デジタルでともに創る新しい社会
NTT DATA Innovation Conference 2021 主催者講演 講演録
この1年で人々の暮らしが一変し、さまざまな社会課題が浮き彫りになった。
各分野、業界のお客様とともにデジタル変革を推進してきた実績を踏まえ、
NTTデータが考える今後の社会像と、その実現に向けたアプローチとしてのデザイン、
鍵となる人財を紹介する。
NTTデータ 代表取締役社長 本間 洋
人々を中心に考えて実現する、より良い社会像
NTTデータは、コロナ禍においても国や地域を超え、さまざまな取り組みを進めてきた。
北米ではニューヨーク市内の110万人の学生が利用するリモート学習環境を実現。またスペイン・ポルトガルでは遠隔医療ソリューション「ehCOS」を提供し、医師の負担軽減につながる遠隔診療の実現に貢献している。インドではデジタル技術を活用して診断業務や管理業務を効率化。日本ではAI-OCRやRPAなどの業務自動化ソリューションを提供することで、地方自治体の職員の負担軽減に貢献している。
ウィズコロナにおいては、オンライン会議、オンライン教育、ECなどが大きく伸び、働き方の観点でもテレワークが浸透して、オンラインの可能性の広がりを実感した一方で、リアルならではの素晴らしさにもあらためて気づいた。
アフターコロナでは、ITやデジタル技術を活用して、オンラインとリアルの良いところを組み合わせた、ベストミックスな新しい社会の仕組みを構築すること。そして、ベストミックスな社会では「生活の質の向上」「社会活動の質の向上」を実現することが重要になってくる。
これらを、リテール、医療、教育の各分野で具体的に見ていきたい。
まずリテール分野では、「購買活動の質の向上」が重要である。一人ひとりの購買者に適した購買体験やサービスを実現することで、購買者は便利さや楽しさを実感するとともに、満足を得られる。従業員も業務負担が軽減され、付加価値の高いサービスに集中でき、働きがいを感じながら仕事ができる。また、店舗・会社も売り上げが向上し、新しい商品・サービスを生み出せるようになる。
次に医療分野では、「医療の質の向上」が重要である。一人ひとりの患者に適した医療を実現することで、患者、医師、病院のそれぞれにメリットが生まれる。
そして教育分野では、「教育の質の向上」が重要である。一人ひとりの生徒に適した教育を実現することで、生徒、先生、保護者、学校・教育機関のそれぞれにメリットが生まれる。
このように「質の向上」を実現するベストミックスな社会とは、豊かさを享受すべき人々が中心にいる社会だと考える。人々を中心に考え、あらゆるステークホルダーにとってより良い社会を実現することが大事になる。
技術進化がもたらす将来変化の予見「NTT DATA Technology Foresight」
NTTデータは2012年から、テクノロジーの進化がもたらす将来の社会を予見し、「NTT DATA Technology Foresight」として発信してきた。「NTT DATA Technology Foresight」は大きく2つのトレンド、「情報社会トレンド」と「技術トレンド」で構成されているが、ここではテクノロジーが社会に与える影響を予測した「情報社会トレンド」を紹介する。
「情報社会トレンド」には「ITの融合」「個の追求」「規範の探求」の3つの要素がある。まず「ITの融合」として、今後はITやデジタル技術が社会全体に一層融合し、人々が意識せずに利用するようになる。そして「個の追求」として、あらゆる場面でデータ活用が進展し、一人ひとりに適したサービスが実現されていく。また「規範の探求」として、このような新しい社会を実現するには、人々の信頼を確保するための規範が何より重要になる。とくにセキュリティ、AI、データ活用に関する規範が強く求められている。
新しい社会の実現に向けたアプローチ「デザイン」
日本では行政や民間企業が様々な社会課題解決に向けたデジタル化を加速している。今後は、行政や民間企業が一体となって、社会全体のデジタル化を推進していく必要がある。人々を中心に考え、社会全体のデジタル化をどのように推進していくべきだろうか。
技術が進化し、より複雑さを増す中で、私たちの社会でもあらゆるものがつながり、プロダクト、サービス、ビジネスの境界があいまいになってきている。「デザイン」には、「テクノロジー」、「人」、人々が生活する「社会」を調和させ、温かみのある社会を創る役割が求められている。人を中心とした素敵な「デザイン」が、新たなイノベーションにつながると考える。
今後の社会を実現する「デザイン」とは、さまざまなステークホルダーの視点に立ち、アーキテクチャに裏付けられた、横断的・総合的に整合した新しい社会の仕組みを創るということである。
ここからは、リテール、医療、教育の3つの分野で、当社の事例を踏まえて、新しい社会の実現に向けたアプローチを紹介する。
リテール分野では、東急ハンズと実施した、AIを活用したアバター接客による店舗のデジタル化の事例を紹介する。同社は従業員という「人」を事業の核と考えている。従業員による豊富な商品知識によるおもてなしと、NTTデータのAI・データ活用技術を組み合わせて、新たな質の高い接客サービスを生み出した。デジタルとリアルの融合により、お客様と従業員の双方がメリットを享受できる。
医療分野では、AI画像診断ソリューションの事例を紹介する。これはNTTデータのAI・医療画像アーカイブ技術、そしてパートナー企業が持つ医療画像に診断情報を付与する専門技術をかけ合わせて実現した。このソリューションが、医師の業務負担軽減や診断速度向上、見落としリスク低減に加えて、医師の配置効率化を実現し、最終的に医療の質の向上につながる。
教育分野では、ヨーロッパで新しい教育サービスを開発するプロジェクトに取り組み事例を紹介する。NTTデータのグローバル横断のデザインチームはユーザー中心アプローチを活用したサービスを提案し、システム開発だけでなく、デザインとコンサルティングのパートナーとして、小学校から大学までの全公教育のデジタル化を目指している。ここでは中心となる「教師」だけでなく「生徒」「親」を中心にサービス設計されていることがポイントである。
紹介してきた事例は、いずれも「人々」を中心に考え、新しい社会の仕組みを実現するアプローチといえる。
今後、オンラインとリアルの融合が進んだ先の社会では、リテール、医療、教育といった各業界の中に閉じず、各業種・業態や行政がつながり「人を中心に」考えた総合的なデザインが必要になる。
NTTデータの横断的な取り組みの一例を紹介する。貿易業務のデジタル化、「TradeWaltz」は、全ての貿易関係者が、国を跨がり、デジタル化された貿易データへ安全かつ確実にアクセスできるようにすることで業界横断の課題解決を図っている。NTTデータが中心となり、貿易実務者を集めた業界横断のコンソーシアムを設立し、さまざまな企業の方々と課題解決に向けた議論を重ね、実現に至った。NTTデータは、今後もこのような業界横断の取り組みをさまざまな領域で広げていく。
ビジネスと技術、デザインの力を持つプロフェッショナル人財がDXを推進する
ここまで話してきた、新しい社会の実現に向けたアプローチの鍵となるのは、人財である。
この10年でITの役割・位置づけが大きく変わってきている。従来のITは、人が行っていた既存業務を合理化・効率化するための手段だった。一方、現在のITは、新たなサービス、商品、ビジネスモデルを創造するため、そしてさらなる自動化・効率化のための手段となっている。また、ここ数年はデジタル化が加速し、AI、IoTなどのさまざまな技術が進歩している。こうした変化を受け、ビジネスのプロフェッショナル「スーツ」、技術のプロフェッショナル「ギーク」、ビジネスと技術の双方が分かるプロフェッショナル「スーツ・ギーク」が、三位一体でDXを推進することが重要になっている。
また、オンラインとリアルが融合する社会に向けて、「スーツ・ギーク」は、人を中心に全体を俯瞰し、新しい価値と実現性のあるアーキテクチャを考えることが求められる。NTTデータでは、ビジネスと技術の双方に通じ、このような「デザイン」に関するスキルとケイパビリティを持った人財を「アーキテクト」と呼んでいる。
NTTデータは2025年までに、グループ全体でアーキテクトを含めたデジタル人財100%化を目指している。さらに顧客や社会のDX推進に貢献するため、NTTデータからデジタル人財を送り出す活動にも力を入れていく。
社会全体のDXを推進し、より良い社会の実現に貢献する
NTTデータはさまざまな顧客と協業してきた。顧客とともに社会インフラを作り上げ、DXを推進してきた実績がある。次のステップとして、全社横断的組織・ソーシャルデザイン推進室を新設した。今後、業界・分野の枠を超えた連携を強化し、さらにグローバルレベルでベストプラクティスを創出・展開することで、お客様や社会に貢献していく。
最後に、日本にはもともと強みとしてきた現場力、つなぐ力、すり合わせ力、実現力、きめ細かなサービスの創出力などがある。このような日本の優れた力を活かし、総合的なデザイン力、IT・デジタルの技術力や活用力を高めて、日本の社会全体のDXを推進していくことが、これからの日本の新しい力になると考えている。NTTデータも「Trusted Global Innovator」として、皆様とともに新しい社会を描き、その実現に貢献していく。
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