1.自治体としてどのように脱炭素を目指すか困っていませんか?
昨今の脱炭素への関心の高まりは自治体にとっても他人事ではなく主体的な取り組みが求められています。2050年CO2排出実質ゼロを表明するゼロカーボンシティは2022年10月31日時点で797自治体、総人口で1億1,933万人となっており、日本全体をほぼ網羅しています。(※1)
脱炭素宣言をした自治体は“どのように脱炭素を目指すか”という課題に直面するでしょう。脱炭素は人類史上まったく新たな課題であり、現時点で明確な正解がないことから多くの人が困惑しているのではないかと思います。特に自治体は市庁舎や公共施設など自治体自身の脱炭素だけでなく、域内の事業者や住民も含めた脱炭素が求められています。さらには、自治体の首長は脱炭素に意欲的なものの、実務者レベルでは知見がなかったり人手が足りなかったりすることも多く、思うように前に進まない自治体も多いのではないでしょうか。
NTTデータ経営研究所は環境・エネルギーを専門とするコンサルティング会社としてこれまで数多くの自治体の脱炭素に向けた支援をしてきました。困っている自治体職員と共に悩み、考え、一定の解決策を導いてきました。今回は実際の事例を通して培った知見を共有することで、自治体としてどのように脱炭素を目指すか困っている方の悩みを解決したいと思います。
CO2などの温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と、森林等の吸収源による除去量との間の均衡を達成すること(出典:環境省_地方公共団体における2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明の状況)
2.まずは脱炭素計画を策定しましょう
自治体が脱炭素を目指すための取り組みとして、“脱炭素計画の策定”と“施策の立案”の大きく2つがあります。今回は前者の“脱炭素計画の策定”にフォーカスを当ててお話したいと思います。
目標の達成には“計画”が重要です。自治体における脱炭素も例に漏れず“計画”が求められます。脱炭素計画の策定には、「地域の特性把握」、「GHG排出量の現状把握と将来予測」、森林などによる「GHG吸収量の現状把握と将来予測」、「再エネの利用可能量」の把握の4点が必要になります。(※2)(※3)
「地域の特性把握」は、自然的・経済的・社会的にどのような自治体なのかを整理することです。森林面積が多いのか、製造業の事業者が多いのか、人口が増加しているのか。脱炭素計画は自治体ごとのオーダーメイドで、地域の特性把握なしに意義のある計画策定はできません。特に、計画策定後の施策の立案も地域特性を最大限活かすべきで、基礎的な事項であり、重要なポイントです。
「GHG排出量の現状把握と将来予測」は、産業、家庭、業務、運輸、廃棄物などの部門に大別して個別に試算します。具体的には活動量×排出原単位となり、活動量には製品出荷額、人口、延床面積、自動車保有台数などを用い、排出原単位には活動量ごとのCO2排出量を想定することで各部門のCO2排出量を試算しています。さらに、省エネや電化による排出量の増減もあり得るため、将来の姿を想定して社会変化を表す適切なパラメータを掛け合わせる必要があります。例えば、神奈川県川崎市の地球温暖化対策推進基本計画では実質GDP成長率やZEB/ZEH普及率などの値が明記されています。(※4)これは実質GDPの成長にともないCO2排出量が増加するものの、ZEB/ZEHの普及により省エネも促進されるというシナリオになっていると考えられます。北海道鹿追町のゼロカーボンシティ推進戦略では無対策時の将来予測も公表されており、経済成長にともなうエネルギー消費の増加によりCO2排出量も増加することになっています。そのため、省エネ、再エネ導入やエネルギー転換により経済成長と脱炭素を両立した計画策定が必要になります。重要なのは、自治体のCO2排出量の内訳や産業構造から適切な活動量やパラメータを設定することです。
図1:鹿追町における無対策時のCO2排出量の将来予測
(出典:鹿追町ゼロカーボンシティ推進戦略)
「GHG吸収量の現状把握と将来予測」は、森林などによる吸収量を試算します。森林は成長とともに幹などに炭素を固定してくれますが、ある程度成長すると吸収量が鈍化してしまうため、樹種別の吸収量や樹齢を考慮すべきです。都市部の自治体では難しいですが森林面積が豊富な自治体ではカーボンマイナスを目指すことも可能なので、地域の特性に応じた試算が必要となります。(※5)
図2:樹木のCO2吸収・排出量の樹齢依存性
(出典:林野庁_森林の地球温暖化防止機能について)
「再エネの利用可能量の把握」については太陽光発電、風力発電、バイオマス発電などの複数の電源種別が域内でどの程度導入できるかを試算します。太陽光発電については空地や建物の数や面積を基に設置可能な容量[kW]を算出しています。風力発電については風況や好風況地における既存の土地利用を踏まえて試算しますが、都市部ではほとんど導入可能性がないのが現状です。その他の再エネは地域の特性に応じた検討が必要なので前述の特性把握が重要となります。
最後に、上記4点を踏まえて2050年脱炭素までのシナリオを描き、現実的かつ意欲的な2030年の中間目標を設定します。これにより、脱炭素計画の概略が完成します。
この4点に着目した例として長野県の脱炭素計画を見てみましょう。
森林が県土の8割を占める長野県では、2050年におけるCO2排出量が67万t-CO2であるのに対して森林吸収が200万t-CO2となっており、全体としてカーボンマイナスとなっています。産業用高温炉など、技術革新なくして脱炭素が難しい排出源については森林吸収量以内に納めることで脱炭素を目指す計画となっています。森林吸収がポイントになるため、適切な森林維持と継続的なモニタリングや森林資源の可視化が重要となるでしょう。
図3:長野県における脱炭素計画
(出典:長野県ゼロカーボン戦略【概要版】_2022年5月)
温室効果ガスのこと
再生可能エネルギーのこと
net Zero Energy Building/ net Zero Energy Houseとは建築物における一次エネルギー消費量を、建築物・設備の省エネ性能の向上、エネルギーの面的利用、再エネの活用等により削減し、年間での一次エネルギー消費量が正味でゼロ又は概ねゼロとなる建築物(出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構)
人為的に排出される温室効果ガスよりも、森林などにより吸収される温室効果ガスの方が多い状態のこと
3.可視化の高度化が計画策定の課題を解決する
これまで計画策定のプロセスを解説してきました。ここでいくつかの課題を抱えていることに気付いたでしょうか?
まず大きな課題は、今回説明した方法では個々の削減努力が反映されるまでに時間がかかる、もしくは反映されないということです。これは、いずれの試算でもマクロな視点から平均値や統計値などが使われているためです。例えば、前述の神奈川県川崎市では国全体の実質GDP成長率というマクロな数値を指標として試算しています。一部の自治体では域内企業から毎年エネルギー消費量やCO2排出量を報告してもらう報告書制度を導入していますが、全企業や家庭部門、運輸部門のように住民由来の排出量については把握できません。対策の1つとして域内全体を丸ごと可視化するプラットフォームを導入することが考えられます。NTTデータのC-Turtle™をはじめとして既に事業者のCO2排出量を精緻に可視化するためのソリューションが多数存在します。(※6)これを域内に導入すれば一元的にプラットフォームにデータを集約することで、理論的には統計値に頼らない精緻なCO2排出量を把握することが可能になります。実現すれば、個々の削減努力を瞬時に反映できるため自治体として脱炭素に向けた進捗を把握しやすくなるでしょう。現状ではコストや情報の秘匿性などの課題があり、このような取り組みはまだ存在しませんが将来的に取り組みを高度化する際のアイデアとして認識しておくとよいでしょう。
図4:域内可視化プラットフォームのイメージ
次の課題は、自治体の特性次第で脱炭素の難易度が変わるということです。例えば、人口が少なく森林面積が広い自治体は再エネの導入と適正な森林管理で脱炭素どころかカーボンマイナスが達成できるかもしれません。一方で、製造業などの産業集積地となっている自治体では複数の工業プロセスを脱炭素する必要があり技術革新が不可欠となります。地域特性を踏まえた現実的な計画を策定するためには、域内でどのようなエネルギーがどのように使われているかを可視化する必要があります。こちらも統計値を用いることはできますが、事業者のエネルギー消費状況が可視化できる前述のようなソリューションが活用されるとより具体的な検討ができるようになります。
温室効果ガス排出量の算定を行うNTTデータのソリューション
https://www.nttdata.com/jp/ja/lineup/c-turtle/
4.おわりに
脱炭素に向けて自治体としてまずは脱炭素計画の策定から取り組むべきという話をしました。計画策定においても課題はあるものの、まずは統計値などを用いつつ将来的には可視化ソリューションを広域に導入・活用して精緻なデータに基づくPDCAサイクルを回すことが必要ではないでしょうか。自治体の脱炭素計画の策定でお困りのことがあればお気軽に弊社までご連絡ください。