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2024.10.11業界トレンド/展望

CO2可視化フレームワークEdition 2.0がもたらす新たな可能性:サプライチェーンにおけるデータ共有とCO2削減へのアプローチ

CO2排出量の「見える化」は、サプライチェーン全体における企業の持続可能な未来を実現するために欠かせない課題である。一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が2021年に設立したGreen x Digitalコンソーシアムは、この課題に応えるべく「CO2可視化フレームワーク(Edition 2.0)」および「データ連携のための技術仕様(Version 2.0)」を公開した。本稿では、公表されたフレームワークの主な更新内容を解説するとともに、その影響や展望について考察する。
目次

1.CO2可視化フレームワークEdition 2.0の背景

サプライチェーン全体におけるCO2排出量の「見える化」は、企業が持続可能な未来を実現するために不可欠な課題です。環境関連分野のデジタル化や新たなビジネスモデルの創出等に係る取り組みを通じて、2050年カーボンニュートラルの実現に寄与することを目的とするGreen x Digitalコンソーシアム(※1)は、この課題に応えるべく「CO2可視化フレームワーク(Edition 1.0)」を2023年に発表しました。このフレームワークでは、企業がCO2排出データを正確に算定し、サプライチェーン全体で共有するための標準化された方法論が提供されました。

2024年7月に公開された「CO2可視化フレームワークEdition 2.0」はさらに進化し、最新の国際的な議論や国内の政策動向を反映した内容となっています。特に、WBCSD Partnership for Carbon Transparency(PACT)(※2)のPathfinder Framework(※3)との整合性を確保することで、グローバルな企業間でのデータ共有が行えるようになっています。この新たなフレームワークにより、企業はデジタル技術を活用しながらCO2データ(※4)の透明性を高め、脱炭素化を加速させることが期待されています。

NTT DATAもこの取り組みに貢献しており、コンソーシアム内の標準化の検討推進に加え、企業間でのデータ流通を支援するプラットフォームの提供を行っています。デジタル技術を活用したデータ共有の推進は、サプライチェーン全体でのCO2削減に向けた取り組みの前進に寄与します。

本稿では、「CO2可視化フレームワークEdition 2.0」の主な更新内容の解説と、CO2可視化が進むその先の未来について考察を行います。

(※1)Green x Digitalコンソーシアムの概要

https://www.gxdc.jp/about/

(※2)WBCSD Partnership for Carbon Transparency(PACT)

Partnership for Carbon TransparencyについてWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)とは、持続可能な開発を目指す企業約200社のCEO連合体であり、GHGプロトコルの主催団体。PACT:Partnership for Carbon TransparencyはWBCSDの下、バリューチェーンにおける排出量の透明性を高めて脱炭素化を加速することを目的として活動。排出量データ交換に必要な方法論と技術仕様を定義し、Pathfinder FrameworkならびにPathfinder Network Technical Specificationsとして公表中。Green x Digitalコンソーシアムは、PACTのエコシステムに参画。

(※3)Pathfinder Framework

WBCSDのPACTが策定したCO2データの標準化フレームワークで、サプライチェーン全体でのCO2排出データの算定と交換を支援

(※4)CO2データ

IPCCが定める温室効果ガス排出量(GHG排出量)のCO2等価量(kg-CO2e等と表記される)を指す。二酸化炭素の排出量のみに限定されるものではない。

2.技術的進展:CO2データ算定と共有の新たな方法論

「CO2可視化フレームワークEdition 2.0」では、CO2データの算定と共有に関する技術的進展が大きな特徴となっています。特に、サプライチェーン全体でのCO2排出量を正確に算定し、透明性を持って共有するための新たな方法論が導入されました。これにより、企業間での協力が促進され、脱炭素化への取り組みが一層進むことが期待されています。

図1:Green x Digitalコンソーシアム「見える化WG」が目指す世界 (出所:CO2可視化フレームワークEdition 2.0.1)

図1:Green x Digitalコンソーシアム「見える化WG」が目指す世界
(出所:CO2可視化フレームワークEdition 2.0.1)

製品ベース算定と組織ベース算定の特徴と利点

まず、Edition 2.0では「製品ベース算定」と「組織ベース算定」の2つの算定方法論が提示されています。製品ベース算定は、特定の製品やサービスに関連するCO2排出量を細かく追跡し、算定する方法です。これにより、各企業はサプライチェーン全体での排出量を精緻に把握することが可能となり、より具体的な削減施策を講じることができます。この方法論は、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)のPathfinder Framework Version 2.0と整合性が図られており、国際的な基準に準拠したデータ算定が実現します。特に、日本国内の制度やアクセス可能なデータを最大限に活用し、企業がより効率的にCO2データを算定できるよう設計されています。

一方、組織ベース算定は、企業全体のCO2排出量を算定する手法です。この方法は、スコープ1、スコープ2、スコープ3といった異なるカテゴリーの排出量を含み、組織全体の活動に伴うCO2排出を包括的に捉えることができます。これにより、一次データの利用が拡大し、より多くの企業がCO2データ算定に参加できるようになります。特に、中小企業や特定の製品ベースのデータを持たない企業にとって、この手法は算定に取り掛かる障壁を下げ、CO2排出量の可視化に寄与します。

「CO2可視化フレームワークEdition 2.0」では、国際的なデータ算定基準に則りつつ、脱炭素化を進める企業により多く参加してもらえるように、組織ベースの算定も認める方針を取っています。

図2:「製品データに基づく算定」と「組織データに基づく算定」(NTTデータグループ作成)

図2:「製品データに基づく算定」と「組織データに基づく算定」(NTTデータグループ作成)

技術仕様の更新とAPI連携の強化

データ共有においても重要な技術的進展が見られます。Edition 2.0では、CO2データの品質評価指標や共通データフォーマットが整備され、データの信頼性と一貫性が向上しています。これにより、企業は自社のCO2データを他社と効果的に共有し、サプライチェーン全体での透明性が確保されます。また、API仕様の追加により、データの交換が自動化され、企業間のデータ連携がより迅速かつ効率的に行えるように整備されました。このAPI仕様は、エラーレスポンスの処理や実装時の記述例も含まれており、実務者にとっての利便性が高い設計となっています。

Edition 2.0の導入により、サプライチェーン全体でのデジタル技術を活用したCO2データの算定と共有が容易となり、企業は自社の脱炭素施策をより効果的に推進することができるようになります。これにより、企業間のエンゲージメントが深化し、共同でCO2削減目標を達成するための協力が促進されることが期待されます。また、このフレームワークは、国際的な基準に準拠しているため、グローバルな市場でも高い競争力を確保しつつ、環境への貢献を果たすことができるのではないでしょうか。

NTTデータの提供する「C-Turtle®(※5)」もこの技術仕様に対応し、企業がCO2データをより正確に算定し、共有するための機能を提供する予定です。このフレームワークと対応する可視化ツールを活用することで、企業は脱炭素化に向けた取り組みを加速させ、持続可能な社会の実現に貢献します。

3.企業間協働の促進:サプライチェーン全体の見える化

「CO2可視化フレームワークEdition 2.0」の導入は、単なる技術的な進展に留まらず、企業間のエンゲージメント(協働)を強化し、サプライチェーン全体におけるCO2排出削減への取り組みを加速させる重要な要素となる可能性があります。CO2データの透明性と共有の向上は、持続可能なサプライチェーンの構築に大きく寄与するでしょう。

データ連携による企業間エンゲージメントの深化

Edition 2.0で強調されるデータ共有の重要性は、企業が自社のCO2排出量を削減しようとした際にホットスポットを評価することができることです。これは、企業は自社だけでなく、サプライチェーン全体での排出量削減に対する貢献度を把握することにも繋がります。データの一貫性と信頼性が向上したことで、企業間での情報交換が促進され、協力して脱炭素化に向けた戦略を立てることが可能になります。例えば、同じサプライチェーン内の複数の企業が共通のCO2削減目標を設定し、その達成に向けて具体的なアクションを共同で実施する“協働”が促されることとなります。

さらに、Edition 2.0で公開されたAPI仕様の改善により、データ交換の自動化やリアルタイムで情報共有がされるような未来の見通しも出てきました。企業間での意思決定の迅速化や効果的な環境対策の実行を支援により、例えば、特定の製品ラインでのCO2排出量が増加した場合、そのデータがサプライチェーン全体に共有され、関係する企業が対策を講じるような活用も見通されます。

脱炭素化施策の加速と環境価値の向上

企業間の協働が促進されることで、サプライチェーン全体での効率的な資源利用にも効果が広がります。CO2排出量の削減に取り組む過程で、企業はエネルギーの効率的な使用や再生可能エネルギーの導入を進めることが求められますが、これを単独で行うのではなく、サプライチェーン全体で協働することで、コストの削減や技術の共有といったシナジー効果により発生し、各企業が個別に行うよりも大きな成果を挙げる可能性が生まれると共に全体としてのCO2排出量削減効果も最大化されることが期待されます。

さらに、CO2データの共有が進むことで、企業は自社の環境価値をステークホルダーに対して明確に訴求できるようになります。これにより、企業のブランド価値が向上し、顧客や投資家からの信頼を獲得することができます。特に、今後は環境意識の高い消費者や投資家に対して、透明性の高いデータの提供がより重要な要素となることでしょう。Edition 2.0を活用することで、アピール力が強化され持続可能な成長へ強力な支援を得ることにも繋がります。

4.NTT DATAとCO2可視化フレームワークが描く未来

本稿で解説させて頂いたように、「CO2可視化フレームワークEdition 2.0」は、サプライチェーン全体でのCO2排出量の正確な算定と透明性の高いデータ共有を実現するための重要なフレームワークです。製品ベース算定だけでなく、日本国内の情勢に合わせた組織ベース算定を導入により、企業が個別の取り組みを超えて、協力し合いながら脱炭素化を進めることを後押ししています。また、データ連携の強化とAPIの自動化により、企業間の協働が促進され、迅速かつ効果的な環境対策が可能となるでしょう。今後、Green x Digitalコンソーシアムは、このフレームワークの普及をさらに推進し、教育セミナーを通じて実務者に対する支援を強化していくと公表しています。

NTT DATAはGreen x Digitalコンソーシアムの加盟企業としてサプライチェーン全体のCO2排出量の「見える化」を推し進めると共に、GHG可視化を支援する「C-Turtle」のようなデジタルソリューションによりデータ管理の効率化や高度な測定も提供しております。社会全体の持続可能な未来の実現に向けて、お客さまのサステナビリティ情報開示の透明性と信頼性の向上をご支援します。

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