香川県は47都道府県で最も面積が狭いが、平野部が多く、気候が温暖で降水量が少ないという特色をもつ。この風土を生かして、レタス、ブロッコリー、金時ニンジン、マーガレットなど全国的に知られるさまざまな農産物が栽培されている。その中でも近年、注目度が高まっているのがブロッコリー。JA香川県(香川県農業協同組合)ではブロッコリーの安定供給と生産者の収益拡大に向け、ICTを活用した出荷予測システムの導入に取り組んでいる。
お客様の課題
- 近年の異常気象や気候変動により、ブロッコリー出荷量の予測が困難になってきた
- 生産者のデータを収集するためには現地巡回が必要だった
- 作付面積が大きいブロッコリーによる収入を上げていきたい
導入効果
- 過去のブロッコリー栽培に関する定量的なデータやJA香川県の定性的な知見を取り入れ、出荷予測モデルを構築
- 生産者のデータ入力の手間を最小限に抑えつつ、どこからでも現場の見える化を実現
- 出荷量を高精度で予測できるようになれば市場交渉が進めやすくなり、生産者の所得増大に期待
本稿に登場したサービス
あい作®
産地の営農活動をICTによって高度化、効率化を推進してくれる営農支援プラットフォーム。栽培計画、栽培記録、連絡・相談をスマートフォン、タブレット、PCから行える。徹底的な使いやすさを追求し、現場の声などの気づきをさまざまな機能に反映している。現在は香川県、茨城県、島根県などの11県域20組織で、幅広く利用されている。
導入の背景と課題
計画的な安定供給に向けて高まる予測のニーズ
香川県はブロッコリーの生産量で全国トップクラスを誇り、とくに秋冬作では全国一の規模に躍り出ている。ブロッコリーは一時期、輸入品に押されて国産品が低迷した時期があった。しかし香川県では氷詰めして鮮度を保つ手法を採用し、苗の供給から定植支援、出荷調整までをJAが手がけることで、1998年以降、生産量が年々増加。栽培面積も広がり始め、2019年度は1,355ヘクタールとなり県の中心的な農産物に成長している。
生産量が増えるにつれ、販売側の課題が露見するようになったという。露地栽培のブロッコリーは天候が生育に大きな影響を及ぼすが、とくに近年は異常気象や気候変動もあって、従来から続けられるJA営農指導員の長年の知見による出荷量の予測が難しくなっている。そこでJA香川県ではICTを活用することで、解決できないか検討していたという。
そもそも、なぜブロッコリーの出荷予測が求められているのかについて、常務理事の陶山氏は次のように説明する。
「2015年頃からJAの自己改革に取り組む中で、生産者の所得増大という大きな目標を達成するため、作付面積が大きいブロッコリーによる収入をいかに上げていくかが課題となりました。そこで通常の卸売市場を経由した市場取引以外に、スーパーマーケットとの契約取引において、計画的に安定供給できる態勢を整えれば生産者の収益も増えていくだろうということで、出荷予測のニーズが高まっていました」
選定ポイント
あい作®との出会いとポイント
そうした流れの中2018年に、もともと金融分野のシステム構築で取引があったNTTデータから栽培計画、農作業履歴の実績、生育状況、出荷状況など農業生産に関わるさまざまなデータを入力し、データの見える化と情報共有を実現する営農支援プラットフォーム「あい作」の紹介を受けた。園芸課の三谷氏は、その当時についてこう振り返る。
「NTTデータと話しをしていく中で、JA香川県として期待していたレベルの出荷予測が実現できることがわかりました。加えて、定植時期や花蕾の様子などの栽培状況を記録し生産者毎に見える化できるということも『あい作』を選んだ大きなポイントでした」
こうして2019年4月からプロジェクトがスタートした。同年6月には、NTTデータ、JSOL、香川県、観音寺市、三豊市、三豊地区ブロッコリー部会と「香川県スマート農業技術推進連絡協議会」を設立。この協議会において、NTTデータが提供する「あい作」を活用した生育調査等の時間削減、および経験の浅いJA担当者でも、事前に出荷見込を正確に把握できる出荷予測モデルの構築を進めることとなった。
導入の流れ
営農支援プラットフォームを生かした出荷予測モデルの開発へ
まずは2019年秋冬に、前年までの複数年分の過去データを分析して出荷予測モデルの設計と、2020年の秋冬作からの本格導入に向けた運用設計が行われた。
出荷予測モデルには、JAや県がもつ過去の栽培にかかわる実績データ(栽培履歴や出荷実績など)が用いられた。また、それらの定量データに加え、JA香川県がもつ定性的な知見が積極的に取り入れられたという。例えば、予測にあたって必要となる気象データでは、「生産エリアをどのように分割すると現場での経験則に合うのか?」品種データでは、「実績データの少ない新品種の予測のため、類似する品種がないか?」など、JA香川県のメンバーからNTTデータが繰り返しヒアリングを行い徹底的に知見の見える化が行われたという。
「あい作」に蓄積されたそれらのデータを、ICT/モデル構築技術により統計分析し、実用的な出荷予測モデルが設計された。ここに、農業現場(生産者)がスマートフォン等で入力する作業履歴や生育状態の画像データ、さらに外部の気象データ等を取り込むことにより出荷予測が行われる。
2019年度の実証では、20名程度の生産者へスマートフォンやタブレット端末からのデータ入力と生育中の写真撮影を依頼。このデータ収集には当初苦労したと、同課で協議会の運営に携わる山本氏は振り返る。
「協力いただいた生産者には高齢の方も多くいらっしゃいました。今回のためにスマートフォンを購入するなど積極的に取組んでいただいていたものの、やはりスマートフォンによるデータ入力に手間がかかるという声が出ました。当初、予測のためのデータすべてをスマートフォンによって入力してもらう前提で設計していましたが、そのような声を踏まえて、2020年度の出荷予測システムでは生産者に入力してもらうデータは最低限に抑え、苗の供給データや定植支援の実績データなど、JAがもともと保有しているデータを活用するように改善を行いました」
そうしたデータの入力を省くだけで、日頃から忙しい生産者の方の心理的な負担が大きく減るということを、2019年の実証で学んだという。
導入効果・今後の展開
予測精度をさらに磨いて生産者の所得増大に貢献する
実証によって、構築した予測モデルの有効性と2020年度からの本格導入に向けた改善点が確認された出荷予測システムについて、生産者の多くは興味を持っているといい、JA香川県としても手応えを得ている。実証から浮かんだ課題と今後の展望について、山本氏は次のように話す。
「2020年度に向けては、生育状態の画像データをもとにJAの担当者が予測補正できる機能が追加になるなど、まだ完成ではなくこれからも工夫を重ね、さらに精度を高めていかなければなりません。2週間程度先の出荷量を高精度で予測できるようになれば、市場交渉が進みやすくなり、生産者の所得増大にも大きく貢献できると考えています。また、レタスなど他の品目への展開や、『あい作』が持つAIによる病害虫診断、他にも土壌診断などICT活用の範囲を広げていくことを考えています」
今回の取り組みの中で、NTTデータに対しては「これまでJAとしてさまざまなデータを保有しているにもかかわらず、分析や活用ができていませんでした。今回NTTデータにサポートをいただいたことで農業分野へのICTの導入が進み、データを有効に使えるようになったと感じています。また、これまで生産者のデータを収集するためには現地巡回が必要となっていましたが、どこからでも生産状況が見える化できるようになったことは、今後利用者が拡大するにつれ、我々にとってさらに大きなメリットをもたらすでしょう。2020年秋冬の本格始動後もまたさまざまな課題が出てくると思うので、これからも一緒に解決していければと思います」と三谷氏は期待を示す。
最後に常務理事の陶山氏は、今後に向けて次のように述べた。
「出荷予測モデルの本格導入は2020年度からですが、予測精度をさらに向上させることで、天候によって急に出荷量が増えるような場合にも、作型の分散・生育の微調整や人手の確保など事前に手が打てるようになります。収穫が間に合わない等の理由による廃棄を減らし、圃場当たりの商品化率を高めることは生産者の収益向上に繋がり、JAにとっても多くのメリットをもたらすことになりますから、出荷予測システムに今後も期待しています」
お客様プロフィール
- お客様名
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JA香川県(香川県農業協同組合)
- 所在地
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香川県高松市寿町一丁目3番6号 香川県JAビル
- 設立
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平成12年4月1日
- 概要
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「夢のある農業」「活力のある地域社会」を実現するため、農業振興・地域社会への貢献、組合員と消費者の満足度向上などを経営方針に掲げる。作物としては「らりるれレタス」ブランドで知られるレタス、市場評価の高いブロッコリー、全国流通量の8割を占める金時ニンジン、生産量全国1位のマーガレットなどが有名。組合員と消費者の2019年度末の組合員は正・准合わせて約14万人を数える。
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