やデジタル化、データ活用を結びつけることで地方創生が進むはずです。それぞれ単発の事業として完結させるに留まらず、地域全体の活性化に活かせるような、つながりのあるまちづくりに挑戦していきたいと思っています。
山本デジタル化を進めていくことが、結果として地方創生、そして脱炭素につながると信じています。紙の削減はCO₂排出量を低下させ、脱炭素の実現に寄与するでしょう。また、効率化は働き手が足りない企業を助けるはずです。デジタル化やDXから生まれるデータは、売り上げ向上のきっかけや新規ビジネスの足がかりとなるかもしれません。地元企業の活性化は、地方創生には必要不可欠です。
髙山NTTデータのようなパートナー企業と共創して、ファイナンスにテクノロジーやデータを掛け合わせることで、ビジネスモデルを進化させたいですね。三菱HCキャピタルはリース・割賦などの販売金融が祖業。根本は、地域の方にモノを提供し使っていただくビジネスです。しかし、その枠を超えて、ここにデジタルやデータを掛け合わせることで、モノの価値をさらに高めて地域の方々に貢献したいと思っています。
山本「地域の方々に貢献したい」という言葉がありましたが、われわれの最終的な目的も生活者の幸せです。そういった意味では、三菱HCキャピタル様とNTTデータが見据える先は同じ。特に、脱炭素や地方創生にとっても必要不可欠な地方銀行のIT化の取り組みにおいては、非常に近い立ち位置にいることは間違いありません。
ただ、NTTデータはデジタル化の支援はできても、風力発電のファイナンスや、金融と再生エネルギーをつなぐという部分を単独で進めるのは難しい。こうしたテーマについて三菱HCキャピタル様と一緒に進めていきたいと考えています。
講演情報
NTT DATA Innovation Conference 2022
新しい「これから」
2022年1月27日(木)、28日(金)オンライン開催
2022年1月27日(木)11:00~11:30
グリーン×トラストで実現する新しい金融の世界
NTTデータ 金融事業推進部 デジタル戦略推進部 推進部長
山本 英生