日本政府で環境保全全般に関する政策を手掛けている環境省では、CO2排出削減に最大の効果をもたらす設備・機器等を「L2-Tech認証製品一覧」としてまとめ、情報発信および普及を推進している。多くの人手と手続きを要したこの業務環境の打開に向けて、同省がNTTデータとともに行ったのが、SalesforceをベースとしたWebシステム化だ。システムの構築に際しては、業務フローの見直しによりSalesforceの標準機能を最大活用し、開発工数を抑えつつも、デザイン面のカスタマイズで高い利便性とPR効果を実現した。これにより、L2-Tech認証プロセスの業務効率向上に加え、申請者数が当初の計画値を超えるという、理想的なWebシステムが完成した。
お客様の課題
- 「L2-Tech認証製品一覧」の作成にあたり、多くの人手を必要とする
- 技術情報の効率的な収集が困難であり、収集数にも限界が生じている
- L2-Tech認証製品の認知度や購買・導入につながるPR効果を高めたい
導入効果
- 短期間で高い利便性とPR効果を持つWebシステムが実現した
- Webシステム化によりL2-Tech認証プロセスの業務効率が大幅に向上した
- 閲覧性・利便性に優れたデザインで申請者数が当初計画値以上に
本稿に登場するサービス
L2-Tech情報プラットフォーム
L2-Tech(Leading & Low-carbon Technology:先導的低炭素技術)認証関連の手続きをWeb上でスムーズに行えるシステムであり、「L2-Tech認証製品一覧」としてまとめられたリストを公開することで、わが国の優れた低炭素技術を国内外に発信する役割を果たします。
ケーススタディ
導入の背景と課題
低炭素技術の普及・導入を進めるうえで重要な役割を担う「L2-Tech認証製品一覧」
地球温暖化に対する取り組みが加速している昨今、自動車や家電製品などでも「CO2削減」を前面に掲げる製品が増えている。こうした取り組みは、日本全体としても推進されているものだ。2015年11月の「第21回締約国会議(COP21)」で採択された「パリ協定」を背景として、日本は2030年までに26%の温室効果ガス排出削減を実現するべく、エネルギー起源CO2の排出がきわめて少ない低炭素技術の普及・導入を進める必要がある。そこで、日本政府で環境保全全般に関する政策を手掛けている環境省では、先導的(Leading)な低炭素技術(Low-carbon Technology)である「L2-Tech」の普及・拡大を図ってきた。
具体的な取り組みとしては、2014年度よりL2-Tech情報を体系的に整理。翌年から認証制度として、夏と冬にメーカーから幅広く募集したCO2排出削減に最大の効果をもたらす設備・機器等を「L2-Tech認証製品一覧」としてまとめ、情報発信および普及を推進している。認証に関しては、日本法人が製造または販売する製品のうち「L2-Tech水準」を満たすものについて、本制度が設置する審査・認証検討委員会の審査結果に基づいて認証を行っている。
選定ポイント
人手を要した業務環境を改善するWebシステムの構築が喫緊の課題に
L2-Tech認証製品一覧の作成にあたっては、まず事務局が実施する公募に対して、設備・機器等のメーカーが申請を行う。その後、事務局の事前審査、審査・認証検討委員会による審査を経て、環境省が製品を認証。事務局がメーカーへ認証結果の通知を行い、異議申し立てがなければ、環境省が利用者/国民に対してL2-Tech認証製品一覧を公表するという流れになっている。
しかし、こうした公募から公表までのプロセスを遂行するにあたり、関係機関では大きな課題を抱えていた。それは、各業務がメールおよびMicrosoft Excelをベースとした、きわめて膨大な人手を要する作業となっていたことに起因する。
環境省 地球環境局 地球温暖化対策課 地球温暖化対策事業室 室長補佐の河田 陽平氏は、「従来の作業方法では、事務局や環境省がメーカーからの技術情報を効率的に収集することが難しく、その収集数にも限界が生じてきます。また、手入力に頼らざるを得ない状況であるため、正確性や作業スピード、情報の客観性などにも欠ける部分が出てきてしまうのです。現在、認証製品は約1000種類ありますが、企業や製品の情報を整理するのに膨大な人手がかかっていました。さらに、認証を希望するメーカーからの問い合わせや要望などは電話対応が中心で、こちらも多くの手間と時間を要していたのです。そしてもうひとつ、利用者や国民のみなさまに対して、もっとL2-Tech認証製品の認知度や購買・導入につながるPR効果を高められないか、という想いもありました」と語る。
こうした背景から、同省ではL2-Tech認証関連の手続きをWeb化できる、新たなシステム構築に踏み切ったのである。
新システムに求める要件としては、L2-Tech認証制度自体がまだ新しく、将来的な規模も明確に予想できないことから、システムの柔軟性がきわめて重要になると判断し、従来のようなメールとExcelを用いた属人性の高い業務環境ではなく、より効率的かつ状況に応じてシステム規模を変更可能なクラウド上での構築が推奨された。また、PR効果の最大化が図れる優れたデザイン性や、情報を扱ううえでセキュリティの高さなども要件のひとつになったという。
そしてもうひとつ重要であったことが、システム運用開始までの期間だ。本案件では、2016年10月中旬に設計・開発事業を決定し、2017年2月中旬に受入テストを開始、2017年4月にはシステム運用開始という、きわめて短期間での開発が求められたのである。
こうした要件を満たすべく、2016年10月にNTTデータがシステム開発を受託し、L2-Tech認証関連手続きのWeb化に向けたシステム構築がスタートした。
L2-Tech制度事務局の石津朝弘氏は「複数の事業者からご提案いただきましたが、その中でもクラウドを使ったシステム構成が特徴的でした。システム全体としての機能性はもちろんですが、評価項目のひとつである今後の展開性という観点からも、クラウド活用は非常に有効だと感じました」と、選定のポイントについて語る。
導入の流れ
標準機能を活かす業務フローの見直しで開発工数を抑えつつも高い利便性とPR効果を実現
本案件は、きわめて短期間での開発が求められたためNTTデータでは、ハードウェアの手配などに時間がかかるオンプレミスではなく、クラウドサービスのSalesforce基盤を活用。開発期間を含むすべての要件を満たし、なおかつ十分な品質が担保できるシステム構築を目指したのである。
L2-Tech認証プロセスの実装においては、開発工数の増加を抑えるという観点から、できるだけSalesforceの標準機能が採用された。これを実現するため、NTTデータが事務局および環境省と協力して業務フロー自体の見直しも行っている。
また、画面設計についても最適化が図られており、Salesforceが提供するアカウント設定を利用して、ひとつの画面をアカウントごとに別表示できるように設計。開発が必要な画面数を絞り込むことで工数の増加を抑えたほか、L2-Techの利用者区分についてもSalesforceの標準アカウントでの対応を実現した。
こうした標準機能の活用によって高効率な設計を図る一方で、より多くの時間をかけて調整を行ったのが、事業への興味・関心を促したい利用者/国民向けの画面デザインだった。こちらは情報の見やすさや使いやすさを最優先すると同時に、よりPR効果が高くなるようにデザインされ、必要に応じてカスタマイズも実施された。
環境省 地球環境局 地球温暖化対策課 地球温暖化対策事業室 主任の仁科 佳菜子氏は「時間的な制約がある中、NTTデータは週2回のミーティングで細かな意思疎通を図りながら、粘り強く柔軟に設計・開発を行ってくれました。画面に関してもプロトタイプを活用し、実現イメージを視覚化することで、円滑な仕様調整を行っていただきました。約6ヶ月という限られた期間で、ここまで実務に即したシステムを構築できたのは、豊富な実績とノウハウを持つ会社ならではと感じます」と語る。
導入効果と今後の展望
L2-Tech認証プロセスの業務効率が大幅に向上 申請者数の見込み値は当初計画値以上に
こうして数々の工夫を盛り込みながら構築が進められ、2017年4月には予定通り運用を開始した同システムについて、河田氏は「メールとExcelで行っていた従来の業務環境と比べて、L2-Tech認証プロセスの業務効率が大幅に向上しました。また、Web形式での表記によってL2-Tech認証製品情報などの視認性や検索性が改善されたほか、PR効果も向上し、申請者数は当初計画値を越える見込みとなっています。スピードを重視しながらも、きわめてクオリティの高いシステムに仕上げることができました」と、その効果を話す。
2017年10月初旬には、システム化されてから初となるL2-Tech認証製品一覧の公表が行われた。仁科氏は「新しいものに抵抗感がある方もいらっしゃると思うので、システム化によって一時的に応募数などが減る可能性も考慮していました。しかし、結果として申請数・認証数ともに増加したのはうれしい誤算ですね。利便性が向上したことで、これまで『手続きが面倒だから』と感じていた方も、申請がしやすくなったようです。また、他の環境省職員からも『L2-Tech関連の情報が一元化されてわかりやすくなった』『検索などの利便性が向上した』と高い評価を得ています」と語る。
最後に今後の展望として河田氏は「システムの運用開始から間もないので、まずはL2-Tech認証製品に関する運営業務を毎年滞りなく確実に遂行していくことを重視しています。その上で、ユーザーからの意見を基にした改善、さらなる業務の効率化、技術の移り変わりへの柔軟な対応などを順次進めていきたいですね。こうした取り組みを行うにあたり、NTTデータには、今後もより良いサポートと提案を期待しています」と語ってくれた。
NTTデータでは、地球環境へのアクションプランとして「Green by IT」を掲げており、またNTTグループ全体でも2030年度までの環境活動の目標に「環境目標2030」を設定している。L2-Tech認証製品に関するWebシステム化は、環境活動に貢献する重要な取り組みのひとつであり、NTTデータでは今後もサポートを続けていく予定だ。
お客様プロフィール
- お客様名
-
環境省
- 所在地
-
東京都千代田区霞が関1-2-2 中央合同庁舎5号館
- 設立
-
1971年(環境庁)
- 事業概要
-
1971年、各省庁に分散していた公害行政を一本化するべく新設された環境庁を前身としており、2001年の中央省庁再編で環境省と改められた。廃棄物対策/公害規制/自然環境保全/野生動植物保護をはじめ、他府省との共同による地球温暖化/オゾン層保護/リサイクル/化学物質/海洋汚染防止/森林・緑地・河川・湖沼の保全/環境影響評価/放射性物質の監視測定などの対策を実施。さらに、環境基本計画などを通じて政府全体の環境政策を積極的にリードするといった、環境保全全般に関する政策を手掛けている。
- ウェブサイト
お客様の声リーフレットダウンロード
お問い合わせ
環境省様の事例に関するお問い合わせ