蓄電池市場の拡大と資源循環の取り組みの進展
前回の連載はカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けた新しい競争軸の創出と各国の動向について解説を行った。今回は具体的に競争軸の変化が進んでいる蓄電池の領域における事例を紹介したい。
蓄電池市場は再生可能エネルギーの普及やバッテリー式電気自動車(BEV)への転換などの市場変化を受け、需要が急速に拡大すると予測されている。経済産業省のリポートでは、車載用、定置用を合わせた蓄電池市場は2019年の5兆円規模から2030年には40兆円、2050年には100兆円へ拡大すると予測されている。
一方、供給サイドから考えると、リチウムイオン電池(LiB)はリチウム、コバルト、ニッケルを中心とした希少鉱物が主要材料であり、安定供給のためには、特に埋蔵量が限定的なコバルトやニッケルの資源確保に考慮が必要である。また二酸化炭素(CO2)排出量については、主要な排出源は採掘と精錬のプロセスにあるとされている。このため、環境保護と資源獲得を両立させるには、車載用として使用済みの蓄電池を定置用として再利用する取り組みや、使用済み電池を再資源化するリサイクル技術の開発といった資源循環の取り組みを進めることで採掘や精錬を行わず電池生産をすることが求められている。
欧州電池規則と企業の対応について
欧州では電池製品の環境負荷の抑制と循環利用を推進するため欧州電池規則が2023年8月に発行され、適用に向けた準備が進んでいる。製品別カーボンフットプリント(CFP)宣言の義務化から始まり、クラス別分類、リサイクル材の利用義務化というロードマップが示されており、製品別CFP値を用い企業間の競争を促進し、社会課題の解決に繋げることを志向している。
また、循環利用の推進は環境負荷の抑制に対して効果がある一方、欧州へ輸出した使用済み電池製品が主に欧州域内で循環するため、資源は欧州域内に留保される可能性がある。このように欧州電池規則は資源獲得、製品開発といった企業の競争力確保に直結する事項が含まれているため、規則の対象となる日系企業はサプライチェーン(供給網)横断的な連携を行い、競争力を毀損することなく、国際的なルールへの適合を図る取り組みを進めることで対応している。こうした取り組みは電池以外の業界へも展開される可能性は高く、特に対象になりやすい、CO2排出量の多い業界については、予め備えを検討する必要がある。次回は工場などにおいて備えるべき事項について解説する。
2040年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す新たなビジョンを策定についてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/news/release/2023/060900/
サステナビリティについてはこちら:
https://www.nttdata.com/global/ja/about-us/sustainability/
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