2013年の参議院選挙から、ブログ、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)など、インターネットのサービスを利用した選挙運動(以下、ネット選挙)が解禁された。NHKは、このネット選挙にいち早く対応するため、報道番組にTwitterなどを情報源とするビッグデータ分析を導入することを決定。ネットユーザーの意識の変化をわかりやすくビジュアル化して放送した。その先進的な試みは、報道の新たな挑戦として業界内外から注目を集めた。
お客様の課題
初めてネット選挙が解禁される2013年参議院選挙の報道において、これまでの出口調査や世論調査などとは異なる、新たな観点の分析を試みたいと感じていた。
インターネットが普及し、生活者にとって日常的なものになったSNSを活用した新たな報道、取材のあり方に挑戦したいと考えていた。
導入効果
Twitterの全量データを分析することで、ネットユーザーの意識の変化をとらえることができ、従来の調査とは別の観点から参議院選挙を報道することができた。
Twitterから社会の変化の兆しを読み取ることにより、初動をとらえた効果的な取材が可能になった。
ケーススタディ
導入の背景と課題
ネット選挙の解禁、ブログやSNSを通じた選挙活動が可能に
プロジェクトの生まれた契機は、2013年7月の参議院選挙におけるネット選挙の解禁だった。これによって、政党や候補者は、ブログやSNSなど、インターネットを通じて選挙活動を行うことが可能になった。
「私たちの抱えていた大きな課題は、今回のネット選挙を開票速報番組のなかでどのように伝えるかということでした」そう振り返るのは、NHK 報道局 選挙プロジェクト 副部長の尾澤 勉氏だ。尾澤氏はまた、インターネットやSNSが、現在ここまで深く生活に根付いていることを、番組を通して視聴者に伝えたかったと話す。
NHK 報道局 ネット報道部の足立 義則氏は、今回のアプローチについてこう語った。「ネット選挙は、利用する側にとっても報道する側にとっても初めての試みです。従来の出口調査、世論調査とは違った観点から、有権者の意識を分析したり、政党の戦略を探っていきたいと考えました」
その回答のひとつが、今回番組に導入された、Twitterを情報源とするビッグデータ分析である。Twitterとは、登録ユーザーが「ツイート」と呼ばれる140字以内の短文を、世界に向けて発信することのできる情報サービスで、1日のツイート件数は世界で1億件を超えると言われている。
足立氏は続ける。「日本語のすべてのツイートデータを分析することで、ネットユーザーの意識の変化を機敏に察知することができると考えました。今回、重視したのは、そうした『兆しを見る』ということです」
選定ポイント
最新の言語解析技術による、全量ツイートデータの分析
そのような背景から、Twitterの全量データを提供可能な、国内唯一の企業であるNTTデータが、NHKのプロジェクトに協力することになった。
NTTデータは、米国Twitter社との契約により、日本語のツイートデータおよび日本国内で書き込まれたすべてのツイートデータを取得し、提供することが可能になっている。
また、NTTデータは、ただデータを提供するだけではなく、最新の日本語解析技術によりビッグデータ分析を行い、さまざまなチャート/リストを作成して提供した。時間とともにひとつのツイートが拡散していく様子を示した「Tweet拡散分析」、アカウントごとに主要な指標を算出した「インフルーエンスプロフィール」、関連性の深いキーワードの組み合わせをリストアップした「KW相関分析」などである。
特に、「Tweet拡散分析」には、Twitterの特徴がよく表れている。Twitterユーザーは、たんに自分のツイートを投稿するだけではなく、他人のツイートを「リツイート」という形で複製し、ネット上に広めることができる。「Tweet拡散分析」のチャートは、あるツイートが、時間とともにどのような経路でリツイートされ広がっていったのかを樹形図のように表現し、見る者の直感的な理解を助ける。
導入の流れ
魅力的なテーマと分析結果を見つけ出すためのキャッチボール
選挙速報にTwitterを使ったビッグデータ分析を取り入れるため、具体的な解析方法について検討を始めたのが、選挙日の約3か月前、ツイートデータの収集を開始したのが約1か月前。
NHKとNTTデータは毎週、定期的なミーティングを行い、放送日近くでは、毎日のように議論を交わしたという。尾澤氏は振り返る。「ミーティングでは、定期的な分析結果をいただきながら意見を交換し、随時アドホック分析もお願いしました」アドホック分析とは、そのときどきで行う個別分析のこと。ビッグデータの様相は常に変化しているため、その都度どんな兆候が表れるか予想がつかない。
NTTデータとの仕事の進め方を、足立氏はキャッチボールと表現した。「新しいテーマを考えては分析を繰り返しました。しかし、分析に時間がかかったり、結果として出てきたものが予想した範囲を超えない、新たな視点に欠けるということもありました。NTTデータさんとは、魅力的なテーマと分析結果を見つけ出すために、お互い知恵を絞りながらキャッチボールを繰り返しました」
選挙報道におけるSNSなどのビッグデータの活用はこれまで前例がなく、指針とすべきノウハウの蓄積がなかったためである。
なお、それは情報システムの構築についても同じことが言える。尾澤氏は次のように語る。「膨大なデータ量を短時間で処理するには、どの程度の規模のシステムが必要なのか? 数社でシステム連携するためのインターフェースは、どのような仕様にすべきなのか? それらの課題を手探りで詰めていきました」
プロジェクトにはスケジュール面での焦りもあったというが、最終的には、両社のスピード感が勝った。選挙当日の速報、数日後の特集において、ネットユーザーの各党への関心度が変化していく様子などを、視聴者が理解しやすいようにビジュアル化して放送することに成功した。
導入効果と今後の展望
ビッグデータの活用をはじめとする、最新のIT技術を報道に
放映後の内外の反響について話を聞くと、足立氏は、「ひとつのチャレンジとして好意的に受け止められたのではないかと思っています」と答えた。今後、Twitterをはじめとしたソーシャルデータの分析を番組に取り入れていく上での重要なステップになったという。
また、尾澤氏はプロジェクトを振り返って、兆しを見つけることの重要性がこのプロジェクトから再認識できたと語る。ビッグデータが特定の方向に動き始めるポイントをとらえ、分析することで、その原因となった対象に素早く密着した取材を行うことができる。今後は選挙報道に限らず、ソーシャルデータの動きに着目した取材を重視するつもりだと尾澤氏は語った。
足立氏は、ソーシャルデータを活用した情報システムのことを、「取材の大事なインフラ」とたとえた。社会インフラがそうでなくてはならないように、NTTデータには、システムの信頼性と安全性を高めていってもらいたいと話す。
最後に、尾澤氏は、ビッグデータ分析をはじめとする最新のIT技術を、今後も番組制作に積極的に取り入れていきたいと抱負を語った。
お客様プロフィール
- お客様名
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日本放送協会(略称:NHK)
- 放送センター(本部)所在地
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東京都渋谷区神南2-2-1
- 設立
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1950年6月1日(放送法に基づく日本放送協会の設立日)
- 職員数
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1万392人(2013年度)
- 主な事業内容
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- 国内放送(総合テレビ、Eテレ、BS1、BSプレミアム、ラジオ第1・第2、FM)
- 放送と受信の進歩発達に必要な調査研究
- 国際放送
- その他、放送法に定められた業務
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