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2024.10.2事例

オンライン予約とチケットレス化で利便性と効率性を向上。JR東海ツアーズのビジネスモデル変革

2023年秋、JR東海ツアーズはサービスを刷新した。個人向け店舗での旅行商品の販売を終了し、ネット販売へ全面移行。それに伴い「EX旅パック」「EX旅先予約」などのサービスをリリースした。NTTデータは基幹システムのリニューアルと共に、新サービスの企画からシステム開発、その後のビジネス成果創出まで、伴走した。
JR東海ツアーズの事業変革の鍵を握る最重要プロジェクトを、どのようにして実現させたのか。EXサービス開発の中心人物であるJR東海ツアーズ 情報システム室 室長の樂 雅(らく・まさし)氏、NTTデータで開発プロジェクトリーダーを務めた小松 唯、アカウント担当の竹井 祐人の3人が、プロジェクトの裏側について語った。
目次

変わりゆく旅行業界。JR東海ツアーズが抱えていた課題

近年、旅行業界は大きく様変わりをしています。OTA(Online Travel Agent)が台頭し、ネットで旅行プランの検索から予約・決済までが完結。旅行会社の窓口に出向くことは珍しくなりました。

一方で、JR東海ツアーズでは2023年度まで駅構内の店舗にパンフレットを置きパッケージツアーを販売するという方法も続けていました。自社サイトでの販売チャネルが主流となっていたものの、この場合も係員による手配作業が一部に残っていたほか、店舗または郵送による紙のチケットの交付が必要で、オンラインでは完結できず事業の効率性・利便性に課題を抱えていました。

さらに2019年からのコロナ禍によって、リモートワークが一般化し、出張などの新幹線のビジネス利用は減少傾向に。JR東海グループであるJR東海ツアーズは、新幹線の利用を拡大するというミッションを、これまで以上に果たすことが求められることになったのです。JR東海及びJR東海ツアーズは、DXにより旧来の事業を変革する必要に迫られていました。

JR東海ツアーズのビジネスモデル変革、開始

JR東海ツアーズの樂 氏が今回のプロジェクトの構想を描き始めたのは、2018年頃から。それまで手がけていた新幹線予約サービスの経験から、旅行業についても「オンライン予約とチケットレスサービスへの移行が必要だ」と考えていたそうです。

しかし、当時はまだ前の世代の基幹システムのリニューアルに着手していた最中。折に触れてNTTデータのメンバーにも相談をしながら、中期構想として少しずつ企画の解像度を高めていきました。NTTデータの竹井は当時のことを次のように振り返ります。

株式会社NTTデータ 交通・観光・エンタメ事業部 課長 竹井 祐人

株式会社NTTデータ 交通・観光・エンタメ事業部 課長
竹井 祐人

「前の世代のシステムも担当していて、NTTデータからJR東海ツアーズ様へ出向者もいたため、コロナ禍以降のタイミングで樂さんの頭の中にある構想の断片をお話いただく機会が何度かありました。樂さんとディスカッションさせていただきながら、NTTデータの持つ旅行業界に関する知見をフル活用し、めざす姿をともに描いていきました」(竹井)

図1:ともに描いた“めざす姿”(当時のイメージであり、現在の姿ではありません)

図1:ともに描いた“めざす姿”(当時のイメージであり、現在の姿ではありません)

JR東海ツアーズからNTTデータへ、正式に相談があったのは2020年。2023年に控えた基幹システムのリニューアルのタイミングで、ともに描いてきためざす姿の実現に向け、オンライン予約化・チケットレス化によるビジネスモデル変革を前提にしたシステム開発に着手することになりました。

JR東海ツアーズ 情報システム室長 樂 雅 氏

JR東海ツアーズ 情報システム室長
樂 雅 氏

「JR東海ツアーズにとっては、これまでの仕事のやり方も売り物も変わるような重要なプロジェクトです。NTTデータは2016年から当社の基幹システムの開発を担当しており、私たちの会社の仕事の進め方も人もすべて知っているという点でも、安心感がありました。
またNTTデータにはさまざまなプロジェクトを通じた経験もあれば人材もいます。そのため、何か相談したときの引き出しの多さはとても心強く感じていました」(樂 氏)

初期の企画に与えられた期間は約3カ月。何度も打ち合わせを重ねながら、NTTデータはビジネスモデル変革の実現方法を具体化していきました。

図2:プロジェクト構成

図2:プロジェクト構成

新幹線のオンライン予約ができる「EXサービス」のアプリを軸に、旅行パッケージツアーや各種交通機関・ホテルのシームレスな予約・決済機能、ユーザーの行動履歴に基づく観光プランのレコメンド機能、さらにはポイントシステムや情報分析基盤など。ユーザー体験設計や業務プロセス設計の領域にも踏み込みながら、システムの構成を検討していきました。

「NTTデータにはこれまで旅行会社や鉄道会社様のプロジェクトを手がけることで培ってきたさまざまな知見があります。今回、限られた時間の中でベストプラクティスをご提案できたのは当社に蓄積しているアセットを活用できたことが大きかったと考えています」(竹井)

事前に仕様が決まらない。複数のシステム開発を同時進行

今回のプロジェクトでは、JR東海が提供する「EXサービス」と連携して、3つの新サービスが加わることになりました。

「EX旅パック」はチケットレスで、乗車当日まで新幹線の列車変更可能なパッケージツアー商品。「EX旅先予約」では、新幹線と一緒に旅先のホテルや交通機関の予約などが可能に。「EXポイント」は東海道新幹線にチケットレスで乗車すると、EX旅パックやEX旅先予約の支払い等に利用可能なEXポイントが貯まります。

いずれもJR東海とJR東海ツアーズの2社が関わっており、会社を跨いでさまざまなシステムを連携させてサービスを作り上げていく必要がありました。サービス提供の入口になるJR東海のアプリも今回のプロジェクトに合わせて改修が必要になったため、2社が同時並行でシステムを構築していくことに。JR東海ツアーズ側は事前に仕様を固めることができない状況でのシステム開発になりました。

NTTデータで開発プロジェクトリーダーを務めた小松は当時の苦労を次のように話します。

株式会社NTTデータ システムインテグレーション事業部 課長 小松 唯

株式会社NTTデータ システムインテグレーション事業部 課長
小松 唯

「JR東海様の『EXサービス』の仕組みは、そもそも新幹線のチケットを他社に卸すことを想定しているものではありません。今回、その前提を変えるという大きな決断をされました。私たちはその決断を横目で見ながら、並行してJR東海ツアーズ様のシステム開発を進めていきました。通常であれば『EXサービス』の仕様書をいただいて開発を進めるところですが、その仕様が段階的に決まっていく状況だったのは、難しい部分でした」(小松)

JR東海とJR東海ツアーズの2社間では、システムの仕様を確定させていくために綿密に協議を重ねました。NTTデータも2社間の協議の場にオブザーバーとして参加。EXサービスとして旅行業を行っていくためにどのような仕様が求められるのか、議論に加わりました。

EXサービスのシステム、JR東海ツアーズのシステム、さらに一部で利用している検索用のSaaSシステムなど、多岐にわたるシステムの開発・連携・検証のマネジメントを担ったNTTデータ。小松は「相手を理解しようという気持ち」が大切だったと話します。

「NTTデータとお客さま企業で立場が違えば、わかりあえない部分もでてきます。時にはお客さま企業のなかでさえ、考えがまとまらないこともあるでしょう。そこではやはり、相手を理解しようという気持ちで密にコミュニケーションをしていくことが必要です。『これはどうでしょうか?』とまずは考えをあててみて、それが違っていたら『ではどうしましょう?』と話し合う。それを繰り返していく過程で共通の目標や認識が生まれていくのだと考えています」(小松)

「システムを納品して終わり」ではなく、成果まで伴走する

2023年10月、「EX旅先予約」「EX旅パック」のサービスが開始。東海道新幹線沿線の観光・宿泊プラン、パッケージツアーをJR東海の「EXサービス」サイト・アプリで購入できるようになりました。新幹線の列車変更が直前まで可能で、旅行途中での観光プランの予約も可能であるため、旅行者は気軽で自由な旅行を楽しむことができます。

図3:EXサービスの画面(イメージ)

図3:EXサービスの画面(イメージ)

JR東海ツアーズはこれまでに1,000以上の観光プランを開発し発売。「お寺の特別拝観イベント」「人気のかき氷店の席確約プラン」などのオジナルプランが好評を得て、観光プランだけで16万人を超えるお客さまからの申し込みの実績があります。

またBPR(Business Process Reengineering)の観点では、旅行商品販売の完全オンライン化・チケットレス化に伴い、パンフレットの作成や発売・発券・取消作業が不要になりました。販売部門の要員数は6割減り、その分のリソースを商品開発やマーケティングに割くことで、魅力的な旅行商品の提供につなげています。

図4:JR東海ツアーズのビジネスプロセスの変化

図4:JR東海ツアーズのビジネスプロセスの変化

DXによる営業費用の減少が主要因となり、JR東海ツアーズの23年度営業利益は18年度比で数倍になるなど、ビジネスモデル変革は経営面で大きな効果をもたらしています。

一方、樂 氏は今後の課題として「新しいサービスの理解向上」を挙げます。

「今回のサービス刷新で売り方だけでなく、お客さまの利用の仕方も全く変わることになりました。鉄道や観光施設の紙のチケットが手元にないことに戸惑っているお客さまも、一定数いらっしゃるようです。
EXサービス(新幹線の会員制ネット予約サービス)を例に取っても、認知されるまでに5年、世の中に浸透するまで20年かかった実感があります。ご利用いただいたお客さまの評価は高いため、ご利用いただくための心理的なハードルをいかにして下げていくかが、今後の課題だと考えています」(樂 氏)

またNTTデータのメンバーも今後の継続的な支援に意欲を示します。

「このプロジェクトに携わらせていただくと決まった時から、NTTデータが掲げている目標があります。『システムを納品して終わり』とするのではなく、お客さま企業に最後まで伴走して成果を出していくことです。
現在、本件においてもデジタルマーケティング施策のオペーレーションについて伴走支援をさせていただいています。システムについても継続的に意見交換し、改善提案をしていきたいと考えています。
樂さんから世の中に浸透するまでには20年かかったというお話がありましたが、私たちも20年のスパンでお客さまに寄り添える会社になっていきたい。その先の未来で、お客さまと一緒になって『やり切った』と振り返ることができればと思います」(竹井)

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