カーボンニュートラル達成に向けた各国動向の変化
従前より国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)や国際エネルギー機関(IEA)の提言にてカーボンニュートラルの重要性は発信されてきたが、近年ではゲリラ豪雨の多発等、気候変動が生活にも大きく影響してきており、カーボンニュートラルに対する社会的な関心も高まっている。温暖化対策に対する社会的要請の強まりを受け、欧州や米国ではカーボンニュートラルをより強力に推進するため、経済活動との関連性を強化する政策を打ち出している。欧州では欧州グリーンディール、米国ではインフレ抑制法(IRA)が該当する。これまでは企業にCO2排出量の報告義務を課すという政策が多かったが、欧州では特定製品に対する規制、米国では特定産業に対する補助金という形で、直接的にターゲットを絞り、CO2排出量の削減を実施した企業が経済的価値を享受する形へ政策転換を行っている。例えば欧州グリーンディールに含まれる欧州電池規則においては、高性能かつリユースの期待が高い車載用蓄電池にターゲットを絞り、欧州域内での販売において規制を発行する。製品単位のカーボンフットプリント(CFP)宣言義務化から始まり、CFP性能をクラス別に分類し公表することや、リサイクル材の利用義務化により水準以下の製品の販売禁止までを視野に入れた政策となっている。この政策は蓄電池の製品スペックとして環境価値であるCFPを取り入れ、企業間での製品開発競争を促進することが目的となる。同様の傾向は他の政策においても顕著に顕れており国境炭素税についても同種の政策として考えることができる。米国は規制では無いものの補助金により同様の経済原理を活用し、米国内にてカーボンニュートラルに関連する企業の事業開発や研究開発に対し補助金を交付することで企業間での競争と成長を促進している。
環境価値を体現する新しい競争軸の創出
こうした動向を企業においてはどのように理解すべきか。これまではボランタリーな報告義務が中心だった環境保護の取り組みは、主に各企業の環境部門で実施されているものであった。しかし今後はかつての自動車業界における燃費競争のように、製品スペックとしてCO2排出量の開示が義務化されることから、製品開発、調達、生産の各部門が統合的にCO2削減活動に取り組み、製品スペックとして「環境性能」を作りこみ、証明することで製品競争力を維持・強化する製品開発競争の舞台へ主戦場が移ってきている。今後の連載では、具体的に各企業は現場も含め何をすべきか論じていきたい。