医療データの利活用を促す「次世代医療基盤法」
近年、日本における医薬品産業の国際競争力低下が指摘されている。この背景について内閣府 健康・医療戦略推進事務局の竹林経治氏は、「リアルワールドデータの利用がしにくいこと」「さまざまなデータベースが分散していること」を課題として挙げた。こうした課題を解決して競争力を高めるためには、創薬に円滑に活用できる大規模な医療のデータベースの構築が不可欠だ。
こうした考えのもと2018年に施行されたのが、健診結果やカルテなどの個人の医療データを大規模に集積し、研究開発での活用を促進するための「次世代医療基盤法」だ。
この法律ができる以前は個人情報保護の観点から医療データの収集に大きな制約があった。ビッグデータを構築するためには医療機関がデータの集積拠点に情報をアップロードする必要があるが、個人情報保護法上は原則として患者の同意を取得しなければならないからだ。
「次世代医療基盤法」は医療情報の大規模な収集・利活用と、個人情報保護を両立させるための、個人情報保護法の特例法と位置づけられている制度だ。国の認定作成事業者が厳格な管理のもとで医療情報を大規模に収集し、匿名加工を確実に施した上で研究現場での利活用のために提供する。医療機関等が認定作成事業者に医療情報を提供する際に患者から明確な同意まで取る必要がないことから、医療機関等の現場における事務負担は相対的に軽くて済む。患者は情報が提供されることについて通知を受けるが、停止の申し出をすることも可能だ。
「次世代医療基盤法」のデータベースの特徴は3つ挙げられる。1つ目は、さまざまな主体から多様なデータを収集して名寄せすることが可能である点。2つ目は、検査結果を含んだリッチな情報の集積が可能になる点。3つ目は、国の認定を受けた民間の認定作成事業者が個人情報保護の観点から懸念が生じないようデータの匿名加工などを確実に実施する点だ。
現在は3つの認定作成事業者が運営しており、協力医療機関や自治体数は127。約400万人分の医療データが収集されている。データを利活用する側にとっては、利活用する際に自機関の倫理審査委員会の承認を得る必要がないため、円滑なデータの利活用が可能となる。
改正で「仮名加工医療情報」利用と公的データベースとの連結が可能に
2024年4月には「改正次世代医療基盤法」が施行された。法改正の背景としてはまず、「『匿名加工医療情報』が医療分野の研究で使いにくい」という指摘があった。「匿名加工医療情報」とは、ほかのデータと照合しても個人を識別できないように加工した医療情報のこと。氏名を削除するだけでなく、飛び抜けた検査数値の場合に数値を丸めたり、稀少疾患の名称を削除したりする対応をしなければならない。しかし、元のデータから中身が変わってしまうため、研究に使いにくいのだ。また、「次世代医療基盤法」は名寄せができる点が特徴である一方、NDBなどの公的データベースと連結ができない点も課題だった。
では、「改正次世代医療基盤法」によって何が変わったのか。竹林氏は次の3つのポイントを挙げた。
本記事は2024年8月開催のイベント内容をまとめた3本のレポートから、改正次世代医療基盤法について一部抜粋してご紹介しています。
レポート全文はこちらからダウンロードいただけます。
1.改正次世代医療基盤法で、医薬品産業のリアルワールドデータ活用が変わる
内閣府
健康・医療戦略推進事務局 次長 竹林 経治 先生
国立がん研究センター東病院
医薬品開発推進部門 医薬品開発推進部 国際研究推進室長 中村 能章 先生
東京大学大学院
医学系研究科 生物統計情報学講座 特任講師 野村 尚吾 先生
国立精神・神経医療研究センター
病院 臨床研究・教育研修部門 情報管理・解析部 部長 小居 秀紀 先生
中外製薬株式会社
バイオメトリクス部 生物統計統括マネジャー 山本 英晴 先生
2.プログラム医療機器最前線 二段階承認で加速するイノベーション
京都大学医学部附属病院
医療情報企画部 教授 黒田 知宏 先生
公益財団法人医療機器センター
専務理事 中野 壮陛 先生
日本デジタルヘルス・アライアンス(JaDHA)
WG2リーダー 阪口 岳 先生
日本デジタルヘルス・アライアンス WG1リーダー
田辺三菱製薬株式会社
デジタルトランスフォーメーション部 担当部長 小島 真一 先生
3.自動車のデータで認知機能低下の早期検知を支援 ヘルスケア領域のデータ利活用最前線
株式会社NTTデータ
第一インダストリ統括事業本部 自動車事業部 統括部長 千葉 祐
株式会社NTTデータ
ソーシャルデザイン推進室 部長 湊 章枝
本レポートは2024年8月28~29日に開催された「LIFESCIENCE FORUM 2024 produced by NTT DATA」での講演をもとに構成しており、講演者の企業名、役職はイベント当時のものです。
LIFESCIENCE FORUM2024についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2024/096/
NTTデータの考える製薬ビジネスの未来に関するホワイトペーパーを公開しています。
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次世代医療基盤法認定データベースについてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2024/053/
全社データ利活用支援(製薬企業における効率的・効果的なリアルワールドデータ分析/活用へのご支援)についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/2024/052/
生産領域における業務・情報のサイロ化を解決!についてはこちら:
https://www.nttdata.com/jp/ja/trends/event/archive/015/
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本記事は2024年8月開催のイベント内容をまとめた3本のレポートから、改正次世代医療基盤法について一部抜粋してご紹介しています。
レポート全文はこちらからダウンロードいただけます。
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本レポートは2024年8月28~29日に開催された「LIFESCIENCE FORUM 2024 produced by NTT DATA」での講演をもとに構成しており、講演者の企業名、役職はイベント当時のものです。