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1.データマネジメントとはなにか
データマネジメントとは、DMBOK(Data Management Body Of Knowledge)において、「データとインフォメーションという資産の価値を提供し、管理し、まもり、高めるために、それらのライフサイクルを通して計画、方針、スケジュール、手順などを開発、実施、監督する」と定義されます。DMBOKとは、データマネジメントの実践における知識体系を整理したもので、この分野の教科書のようなものです。
DMBOKには、「DAMAホイール」と呼ばれる体系図があり、データマネジメントの12の知識領域が整理されています。これらの領域を参考にしながら、データマネジメントを進めるのが望ましいです。
しかし、12の領域を網羅的に検討・実践することは容易ではありません。そのため、以下の留意点に沿ってデータマネジメントを推進することをお勧めします。

図:DMBOKのDAMAホイール
2.データマネジメント推進における留意点
本章では、データマネジメントにおける留意点を4つご紹介します。
2-1.何から手を付けるのかを考える
よく『要望や課題はこれです。』と提示されることがありますが、その内容は、社内の課題や要望を網羅的に拾い上げたものでしょうか。それとも、何かのタイミングで文書化された、一部の声の大きい人の要望ではないでしょうか。
業務チームとITチームの要望は、しばしば相反することがあるため、どちらか一方に偏った課題や要望だけを見てデータマネジメントを推進すると、もう一方のチームにとっては日々の業務推進の足かせとなり、真に満足のいく取り組みにはなりません。
データマネジメントは、業務チーム、ITチーム、経営層など、多くの関係者が共通の認識を持って進めるべきものです。業務チームやITチームなど、個別の課題や要望をクリアしていくものではないのです。企業全体の課題や要望を正確に把握するために、業務チーム、ITチーム、経営層それぞれに対して現状調査(アセスメント)を行うことが重要です。
アセスメントを効果的に進めるには、網羅的に実施することが求められます。筆者がアセスメントを行う場合でも、DAMAホイールの12の領域について状況を確認していきます。ただし、アセスメントにおいて12の領域についてすべて答えが得られるわけではありません。しかし、それはアセスメントが失敗でなく、その領域については認知・認識されていないという現状を確認できたということになります。また、アセスメントにおいては、いま目の前にある課題や要望を聞くだけではなく、将来を想定した要望の聞き取りも必要です。ビジネス形態の変化、社内システムの統廃合など、将来起こりえることを具体的に伝えながら、アセスメントを進めていくことが重要です。
網羅的なアセスメントを実施することで、何をしたいのか、何が求められているのか、何ができていないのかを把握でき、それらに優先度をつけることで、ようやく取り組むべき課題の順序が明確になります。
2-2.誰のためのデータマネジメントなのかを考える
データマネジメントの推進にあたり、何から手を打つかが決まると、具体的な施策の検討に移ります。しかし、ここの段階でも課題や要望を提起した人の意見だけを見て施策を進めていないでしょうか。
基本的に、業務チームとITチームとでは求める施策(解決)の方向性が異なると考えます。業務チームはデータを迅速・柔軟に活用するための『攻め』の姿勢になりやすい一方でITチームはデータの漏洩リスク回避、アクセス制御など『守り』の姿勢を重視する傾向があります。施策を検討する際は、『誰に利益をもたらすのか』を常に意識してください。その上で、検討した施策は関係者全員に意見照会をし、実行可能かどうかを慎重に判断する必要があります。
『攻め』と『守り』の駆け引きで施策の方向性が決められない場合も出てきます。その場合は、企業やプロジェクトとしての目指す姿を明確にし、誰に最も利益を享受してもらいたいかを考えた上で、施策の方針を決めます。そして、トップダウンのアプローチを用いて関係者の合意を得ることも必要です。
2-3.効果を明確にする
データマネジメントの取組を推進したいものの、なかなか上位層の承認を得られず、満足のいく取組ができないと感じることはないでしょうか。
データマネジメントの活動自体は直接的に利益を生む取組ではないため、ROI(投資利益率)や費用対効果が具体的でないとデータマネジメントの案件に着手ができないというケースが多く見受けられます。また、アセスメントの結果や想定施策から全体的な効果を試算できデータマネジメントに着手しても、実際には計画通りの展開・定着に至らず、途中で活動が打ち切られてしまうことも少なくありません。
データマネジメントの着手にあたっては、どのような効果が“確実に”生まれるのかを具体化することが重要です。加えて何かしらの成功体験が無いと、データマネジメントは継続しづらいものです。
データマネジメントの成功(定着化)の鍵は、『いきなり大きな効果を得ようと考えない』ことです。全社的に展開できる施策であっても、まずはごくごく小さく始めて、効果を実感しながら、その施策をアップデートして徐々に対象を広げていくことが重要です。ここで言う『小さく始める』というのは、1組織、1チーム、場合によっては1人単位でも構いません。
効果を得やすいテーマとしては、『データの品質を高める』活動が挙げられます。
例えば、社内のデータウェアハウス(DWH)に格納されているデータが、誰もが分析しやすいフォーマットで、データの抜け漏れなく登録されていれば、すぐにデータを活用できます。データ活用のための事前準備の時間の短縮や、精度の高いデータによる誤った判断の防止につながります。
このような取り組みの効果が目に見えてくると、経営層の合意も得やすくなります。また、データマネジメントを実行する現場層からの支持も得ることができ、主体的に推進する動きが生まれるでしょう。
2-4.長期的な目線で取り組むためのチーム・文化を作る
データマネジメントを推進するメンバーのアサインに困っていませんか。
データマネジメントは、一度導入したら終わりではなく、継続的に活動・拡張しないとその効果は最大化されません。継続的な活動のためには、データを業務に生かすというデータ活用文化の醸成とともに、データマネジメントを強い意志で推進する体制づくりが重要です。
データマネジメントを推進する人、特に推進リーダーは、専任の人をアサインします。ほかの業務と兼務となってしまうと、先に述べた通り、データマネジメント自体が直接的な効果(利益)を生まないため、活動が後回しになってしまいます。専任のリーダーを中心にデータマネジメントを推進するチームを立ち上げて、そのチームが主体となってデータマネジメントを推進していくことを強く推奨します。
しかしながら、データマネジメントの重要性が十分に理解されていない場合、データマネジメントを推進するチームメンバーの動機づけが難しくなります。アサインされた推進リーダーや担当者も、活動の意義を感じないと、場当たり的な人選と感じてモチベーションは上がらず、データマネジメント活動が停滞してしまいます。
このような状況を防ぐためには、企業全体にデータマネジメント活動推進を認知してもらうことが不可欠です。社内のポータルサイトなどでの取り組み状況の共有や、草の根的な情報展開が求められます。さらに、データマネジメント活動が人事評価に反映される仕組みを導入すれば、その認知度と定着度が高まるでしょう。
また、推進チームと現場層だけでなく、経営層にもデータマネジメントの活動の意義や状況を理解いただくことも必要です。データマネジメント活動の取組状況、得られた効果、さらなる展開計画などを継続的、かつ具体的に報告していくことで、必要な人的リソースや予算などの確保がしやすくなります。
データマネジメントの推進において重要な役割を果たす、「データスチュワード」の立ち上げについては、別記事「データ活用で道に迷わないための案内人:データスチュワードの標準的な役割定義と立ち上げのポイント」
も参考にしてください。
3.まとめ
データマネジメントの着手にあたっては、まずは正確かつ網羅的な現状把握(アセスメント)が必須です。アセスメントが十分でない場合、対応する施策も不十分なものとなり、結果、データマネジメントの失敗につながります。
施策の検討においても、ごく小さな範囲からの成功体験を積み上げていくことが重要です。いきなり大きな効果を得ようとすると、効果を得づらいため、小規模な成功を足がかりにし、徐々に展開範囲を広げることで、持続的な成長につなげることが望ましいでしょう。
データマネジメントの取組は、すぐに効果を得られるものではありません。中長期的に取り組むことで効果が現れます。また、ビジネスやシステムの変化に合わせて、常にアップデートをし続ける必要があります。一時的な取組として見るのではなく、専門の推進チームを立ち上げて、じっくりと対応していくことが重要です。また、効果がすぐに出ないことについても、組織としてその点を理解し、適切なフォロー・継続体制を築くことが重要です。
NTTデータは、データマネジメントにおけるアセスメントから施策の立案・実行までを幅広く支援し、企業のデータ活用を支援していきます。
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