MUFGビッグデータ基盤
グループ全体の発展を担うデジタライゼーションの要

数千万の顧客を持つメガバンクがパブリッククラウドで革新的な中核システムを構築

日本で最大規模の金融グループであるMUFGが、データレイクをパブリッククラウド上に構築した。将来、グループ全体で活用する基盤として構想され、行内/グループ内のデータを格納し、自在に活用できるようにする。蓄積された膨大なデータを活用して、MUFG独自の機械学習モデルの研究・開発、実装をめざすなど、デジタライゼーション推進の中心を担うしくみとして、2019年12月から本格活用が始まっている。

お客様の課題

  • 既存の情報系システムでは扱えない量と種類のデータを分析したい
  • 予測不可能なデータの増大とテクノロジーの進化への追従
  • 中期経営計画で推進されるデジタライゼーションへの対応

導入効果

  • クラウド(AWS)の採用により、膨大で多種類のデータを蓄積可能に
  • スモールスタートでAIを含めた分析にも対応できる環境を構築
  • MUFGグループ全体での活用を見据えた拡張性、柔軟性、アクセス権などの管理能力の確立

MUFGビッグデータ基盤

MUFGグループ内外の多様な種類、膨大な量のデータを蓄積し、適切な制御のもとで自在にデータを活用できる基盤をめざしてつくられた。

構造化データ、非構造化データをペタバイトクラスの大容量で蓄積でき、蓄積した膨大なデータから必要とするデータの探索、抽出、連携を容易に可能とする。業務の高度化、効率化を実現するMUFG独自の機械学習モデルによる研究開発などが進められている。
先行して三菱UFJ銀行での活用から始まったが、グループ全体で活用されることを前提にしたアーキテクチャーになっており、今後デジタライゼーションによる事業変革を支え、事業運営を強化する戦略立案の要、情報の源泉として位置づけられている。

導入の背景と課題

膨大なデータのグループ全体での活用、クラウドの必然性

三菱UFJフィナンシャル・グループ(以降・MUFG)は商業銀行、信託銀行、証券、クレジットカードなどの事業を持つ金融グループであり、取引する顧客数は数千万件にのぼる。
MUFGは2017年5月に発表された「MUFG再創造イニシアティブ」、続いて公表された中期経営計画(2018年度~2020年度)で、「グループベースでの顧客・事業軸運営の強化」「デジタルを活用した事業変革」「生産性向上に向けたイニシアティブ」に注力する方針を打ち出している。そのなかでAIを活用した効率化・高度化を掲げ、デジタライゼーションを強く意識した競争力強化を推進している。

2017年初頭、三菱UFJ銀行は「クラウドファースト」を宣言し、Amazon Web Services(AWS)の全面採用を発表。AWSを使うための基礎が用意され、ノウハウの蓄積が進みつつあった。
そのような背景をもとに、MUFGビッグデータ基盤プロジェクトはスタートしており、MUFGビッグデータ基盤をAWSでつくることは、関係者にとって必然的なものだった。
三菱UFJ銀行では約20年前につくられた経営管理システムに顧客情報を格納し、厳密なアクセス管理の上で活用してきた。データ量は膨大になるが、記憶容量には制限があり、数年分しかデータを蓄積できなかった。
クラウド技術を活用すれば、データ容量も機能も自動的にアップするしくみを作れる。また、多様な種類のデータを扱うための技術がクラウド上で次々と登場してくることも予想された。

経営情報統括部の桑島氏はシステム部に在籍した知見を生かしながら、ユーザー側に立って要望を取りまとめた。

「例えば、お客さまの多いマスリテール層のパターンを調べるとして、データが数年分では分析になりません。大量のデータを長期間蓄積した上で、容易に取り出すことができ、すぐに分析に取りかかれるしくみの構築が急務でした。
加えてAI機械学習を前提とすると、データは構造化データだけでなく、非構造化データも対象になることから、まったく新しい考え方でデータ蓄積・活用のしくみをつくらなければならないというところから、プロジェクトはスタートしています」

三菱UFJ銀行 経営情報統括部 調査役
桑島 透氏

システム開発運用部の平林氏はエンタープライズアーキテクチャーを専門とし、三菱UFJ銀行の戦略とシステムの全体像を俯瞰する立場から、データの蓄積、活用のためのシステムを考えてきた。

「MUFGビッグデータ基盤はグループ全体で共有することで業態間の連携がスムーズにできるように構想されています。2019年12月から三菱UFJ銀行が先行して活用しており、スモールスタートのかたちを採りました」

三菱UFJ銀行 システム開発運用部 調査役
平林 哲氏

選定ポイント

先端テクノロジーのスペシャリストの存在、プロジェクトの完遂力

プロジェクトは基礎検討フェーズと開発フェーズに分かれていた。
基礎検討フェーズでは、概念レベルでアーキテクチャーを具体化するため、MUFGビッグデータ基盤に求められる機能やその実現方式を幅広く検討された。通常のシステムと異なり「大量データを蓄積し、安全に活用できるようにすること」以外に、確固たるものがまだ決まっておらず、通常ならニーズありきで始めることが、データありきだったため、検討が幅広くならざるを得なかったのだ。
このギャップを埋めるために、両社は取り得る方式をパターン分けし、どの方式を選択するのが最適なのかという検討を行ったが、これが非常に難しかった。銀行でスモールスタートするという前提で要件をまとめるために、確度が高いものから順に検討していくしか方法がなかった。

「以前からNTTデータには先端的なテクノロジー、クラウドやビッグデータについて幅広い知見があるという印象を持っていました。
実際にプロジェクトが始まるとオープンソース系、大規模なAWSの活用経験を始めとした、非常に広い領域の知見と高い技術力を持つスペシャリストが多数集まり、その方々が直接アサインされる体制だったことは大きな励みになりました。
加えて、AWSのプレミアコンサルティングパートナーであったこと、情報系領域における多数の開発実績、そして会社としての体制の厚さ、完遂力など、総合的に力のある対応をしてもらえました」(平林氏)

ユーザー側では、経営情報統括部とデジタル企画部が中心となって要件を取りまとめた。

Japan Digital DesignのMUFG AI STUDIO(略称 M-AIS)はMUFG独自の機械学習モデルの研究、開発、実装までを推進する目的で設立された組織で、平山氏は銀行のデジタル企画部を経て現職に就いた。

「そもそも銀行のデータは厳密に管理されており、特に顧客情報については、知るべき人が最低限の情報だけを検索できるしくみです。
対して、機械学習はとにかく全部のデータから機械的に有用な知見を見いだすという考え方ですから、既存のしくみでは、データの取得に時間とコストがかかり過ぎ、そこを解消しない限り、機械学習を広げていけませんでした。
機械学習のしくみに合わせて、プログラムが扱いやすいかたちで自動的にデータを取得されていくことを大切な要件として入れました」

Japan Digital Design M-AIS Senior Researcher
平山 元清氏

三菱UFJ銀行全体のデータ利活用を担当する経営情報統括部の門田氏は、既存の経営管理システムを担当しながら本プロジェクトに関わった。
銀行が技術を採用する際には情報セキュリティ面を最重要視することが多く、最新テクノロジーが優れているからといって、単純に前向きに進むわけではないと言う。

「AWSについても情報セキュリティ部門の審査をクリアしたサービスしか利用できないという制約がありました。その範囲で使える部品とやりたいことの間にはギャップがあり、そこはNTTデータにギャップを埋めてもらう、あるいは技術的な支援やアドバイスをしてもらって、ユーザーがやりたいと考えていたことを実現してもらえたと思っています。
ビッグデータ基盤のなかに超長期のデータが常にあるという安心感は大きく、今後、テクノロジーが進化するにつれて、今現在できなかったことも5年後にはできることが増えるでしょう。その時にこのデータがあって良かったと思えるぐらいの過去データが蓄積されているのがいいのだと考えています」

三菱UFJ銀行 経営情報統括部 調査役
門田 芳典氏

導入効果・今後の展開

自動的に収集されるデータを最大限に活用するしくみづくりへ

2019年12月の運用開始から9カ月が経過し、データ活用の現場では目に見えて良い変化が現れている。

「M-AISでは、与信とアンチマネーロンダリングで銀行のトランザクションデータを活用していますが、最新データを毎月取得するのはたいへんな作業で、担当者がデータ取得のためだけに毎月何日間も費やさないといけない状況でした。
MUFGビッグデータ基盤によって、与信やアンチマネーロンダリングなどのデータ取得がオートメーション化できました。特に2020年春以降、経済環境が大きく変わるなか、即時性の高いデータを素早く入手し、反映できることで与信の管理などで銀行から期待を寄せられています。そして、その期待に機動的に応えられるようになっています」(平山氏)

また、データの長期保管とメタデータによるデータ検索機能を応用することで、特定のファイルを見つけて活用することが容易になった。

「例えば過去の稟議ファイルがデータとしてMUFGビッグデータ基盤に大量に存在しています。最近出てきた応用的な使い方として、稟議を審査する行員が自ら検索で絞り込み閲覧するようになりました。これらはデータサイエンティストがデータ分析するというよりも、審査部門の通常業務の一部としての利用方法になります。今後は他の部門でも同じようなニーズに対応できるのではないかと考えています」(門田氏)

2020年9月、10月にはフェーズ2開発が完了し、機能追加が実施される。

「9月にはBIツールがリリース予定です。これまではデータ処理環境を扱える人がファイルを手元に持ってきて分析するような使い方が中心でしたが、BIツールを使ってデータを結合したり、絞り込みをかけたりすることが自在にできるようになり、よりデータの利活用が進むことを期待しています。
もっとライトなユーザー、データサイエンティストではないけれど、銀行で計数を扱って施策を考える人などに使ってもらえることを期待しています」(桑島氏)

10月にはさらにレベルアップし、ビッグデータ基盤に格納されるデータのバリエーションが増える計画だ。

「現在はAI機械学習用のデータが主なのですが、もっと幅広いユーザーに使ってもらうために、例えば口座振替システムにある契約やトランザクションのデータ、店舗にある番号札発行機のログデータなどを載せ、新しい分析ができるようにします」(桑島氏)

今後もさまざまなデータが集約され、新たな活用方法にトライしていく予定だ。

NTTデータへの期待

従来のシステム開発の手法では通用しないところへのチャレンジ

「銀行のインフラそのものを支えて、日本全体に貢献されているNTTデータなので、このニューノーマルの時代に日本の社会全体を変えていく、新しい社会を連れてくるくらいのインパクトのあるリードを期待しています」(平山氏)

「日本のITが最先端とは言えなくなる危機が近づいているという報道があります。そうならないように、インフラからクラウドまで幅広く取り組まれているNTTデータが持つ先端テクノロジーを銀行だけでなく、法人や公共などの分野で展開していただいて、個人個人にまで行きわたるように力を発揮してもらえれば、日本全体が良くなると思っています」(門田氏)

MUFGが進めるデジタライゼーションには、新しいかたちの提案も必要だと言う。

「銀行のシステムは機能や性能の向上とセキュリティ確保の両立が求められるので、新しいテクノロジーの採用に加えて、新しいやり方を合わせて提案してほしいと思っています。例えばセキュリティ対策は堅牢にするだけではなく、別のやり方をすればもっと前向きな対応が可能になるなど、リスクと業務推進を両立できるようなアイデアや考え方を提案してもらいたいと思います」(桑島氏)

「本当にテクノロジーの進歩が早く、一年で状況がまったく異なってしまう時代です。他の産業に比べて古くからシステムを活用してきた私たちも、世の中の変化に乗っていきたいので、早く小さく始められる提案をいただけるとありがたい。従来のシステム開発の手法では通用しない部分へのチャレンジに期待しています」(平林氏)

  • 所属・役職は取材当時のものです

お客様プロフィール

お客様名

株式会社三菱UFJ銀行

本社所在地

東京都千代田区丸の内二丁目7番1号

設立

1919年(大正8年) 8月15日

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