常にユーザーの視点に立ったサービスを通じて社会的価値の向上を目指しているNTTドコモは、開発パートナーのNTTデータが実施した「PO(プロダクトオーナー)研修」から着想を得た自動観光ルート提案を実際の事業ベースのサービスに発展させるべく、開発プロジェクトを始動した。多くの観光客が潜在的に持っている「自分の好きな場所を効率良く見て回りたい」というニーズに応えるとともに、ブランド力の弱さなどで伸び悩んでいる観光地の活性化を促すなど「地方創生」にも貢献していく考えだ。
お客様の課題
- ユーザーの声を大切に聞き入れ、サービスに反映させていく開発体制の強化
- サービス企画と開発部門が一体となったプロジェクト推進
- 社会的課題の解決に貢献する付加価値サービスの実現
導入効果
- PO(プロダクトオーナー)研修を通じて斬新な観光案内サービスのアイデアを発想
- リーンスタートアップ手法により短期間で新サービスの事業化を実現
- ブランド力に悩む観光地への集客増加へ向け「自動観光ルート提案サービス」を開発
ケーススタディ
導入の背景と課題
今後の地域拡大を狙って斬新な観光案内 サービスのテストマーケティングをスタート
NTTドコモは某自治体の観光アプリの一機能として自動観光ルート提案サービスを2017年4月より提供開始した。また、サービスの更なるブラッシュアップを目的とし、グループ会社を通じて自動観光ルート提案サービスとしてのテストマーケティングをスタート。「既存の観光案内サービスよりもシンプルに、"あなたに最適なルート"を提案する」ことをコンセプトとするクラウドサービスを提供している。開発を主導したNTTドコモ サービスデザイン部 クラウドアプリ開発担当の安藤 麻衣氏は次のように説明する。
「ユーザーが任意の出発地(あるいは現在位置)と帰着地、所要時間など必要最小限の条件を入力するだけで、おすすめの観光スポットの候補を示すとともに、それらを効率良く周る順番、最適ルートをその場で動的に生成します」
定番の観光ルートを案内したり、入力された目的地への最適ルートを検索したりするサービスは数あるが、位置や観光時間などのユーザーの都合を考慮したおすすめ観光ルートを提案するサービスは、これまで意外になかった。
「たとえば旅行先でふと空き時間ができて、その範囲内で訪問できる場所を散策したいと思っても、どこにどんな観光スポットがあり、どう行けばよいのかもすぐにはわかりません。特に若い人は国内旅行の場合、事前にそれほど下調べをせず、ふらりと出かける人も多いので、このサービスはお役に立てると思っています。あとは、出張先での隙間時間の使い方に困っているビジネスマンにも使っていただきたいと思っています」と安藤氏は話す。
選定ポイント
自動観光ルート提案サービスに正式な事業としてのGoサイン
実はこの自動観光ルート提案サービスは、これまでのNTTドコモのサービス開発とは、少し異なる経緯から始まった。きっかけとなったのは、2015年11月にNTTデータが実施したアジャイル開発をテーマとする「PO(プロダクトオーナー)研修」だ。POとはアジャイル開発手法のひとつであるScrumにおける役割の名称であり、ソフトウェアの総責任者を指す。
今回の研修にはNTTドコモのクラウドアプリ開発チームのほか、NTTデータの社員も参加し、混然一体となった形で議論が進められた。そうした中、安藤氏とNTTデータの脇田 長良のチームから生まれてきたのが「観光ルートを動的に自動生成して提案する」というアイデアだったのである。
通常は、プロトタイプを構築するところまででPO研修は終了となる。だが、せっかくの面白いアイデアをこのまま眠らせてしまうのは、あまりにも惜しい――。もともとクラウドアプリ開発チームにITディレクターとして常駐し、各方面の業務支援を行っていた脇田と安藤氏はこのように考え、所属する部署内で事業化の提案準備を進めた。
「NTTデータとはさまざまなプロジェクトでお付き合いがあり、研修後に自社へ戻ってからも、PO研修で学んだ内容に沿って作成したリーン・キャンバス(ビジネスモデルの基本設計書)を脇田さんとブラッシュアップしていきました。そして今後のサービス開発で重きを置きたいと考えていた『サービスの価値を決めるのはユーザー』という視点に立ち、まずは自動観光ルート提案サービスを小さな形でもいいから世に出して、お客様の声を聞きながら大きく育てていきたいという考えに至り、『これはもうやるしかない』と意気投合しました」(安藤氏)
こうして安藤氏と脇田のタッグによる、自動観光ルート提案サービスを正式な事業に発展させることを目指したボトムアップの取り組みが始まった。2人はサービスのコンセプトを再検討してブラッシュアップし、競合調査や市場調査を行うとともに技術的実現性をまとめて上司に提案した。その企画内容と熱意に上司も納得し、ついに自動観光ルート提案サービスの構築プロジェクトが始動した。
導入の流れ
リーンスタートアップの考え方をベースに「成功するビジネスモデル」を創出
自動観光ルート提案サービスの構築プロジェクトは、リーンスタートアップの考え方をベースにお客様とともにビジネスを創出するNTTデータのビジネス手法を基本として、2016年2月に始動。NTTドコモのクラウドアプリ開発チームとNTTデータが一体となった体制で進められた。世間的には大規模システムをウォーターフォールモデルで構築している印象が強いNTTデータだが、現在、SIerの次の姿を模索しているところである。顧客が望むシステムを作るだけではなく、顧客の視点に立ち、顧客が求める社会への提供価値をどのように実現するかを共に考えていく姿を目指している。
「サービスを作るまでではなく、サービスを成功させるまでをゴールとすることで、お客様と真のパートナーシップを築いていきます。今回のプロジェクトはまさにこの新たな姿の成功モデルとするべく、営業から開発のマネージャー、担当者まで全員が一丸となってこの『真のパートナーシップの構築』に照準を合わせて臨みました」と、脇田はこのプロジェクトにかけた思いを語る。結果として、NTTドコモは約1年で自動観光ルート提案サービスを構築し、同自治体でのサービス開始やテストマーケティングに漕ぎつけることができた。
「私たちは開発部門なので技術的な実現性についてはイメージができましたが、一方でビジネス性に関する検討が困難でした。このサービスでどのようなビジネスモデルが成り立つのかを探っていたところ、NTTデータからさまざまなサービスの成功事例などを提示していただきました。自動観光ルート提案サービスの目指すべき姿を一緒に検討することで、事業としての枠組みを固めることができました」(安藤氏)
導入効果と今後の展望
地域おこしを通じてサービスの社会的価値も追求
NTTドコモはテストマーケティングによりターゲットとしているユーザーの声を集めてブラッシュアップを続け、十分な手応えを感じたら自動観光ルート提案サービスを他の地域にも順次展開することで「地方創生」に寄与していく考えだ。
「おでかけや旅行の際に必ず使ってもらえるような、観光分野の定番サービスになることを目指します。これまであまり知られていなかった地域にも目が向けられるように、観光に力を入れたいと考えている自治体とも協力し、新たな旅行スタイルを提案したいと考えています」と安藤氏と脇田は語る。そうした地域おこしを通じて、自動観光ルート提案サービスの社会的価値を追求していくことが、今後のテーマだという。
またクラウドアプリ開発チームの意識に変化をもたらしたことも、今回のプロジェクトの成果としてとらえられている。「自分もPO研修を受けたいと名乗り出るメンバーが続々と増えていることからも、チームの雰囲気が変わってきたことを感じます。『まずは小さく世に出して、お客様の声を反映しながらサービスを発展させていく』というリーンスタートアップ開発のひとつの成功事例として、この考え方をドコモ全体に広げていきたいと思います」と、安藤氏は今後に向けた熱い意気込みを示した。
お客様プロフィール
- お客様名
-
株式会社NTTドコモ
- 所在地
-
東京都千代田区永田町2丁目11番1号 山王パークタワー
- 設立
-
1992年7月1日
- 事業概要
-
携帯電話サービス、光ブロードバンドサービス、衛星電話サービス、国際サービス、各サービスの端末機器販売などの通信事業を柱とする。近年はサービスプロバイダーとしても新たな価値の提供を目指し、新領域事業の成長にも注力。さまざまなパートナーと「協創」し、産業の活性化やさまざまな社会的課題の解決に貢献する「付加価値協創企業」を目指している。
- ウェブサイト
参考資料
お問い合わせ
株式会社NTTドコモ様の事例に関するお問い合わせ