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2025.1.21技術トレンド/展望

デジタルツインを拡大する技術とUAF

デジタルツインは、現実世界をデジタル空間に再現し、様々なシナリオに基づく未来予測を行い、最適な意思決定と実行を可能とする技術であり、製造業をはじめとする企業のDX推進やSDGs経営の重要な技術の一つとして注目を集めている。NTT DATAは、最終的には社会全体の最適化を目指し、デジタルツインコンソーシアムと連携してデジタルツイン構築のための取り組みを進めている。本稿では、デジタルツインの概要と現状の課題を説明するとともに、NTT DATAが開発を進めている技術およびデジタルツインコンソーシアムの母体であるOMG(Object Management Group)が策定しているUAF(Unified Architecture Framework)について解説する。
目次

1.NTT DATAとデジタルツインコンソーシアム

2024年1月、NTT DATAは電気通信、製造業、スマートシティ、銀行・保険など、幅広い分野へのデジタルツイン導入を加速するため、デジタルツインコンソーシアムに加入しました。(※1)
これにより、NTT DATAはデジタルツインを提供する際に必要となるステークホルダーマネージメントにおいて有効なフレームワークであるUAF(Unified Architecture Framework:統一アーキテクチャ)をはじめとする様々なノウハウ、手法を得ることができます。そしてコンソーシアムメンバーとの協業を通じて、デジタルツインのさらなる普及に貢献していきます。両者はその取り組みの一環として2024年12月20日に共同でセミナーを開催しました。

本稿では、デジタルツインの現状と課題を概観するとともに、課題解決に向けたNTT DATAとデジタルツインコンソーシアムの取り組みについて紹介します。

2.デジタルツインとは

デジタルツインとは現実世界をデジタル化し、様々なシナリオに基づくシミュレーションを行い、最適な方法を発見し、現実世界へフィードバックすることで社会、企業および個人の利益を最大化するものです。(図1)

図1:デジタルツインとは

デジタルツインは製造業を中心に技術適用が始まり、IoT機器の発展による取得可能なデータの増加、現実世界の再現精度(モデリング)の向上、大規模シミュレーションや高精度な可視化が可能となったことで、都市計画、建設業、農業、医療など様々な業界へと活用範囲が拡大しています。(図2)

図2:主なユースケース

2.1 デジタルツインの事例

(1)NTT DATA事例:デジタルツインによる空調最適化(※2)
NTT DATAは空調最適化ソリューション「HUCAST AI空調最適化サービス」を用い、JR新宿ミライナタワーでデジタルツインを活用した空調サービスの実証実験を行いました。
計測した気温に合わせていた空調制御(フィードバック型)から、人流や温湿度の変化、天候予想などをもとにシミュレーションを行い、未来の状態を予測し、消費エネルギー削減と快適性の両立を考慮して制御するフィードフォワード型への転換実験を実施しました。従来のフィードバック型では温湿度の変化に対して制御が後手に回るため、急激な温度調整が必要となることで消費エネルギーが増加し、また過度な温度調整により快適性が低下することがありました。今回のデジタルツインの活用実験では、消費エネルギーを最大50%削減し、かつ快適性も大きく向上できることを確認しました。

(2)NTT DATA事例:デジタルツインによる展示会場の人流解析(※3)
NTT DATAは、愛知県が実施する「あいちデジタルアイランドプロジェクト」の一環として、デジタルツイン技術を活用した展示会場の実証実験を行いました。この取り組みでは、人の感性AIである「Neuro-AI」を活用して展示会来場者の行動変化を予測し、展示場およびその来場者をデジタルツイン化しました。
主な目的は、展示会における来場者の回遊行動の予測と、個人に最適化されたブース推奨の実現です。具体的には、イベント効果の推定、会場レイアウトの検討、スタッフ配置計画などへの活用を想定し、展示ブースの外観や混雑度に対する価値観をモデル化した行動シミュレーションを、Neuro-AIを用いて実施します。さらに来場者の満足度向上のため、個々の感性と混雑状況を考慮したブース推奨をスマートフォンで提供しました。

(3)デジタルツインコンソーシアム事例:コグニティブデジタルツインによるヒトのデジタルツイン化
ete holdings Pte. Ltd.は、デジタルツインコンソーシアムと連携し、OMGのUAFを取り入れ、ヒトの性格や特性などを時系列を含めて包括的に生成するツイン生成エンジン「Sapis(サピス)」を開発しました。
当該エンジンのGMOリサーチ&AIでの活用事例として、一般消費者の性格診断データ・消費行動意識データ・ウェブサイト上の行動データを組み合わせて、消費者の意識や行動をリアルに再現し、デジタルツインによるチャット型インタビューを実現します。これにより、従来の消費者アンケートやユーザーインタビューの課題を解消し、より効率的に消費者インサイトを把握するためのマーケティング活動の支援を試みています。

2.2 デジタルツインを構成する技術

デジタルツインは以下4つの技術で構成されています。(図3)

(1)Modeling/Sense
現実世界の情報をデジタル化します。まず、変化が少ない部分(都市構造、建物、交通網、送電網など)をデジタルモデル化します。モデルは、可視化を意図した3Dモデルと、シミュレーションモデルに大別することができます。3DモデルはCADツールによるデザイン、Photogrammetry/3D Gaussian Splattingなどの技術を利用した現実世界における事物の取り込みにより可能となります。一方、シミュレーションモデルはシミュレータごとに用意する必要があります。また、現実世界で刻一刻と変化する情報(風量、人流、温度、電流など)は各種センサー、カメラなどにより、必要に合わせた頻度で計測します。

(2)Synchronization
デジタルモデルと計測した情報を統合します。情報は様々な機器、システムから多様な形式、単位で取得されます。例えば、場所は様々な表現方法(緯度経度、カメラからの相対位置など)があるため、それらを統一的な形に変換したうえで、情報を統合します。

(3)Simulation/Optimization
統合化されたデジタルモデル上で様々なシナリオに基づきシミュレーションを実行し、未来を予測し、最適なシナリオを決定します。シミュレーションを行うシナリオの数、予測する期間、モデルの性質、サイズなどにより、必要な性能は大きく変化します。一般的な手法によるシミュレーションは大量の計算能力を必要とするため、AIの活用、量子コンピューティングおよび量子コンピューティングを模した最適化技術を利用することがあります。

(4)Visualization/Feed Back
決定された最適解を人間にとって知覚可能にするための映像化と、実世界へのフィードバックを行います。実世界へのフィードバックは都市計画のように数十年をかけて実現されるもの、渋滞を緩和するための信号制御のように秒単位で行うもの、製造ラインにおけるロボット制御のようにさらに短時間で行う必要があるものまで様々です。

図3:デジタルツインを実現する技術

3.デジタルツインの課題と解決にむけた取り組み

3.1 デジタルツインの規模拡大

デジタルツインは応用範囲が広く、製造業をはじめとして多様な業界で取り組まれていますが、課題も多く残っています。
現在のデジタルツインは構築に時間がかかります。特に、3Dモデルの製作に精度を求めるとコストも期間も負担が大きくなります。また、デジタルツインでは一般的に関係者が多くなり、その調整に時間を要します。最適解を発見するためのシミュレーションも多くの場合、多大な時間と計算能力を必要とします。その結果、現在のデジタルツインは、対象範囲、予測可能な期間、最適化の目的、効果などが限定的となっており、成功事例も限られています。
これらの課題を解決するためには、デジタルツインをより容易に構築可能とするとともに、複数のデジタルツインを連携することで、より大きなデジタルツインを構築し、部分最適をより全体最適へと近づけることが重要だと考えます。例えば製造業においては、工場のデジタルツインと物流のデジタルツインが個別に構築される場合が多いですが、それらを連携することでサプライチェーン全体のデジタルツインが構築でき、さらなる最適化が期待できます。そして、最終的には社会全体のデジタルツインを構築し、社会全体の最適化を行うことで、様々な企業、個人、社会の課題解決につながり、持続可能な社会の実現にも貢献できると考えています。

図4:デジタルツインの連携による社会全体の最適化

一方、個別に構築されたデジタルツインを連携することはさらなる技術的難易度とステークホルダーの増加など、複雑さの増大を招きます。NTT DATAとデジタルツインコンソーシアムは、このような課題を解決するための取り組みを進めています。

3.2 NTT DATAによるデジタルツイン構築のための技術例

(1)Modeling/Sense:現実世界の3Dモデル化
一般的に3Dモデルの製作は非常にコストがかかります。NTT DATAではPhotogrammetry/3D Gaussian Splattingなどの技術開発により、現実世界のモデル化の精度向上の取り組みを行っています。
取り組みの一つとして自動運転、ナビゲーションなどで必要となる地図のモデル化に関する技術の高度化を進めています。様々な画像、点群(LiDARなどにより取得した点の集合)をずれなく結合し、道路、建物がどこにあるかの意味づけを可能とする高精度な3D地図作成技術の開発をNTT研究所と共に進めています。

(2)Synchronization:データスペース
多数の事業者が情報を提供してより大きなデジタルツインを構築するには、それぞれの組織が情報に関する権利を保持しながら、相互信頼の元、情報を流通し、利用することが必要です。データスペースはそれを可能とする取り組みです。
データスペースではデータの構築、収集、分析、利活用に至るライフサイクルにおいて、複数の組織が持つシステム同士をつなぎ、データ提供者の権利を守る「データ主権」を確保しながらデータを利活用するための各種機能(認証、カタログ、コネクタなど)を提供します。NTT DATAでは経産省が主導するウラノス・エコシステムのデータ流通システムの開発や、デジタルライフラインへの適用などの取り組みを通じて、データスペースの社会実装に尽力しています。(※4)

(3)Simulation/Optimization:最適化技術(量子コンピューティング)
さまざまな組み合わせの中から最適なものを選択する数理最適化は応用範囲が広い技術です。一方、規模に合わせて計算量が増大化し、最適解の発見には時間がかかる場合が少なくありません。NTT DATAでは量子アニーリング/イジングマシン、量子ゲート方式、従来よりも高速、高性能な数理最適化技術に関する取り組みを行っており、より大規模な最適化を高速に実行するための技術開発を行っています。(※5)

(4)Visualization/Feed Back:メタバース(※6)
新たなサイバー空間であるメタバースはデジタルツインにおいても有効活用が可能です。デジタルツインでは最適シナリオの決定が必要ですが、その決定を人が行う場合があります。そのためには、予測される未来を人間が知覚できる状態にする必要があります。メタバースを利用することで、予測される未来をデジタル世界に構築し、多くの関係者が遠隔地から参加し、高い臨場感をもって体験することが可能です。

図5:メタバース上のデジタルツインの例

3.3 デジタルツインコンソーシアムによる取り組み:ステークホルダーの認識齟齬を防ぐUAF

複数のデジタルツインを連携し、より大きなデジタルツインを構築することは社会課題の解決にとって有益です。しかし、デジタルツインの連携はさらなるステークホルダーの増加を招き、その認識を統一することは容易ではありません。そのためのデジタルツインコンソーシアムによる取り組みを説明します。

デジタルツインコンソーシアムの母体であるOMG(Object Management Group)が策定しているUAFは、複雑なシステムを設計し、エンタープライズアーキテクチャ(以下EA)を効率的かつ包括的に管理するための強力なフレームワークです。UAFを利用することで、ステークホルダー間の認識齟齬を防ぎ、SysMLなどのモデリング言語を活用した具体的な実装をスムーズに進めることができます。

(1)UAFの基本構造

UAFの中心的な要素であるグリッド図は、以下のように構成されています:

  • 横軸(Domains):Operational, Systems, Services, Personnel, Information, etc.
  • 縦軸(Modeling Aspects):Structure, Behavior, Data, Information, Capabilities, etc.

このグリッド図により、複雑なプロジェクトにおける異なる視点を統合し、エンタープライズ全体を俯瞰して管理することが可能です。
以下は、UAFの簡略したグリッド図例です:

図6:UAFのグリッド図例

(2)UAFを使ったEA設計の流れ

UAFを活用したEA設計のプロセスを3つのステップに分けて解説します。

ステップ1:必要な要素をグリッド図から選択する最初に、プロジェクトの目標に基づいて、UAFグリッド図から適切な要素を選択します。

例:新しい業務プロセスを導入する場合、以下を選択できます:

  • 横軸:Operational(業務観点)
  • 縦軸:Structure(構造)およびBehavior(振る舞い)

ステップ2:関係者間で議論し、課題を明確化する次に、選択した要素に基づき、ステークホルダー間で課題を整理します。ここでSysMLなどを用いたモデリングを取り入れると、さらに具体的な設計にスムーズに進めます。(図7,図8)

例:

  • 業務フローに必要なシステムやリソースを特定
  • 業務プロセスの改善目標を共有

図7:遭難者救助の業務構造のモデル化例(Op-Sr)

図8:遭難者救助の関係者のモデル化例(Pr-Sr)

ステップ3:モデルに反映し、全体像を包括的に把握する最後に、議論結果をSysMLやUAFの形式でモデル化し、プロジェクト全体を可視化します。これにより、各領域がどのように連携するかを明確にしながら設計を進めることが可能です。

(3)UAFの価値

UAFを活用することで、複雑なEAを効率的に構築し、システム設計の成功率を大幅に高めることができます。

  • 1.包括的な視点:異なる領域(Operational, Systems, Servicesなど)を一元的に把握可能
  • 2.認識齟齬の防止:ステークホルダー間で共通のフレームワークを基とした議論が可能
  • 3.実装への橋渡し:SysMLなどのモデリング言語を利用して、設計から実装へのスムーズな移行が可能。

4.終わりに

デジタルツインは製造業での活用が進んでおり、最終的にはよりよい社会を作るための強力なツールです。しかし、その実現には様々な技術、関係者の意識統一、社会実装による洗練が必要です。NTT DATAは多くの技術開発に加え、デジタルツインコンソーシアムを含む様々な組織と連携して社会課題の解決に向けた取り組みを行っていきます。

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