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2025.2.21事例

AI予測モデルでデータ分析高度化に挑む、東邦ガス情報システム ~成功の秘訣とデータ人財育成の取り組み~

名古屋に本拠を置き、愛知・岐阜・三重の東海3県を営業エリアとする大手都市ガス事業者の東邦ガス。同社の情報システムを一手に引き受ける東邦ガス情報システム(TOGISトージス)では、データ分析にAIプラットフォーム「DataRobot」を導入。NTTデータが支援し、モデルを運用しながら継続的に改善することで、業務部門と連携して価値を生み出している。本稿では、その取り組みの経緯と成功の秘訣を紹介する。
目次

インフラ企業で高まるデータ分析ニーズ

東邦ガス情報システム(以下、TOGIS)は、東邦ガスで利用される顧客情報管理システムをはじめ、幅広いシステムについて主に設計を中心とした上流工程を担当している。最近ではSAPなどのパッケージ外販やデータセンター、またガス会社向けソリューションの展開も行っている。

東邦ガス情報システム デジタルソリューション部 課長 樋口 卓也 氏

東邦ガス情報システム デジタルソリューション部 課長
樋口 卓也 氏

ガス会社を含む国内インフラ企業では、2019年頃から各種需要予測やマーケティングなどの用途でデータ分析を実施する事例が増えてきた。その状況を受け、同社でも競争力向上に向けデータ分析のニーズが高まると考えたものの、肝心のデータ分析を担う要員がいなかったという。

「データ分析人財を育てる必要があると感じ、社内で育成の取り組みをスタートすることになったのですが、いざ始めようとしたとき、どこから手を着ければいいのか分かりませんでした。そこで、まずは既にデータ分析業務を立ち上げていた東邦ガス技術研究所が、機械学習のモデル構築をはじめとしたタスクを自動化できるAutoMLツールとしてNTTデータからDataRobotを導入しており、そのノウハウ 活用から始めました」(樋口 氏)

当時、技術研究所にも機械学習のアルゴリズムなどに詳しい技術者はいなかった。そのため、深い専門知識なしで、かつ難しいコードを書くことなく機械学習を自動化できるDataRobotは最適なツールだったという。

DataRobotを導入してデータ分析に着手

2020年に技術研究所で始まったデータ分析の取り組みは、TOGISにも広がり、2021年度にチームが設置された。その際、ツールとしては技術研究所で活用が進んでいたDataRobotを導入することになった。

「他社製品も比較評価しましたが、DataRobotは結果の説明性がとてもわかりやすいこと、国内で導入が多いためコミュニティで事例を聞けること、そしてサポートも充実していることから、やはりDataRobotに決定しました」(樋口 氏)

東邦ガス情報システム デジタルソリューション部 田村 浩平 氏

東邦ガス情報システム デジタルソリューション部
田村 浩平 氏

まずは樋口氏がチームリーダーとなり、データ分析に向けた取り組みを開始した。「当初の1年間はとにかく勉強しました」と樋口氏は回顧する。DataRobot自体は簡単に扱えるツールとはいえ、データ分析についてはまさに最初の一歩。そのため、先行した技術研究所が実施する分析講座を受講したり、技術研究所で行われていた事例について学んだり、各地のセミナーやオンライン講座でも勉強を重ねた。

翌2022年度にチームに加わった田村浩平氏も同じく、当初は講座などでデータ分析の基礎を学び、併せて実際の案件にも臨みながらOJTでDataRobot活用を進めていった。「システム開発の経験はありましたが、機械学習で予測モデルを作成したときの解釈の仕方など難しいところも多く感じました」と振り返る。

保安業務の作業件数予測精度の向上を実現

作業件数予測とは、利用者の引っ越しなどに際して発生するガスの開栓・閉栓や修理業務の件数を日ごとに事前予測し、効率的な要員準備と円滑な対応に役立てようというものだ。作業件数は季節や地域により異なり、それまではいわゆる“勘と経験”を中心に予想していたという。作業予測件数が実際より多いと余分な人員を用意することになり、点検など他の業務に回せるスタッフが減ってしまう。反対に予測件数が少なければ、円滑な対応ができなくなる。予測の精度が、各エリアの要員配置の適正化や顧客への最適なサービス提供につながるのだ。

2023年は、名古屋圏全体(25エリア)を対象にDataRobotで作業件数のAI予測モデルを作成し、予測と実際の件数の誤差を少なくすることが出来た。一方で、まだ課題も残っていた。「それまでは名古屋圏全体で出した予測を基に割り算してエリア単位の数値を出していたのですが、エリアごとにばらつきがあるため、誤差も比較的大きくなっていました」(樋口 氏)

チームではこの予測モデルを運用しながら、2024年から予測精度のさらなる向上に取り組んだ。次第にデータ分析案件が増える兆しが見えてきた中で、人財育成も喫緊のテーマとなってきた。

NTTデータは東邦ガス技術研究所がDataRobotを導入した頃からデータ分析に関する支援も行ってきた。これまでの取引における信頼感やデータサイエンスやDataRobotに関するサポート実績が評価につながり、パートナーに選ばれた。

NTTデータ 蟹江 教佳

NTTデータ
蟹江 教佳

「機械学習の案件数も当初の数件から10件程度へと増えてきた中、DataRobotで実施している分析の方法や、結果への解釈に対してより専門的なアドバイスをいただき、精度を向上させていきたいと思っていました。加えて、人財育成についてもサポートをお願いしたかったことから、パートナーにNTTデータを選びました」(樋口 氏)

NTTデータでデータ利活用ソリューションの企画営業を担当する蟹江教佳は、TOGISからの依頼に応える提案について次のように語る。

「以前からDataRobotを導入いただき多様なユースケースに取り組んできたうえ、データ分析をさらに広げたいということ、またDataRobotを活用できる人財を育てたいという要望を伺い、画一的サービスではなく、一つひとつの困りごとを解決できるように、当社のデータサイエンティストが伴走支援する形を提案しました」(蟹江)

ポイントは“運用しながら改善”。予測精度を20%向上

これまでの作業件数予測は、名古屋圏全体を大きく捉えて予測したものであった。そのうえ、コロナ禍が明けて経済活動の増加に伴い、作業件数自体も増えてきたことから、より精度の高いモデル作成を目指し、NTTデータのアドバイスを取り入れつつ、改善に取り組んでいった。

まず予測単位を細分化し、エリアごとにより詳細な予測を出せるよう取り組んだ。その結果、精度予測の誤差は20%ほども改善。加えて、“運用しながら改善”という考え方を元に、いくつかのエリアにパイロットとして先行運用を行った。「まずは3エリア、次は5エリアと、小さく始めて運用しながら改善するサイクルを回すことで、業務的にも変更の影響を抑えてスムーズに導入できるうえ、データ分析結果を根付かせていく心理的な安心感を現場に与えることもできます」と樋口氏は話す。

田村氏は実際の成果として、「予測モデルを細分化することで予測精度が高まり、顧客満足度向上やエリア単位の業務改善の一助につながります 」と語る。

データサイエンティストとしてDataRobotとAI活用をサポートしているNTTデータの木村遼希は、TOGISの取り組みにおける優れた点をこう整理する。

「予測モデルを運用に載せたうえで精度向上の取り組みを行っているのが大きなポイントです。AIは作るだけでは意味がなく、継続的に運用して初めて価値が生まれる技術ですが、TOGIS様ではこの考え方を自然に実践されています。また、精度向上の取り組みでは各エリアをいくつかのクラスタにグループ分けしたうえで、クラスタごとに予測モデルを作成しています。エリアごとではなくクラスタごとにすることでモデル数を抑えて保守・運用の負担を軽減でき、実際に運用する人の視点に寄り添っているのが素晴らしい点です」(木村)

NTTデータ 木村 遼希

NTTデータ
木村 遼希

NTTデータのサポートについて、樋口氏は「分析事例や手法のノウハウが豊富で、相談内容に対し適切な回答がスピーディーに返ってきます。専門家から適切な回答が迅速に返ってくると胸を張って現場に説明できるうえ、説得力も上がりますね」と評価する。

また田村氏は「私自身、2022年度からデータ分析を始めてまだ経験が浅いのですが、NTTデータにユーザーへ渡す報告資料をチェックしてもらい、違和感がないと太鼓判を押されると大きな安心材料になります」と語った。

業務部門との連携を成功させる秘訣

DataRobot活用が成功している要因は、作成したモデルを実際の業務で運用しながら、改善を継続的に進めている点だ。その過程では、業務においてどう機能したかを現場からフィードバックしてもらい、検証して改善を行うというサイクルを、業務部門と一緒になって回している。「当社は現場ユーザーとの距離がそもそも近いですし、以前からシステムに不具合があれば内線電話がかかってきて、対話しながら解決していく風土がありました。その手法をデータ分析にも取り入れています」と田村氏が説明する。

業務部門へのデータ分析の普及において大事なことはなんだろうか。
「分析の目的や、どういったKPIを達成すれば業務としてハッピーを感じられるのかなどを最初にしっかり認識合わせしてからデータ分析を始めるようにしています。また、データ分析に関する用語や考え方は丁寧に説明するようにしていますし、あくまでも業務を主軸に置くことを強く意識しています」と樋口氏は語る。東邦ガスのさまざまな部署でもDataRobotの活用が広がりつつあり、現在は東邦ガスグループの他の需要予測にも挑戦している。

人財育成も進展、さらなるデータ活用拡大のフェーズへ

NTTデータは、データサイエンティストの立場からの伴走支援に加えて、DataRobotのハンズオン会を開催することで東邦ガスにおけるデータ活用人財育成の支援も始めている。木村とともにデータサイエンティストとして支援に携わる近藤立志は、「ハンズオン会ではDataRobotの操作方法だけに終始せず、現場での課題に即して内容をカスタマイズし、AIを業務課題に活用していく際の考え方やつまずきやすいポイントも併せて伝えるよう心がけています」と説明する。

NTTデータ 近藤 立志

NTTデータ
近藤 立志

ハンズオン会の効果もあり、現在はグループ内で30人程度がDataRobotを利用した分析手法を理解することが出来るようになった。「ハンズオン会でDataRobotに初めて触った人からは『意外に使えそう』という声を多く聞きます」(木村)という。

「NTTデータのサポートを得ながら、今後は音声データの分析など、より多くの業務にデータ分析を広げ、東邦ガスグループの競争力向上に努めるとともに、データ分析ノウハウの外販についても可能性を検討したいと考えています。そのためにもデータ活用人財の育成は重要なテーマで、NTTデータにはスキル獲得のレベル定義を一緒に検討するなどより深いサポートをお願いしたいと考えています」(樋口 氏)

NTTデータは、TOGISのデータ分析のさらなる展望を実現するため、単なるツール提供にとどまらずそれを使う人に目を向け、TOGISはもちろん東邦ガスグループ全体の課題解決にも貢献していく。

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